分類・文
児童小説 やットコ さットコ まットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
(5)
真夏の昼間、遠くで入道雲がニョキニョキと湧いてきて、真っ青な空を少しずつ隠していくように動いているのがよく見えます。
家の近くではミンミンゼミがうるさいほど鳴いていて、道を通る人は顔の汗をハンカチでぬぐいながら気だるそうに歩いていきます。
それくらい日中は暑かったのでする
熱い太陽が西に沈み、街路灯が明るく感じる時間になったら、いくらか涼しくなってきました。
正哉が、やットコ親子の家にキャットフードをあげに行ったら、珍しくやットコだけがいて母親猫がいません。いつもの反対です。
「やットコ、お母さんはどうした?」
正哉が聞くと一言「ミャー」と言っただけでそっぽを向いてしまいました。
「知らない」と言ったように聞こえました。
いつもと違って、しぐさで淋しそうな表情が正哉にはよく分かります。
「ああ、分かった。やットコは家にお母さんがいないと淋しいんだ。心配しなくてもだいじょうぶだよ、必ず帰ってくるから」
正哉は、おとなしくなったやットコを元気付けて家に戻りました。
宿題を終えて9時の寝る時間が近づいてきたので、もう1度やットコの様子を見に行ったら、やっぱり母親猫はいませんる
正哉は不安になってきたので、やットコを抱き上げてお母さんに事情を話し、一緒に寝てあげることにしました。
「いいかい、今夜ひと晩だけだよ明日はまた親子でいっしょに寝るんだよ」
正哉は、やットコに話しながら蒲団の中に入れてあげました。
約半年前にチロと寝たときの思い出と重なりましたが、チロは病気だったし、やットコは母親猫がまだ帰っていないという理由で寝るのだから、正哉にとっては気持ちがうんと楽でした。
やットコも、最初のうちは起き上がろうとしたり寝返りを打ったりして、居心地が悪そうにしていましたが、いつの間にか正哉よりも早く寝入ってしまいました。
正哉は、やットコが大きくなってから、こうしてそばで寝顔を見るのは初めてなのです。よく見ていると鼻筋に白粉(※おしろいで、化粧に使う白い粉)を塗ったように真っ白で、顔もキリッと引き締まってきたので、生まれた時とはずいぶん違ってきています。
「こいつは美男子になるな」と正哉は思うと自分のことのように嬉しくなってきました。
(続)
児童小説 やットコ さットコ まットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
(5)
真夏の昼間、遠くで入道雲がニョキニョキと湧いてきて、真っ青な空を少しずつ隠していくように動いているのがよく見えます。
家の近くではミンミンゼミがうるさいほど鳴いていて、道を通る人は顔の汗をハンカチでぬぐいながら気だるそうに歩いていきます。
それくらい日中は暑かったのでする
熱い太陽が西に沈み、街路灯が明るく感じる時間になったら、いくらか涼しくなってきました。
正哉が、やットコ親子の家にキャットフードをあげに行ったら、珍しくやットコだけがいて母親猫がいません。いつもの反対です。
「やットコ、お母さんはどうした?」
正哉が聞くと一言「ミャー」と言っただけでそっぽを向いてしまいました。
「知らない」と言ったように聞こえました。
いつもと違って、しぐさで淋しそうな表情が正哉にはよく分かります。
「ああ、分かった。やットコは家にお母さんがいないと淋しいんだ。心配しなくてもだいじょうぶだよ、必ず帰ってくるから」
正哉は、おとなしくなったやットコを元気付けて家に戻りました。
宿題を終えて9時の寝る時間が近づいてきたので、もう1度やットコの様子を見に行ったら、やっぱり母親猫はいませんる
正哉は不安になってきたので、やットコを抱き上げてお母さんに事情を話し、一緒に寝てあげることにしました。
「いいかい、今夜ひと晩だけだよ明日はまた親子でいっしょに寝るんだよ」
正哉は、やットコに話しながら蒲団の中に入れてあげました。
約半年前にチロと寝たときの思い出と重なりましたが、チロは病気だったし、やットコは母親猫がまだ帰っていないという理由で寝るのだから、正哉にとっては気持ちがうんと楽でした。
やットコも、最初のうちは起き上がろうとしたり寝返りを打ったりして、居心地が悪そうにしていましたが、いつの間にか正哉よりも早く寝入ってしまいました。
正哉は、やットコが大きくなってから、こうしてそばで寝顔を見るのは初めてなのです。よく見ていると鼻筋に白粉(※おしろいで、化粧に使う白い粉)を塗ったように真っ白で、顔もキリッと引き締まってきたので、生まれた時とはずいぶん違ってきています。
「こいつは美男子になるな」と正哉は思うと自分のことのように嬉しくなってきました。
(続)