分類:地
飲み別れの水とも言われた秘水 場所:いわき市鹿島町走熊字柳作12 渡辺宅の私道脇
今では余り知られなくなったが、磐城三十三所観音霊場の17番札所(高照山十一面観世音菩薩)の上り口付近に、山から湧き出てくる水があります。 これを「小井戸の水」といって、地元の人たちはこの近くを通る時、ちょっと寄って柄杓(ひしゃく)で一杯飲んでいったものです。 《1年を通して、雨が降ろうが降るまいが、湧き出る水は一定の量に決まっている小井戸》
この小井戸には謂(いわ)れがあって、その昔、渡辺家の先祖がの一大行事として毎年、旧暦7月17日に行われる高照山での獅子舞奉納と、お参りで登山する人達の身体を清め、喉の渇きを癒すために作ったものなのだそうです。
いつの間にか、人々は「小井戸の水」とか「観音様の御水垂(おみたらし)」と呼ぶようになりました。岩盤を掘り下げた割れ目から湧き出てくる清水は、美味しくて身体に良いとされて、農作業の合間に口にしていた水でもあるし、汲んで家に持ち帰る人たちもいたくらいだから聖水としても尊ばれたのです。
身体をこわして病で床に伏したり、死期を悟ったりした人たちは、最後に「小井戸の水が飲みたい」と家の者に頼んで美味そうに飲んだそうなのです。現在では、ミネラルウォーターや清涼飲料水などが豊富に出回り、上下水道も整備されているから、口伝てに聞く人もいなくなり、すっかり忘れ去られたようですが、「小井戸」は今でも山草に隠れるようにして静かに聖水を湧き出しています。
2011・3・11に発生した東日本大震災の時には、断水騒ぎが起りましたが「小井戸の水」は正に今でも貴重な恵みの水であったのです。