分類・文
児童小説 まットコ さットコ やットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
(9)
1羽のセキレイが、庭の芝生に口ばしを突きながら虫を食べているようです。
尻尾を上下に揺らして、ちょこちょこと忙しそうに動き回っています。セキレイはスズメぐらいの大きさで、身体が白と黒の色をしている小鳥です。
人を見てもすぐには逃げないで、首をかしげながらしばらく様子を見て安全だと思うと、またちょこちょこと忙しそうにしてエサを食べ始めます。
ところが今日は少し様子が変なのです。
人ではなく、庭の草むらの陰に何かいるのをセキレイはさっきから気付いています。 どうも気になって仕方がないようで、エサを食べるのをやめて確かめようとしました。
草むらから見えたり見えなくなったりするものがあるのです。
よく、お祭りや縁日などで長~い風船をふくらませて、ねじりながら動物の形にするあの風船に似ています。
草むらから真っすぐ上に伸びてクニャクニャと曲がったと思うと、また引っ込んでしまい今度はちょっとだけ見えたりします。
セキレイはエサを食べるのを忘れてしまい、その動きにすっかり興味を持ってしまいました。
あい変らず、いろんな形にして見せている謎の風船のような正体はじつは、やットコの長い尻尾だったのでした。
セキレイが気をゆるめた瞬間に、やットコが草むらから一気に飛び出しました。
「あっ」
セキレイが、あわてて羽を伸ばそうとした時には、やットコのするどい目は金色に光って身動きがとれなくなってしまいました。
正哉が学校から帰ってきて、2階の勉強部屋にカバンを置きに行った時のことです。 いきなり「うわー」と大声をあげました。
お母さんが驚いて2階に上がっていくと、勉強部屋のドアのところに死んだ鳥が置かれてあったのです。
「これって絶対に、やットコのしわざだ」
正哉が怒った顔をして、はき捨てるように言いました。
さすがのお母さんも、びっくりしたようでしたが「やットコから正哉へお礼の気持ちで置いてくれたのよ。いつもお世話になっていますっていう感じで」
お母さんが機転(とっさの思いつき)をきかして、正哉になだめるように言いました。
「いらないよ!こんなもの」
正哉はまだ怒りが腹の中で充満しています。
「動物は人間と考えはそんなに変わらないんだよ。やットコだって人間と同じように働いてお金をかせげれば、正哉には本当に喜ぶものをプレゼントしてくれると思うの。だけど。、やットコにはそれが出来ないから精一杯の贈り物として鳥を選んだのよ」 お母さんの話は、いつも説得力があるから、聞いている内にだんだん本気になってしまう魔法の力があります。
「それとさ……」お母さんの話はまだ続きます。
「やットコが来たらほめてあげることが大事よ。決して怒ってはだめだからね。自分ではせっかく良いことをしたと思っているのに叱られたら正哉だっていやでしょう」
お母さんに念を押されてしまいました。
気ままでやんちゃ坊主のやットコが夜の8時ごろになって帰ってきました。
いつもだと正哉が寝たころに、そっと蒲団の中にもぐり込んでくるのですが、今夜に限って「ミャー」と鳴いて正哉のそばに寄ってきました。
「ほらー、来た」
お母さんは正哉と目が合うとウインクをして、やットコに向って、あごをしゃくって見せました。
「やットコ、今日はありがとう。ボクのために持ってきてくれたんだねー」
正哉が、やットコの頭をなでてやると、尻尾を上げて得意そうな顔で正哉を見ました。
やっぱり、お母さんが言ったように驚かそうと思って置いたんじゃなくてボクを喜ばせようとしたんだ、と思ったら複雑な気持ちになりました。 (続)
児童小説 まットコ さットコ やットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
(9)
1羽のセキレイが、庭の芝生に口ばしを突きながら虫を食べているようです。
尻尾を上下に揺らして、ちょこちょこと忙しそうに動き回っています。セキレイはスズメぐらいの大きさで、身体が白と黒の色をしている小鳥です。
人を見てもすぐには逃げないで、首をかしげながらしばらく様子を見て安全だと思うと、またちょこちょこと忙しそうにしてエサを食べ始めます。
ところが今日は少し様子が変なのです。
人ではなく、庭の草むらの陰に何かいるのをセキレイはさっきから気付いています。 どうも気になって仕方がないようで、エサを食べるのをやめて確かめようとしました。
草むらから見えたり見えなくなったりするものがあるのです。
よく、お祭りや縁日などで長~い風船をふくらませて、ねじりながら動物の形にするあの風船に似ています。
草むらから真っすぐ上に伸びてクニャクニャと曲がったと思うと、また引っ込んでしまい今度はちょっとだけ見えたりします。
セキレイはエサを食べるのを忘れてしまい、その動きにすっかり興味を持ってしまいました。
あい変らず、いろんな形にして見せている謎の風船のような正体はじつは、やットコの長い尻尾だったのでした。
セキレイが気をゆるめた瞬間に、やットコが草むらから一気に飛び出しました。
「あっ」
セキレイが、あわてて羽を伸ばそうとした時には、やットコのするどい目は金色に光って身動きがとれなくなってしまいました。
正哉が学校から帰ってきて、2階の勉強部屋にカバンを置きに行った時のことです。 いきなり「うわー」と大声をあげました。
お母さんが驚いて2階に上がっていくと、勉強部屋のドアのところに死んだ鳥が置かれてあったのです。
「これって絶対に、やットコのしわざだ」
正哉が怒った顔をして、はき捨てるように言いました。
さすがのお母さんも、びっくりしたようでしたが「やットコから正哉へお礼の気持ちで置いてくれたのよ。いつもお世話になっていますっていう感じで」
お母さんが機転(とっさの思いつき)をきかして、正哉になだめるように言いました。
「いらないよ!こんなもの」
正哉はまだ怒りが腹の中で充満しています。
「動物は人間と考えはそんなに変わらないんだよ。やットコだって人間と同じように働いてお金をかせげれば、正哉には本当に喜ぶものをプレゼントしてくれると思うの。だけど。、やットコにはそれが出来ないから精一杯の贈り物として鳥を選んだのよ」 お母さんの話は、いつも説得力があるから、聞いている内にだんだん本気になってしまう魔法の力があります。
「それとさ……」お母さんの話はまだ続きます。
「やットコが来たらほめてあげることが大事よ。決して怒ってはだめだからね。自分ではせっかく良いことをしたと思っているのに叱られたら正哉だっていやでしょう」
お母さんに念を押されてしまいました。
気ままでやんちゃ坊主のやットコが夜の8時ごろになって帰ってきました。
いつもだと正哉が寝たころに、そっと蒲団の中にもぐり込んでくるのですが、今夜に限って「ミャー」と鳴いて正哉のそばに寄ってきました。
「ほらー、来た」
お母さんは正哉と目が合うとウインクをして、やットコに向って、あごをしゃくって見せました。
「やットコ、今日はありがとう。ボクのために持ってきてくれたんだねー」
正哉が、やットコの頭をなでてやると、尻尾を上げて得意そうな顔で正哉を見ました。
やっぱり、お母さんが言ったように驚かそうと思って置いたんじゃなくてボクを喜ばせようとしたんだ、と思ったら複雑な気持ちになりました。 (続)