分類・文
児童小説 まットコ さットコ やットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
《美代ちゃーん、さようならー。みんないつまでも手を振っていました》
(13)
学校の授業が終わって、先生がみんなにお話があると言った時にはクラスのおしゃべりが一瞬止まりました。
「みなさんにお伝えしなければなりません。それは今日の授業で、杉山美代子さんはこの学校とお別れになります」
「えー」「なんで!」
誰もが驚いて教室の中はまた、ざわめきが起こります。
美代ちゃんが学校からいなくなるということは知っていたのですが、まさか今日で終りとは思っていなかったからです。
先生は両手を肩あたりまで上げてブラブラ振ってみせ「静かに、静かに」と言いました。
「杉山さんは、新学期から九州の宮崎県という所へ行ってしまいます。小学1年生からずっと一緒だった皆さんには残念なことだけど、お父さんの転勤のためで仕方がありませんね。でも、いわき地方では桜がまだ固いツボミだというのに、杉山さんが行く宮崎県ではもう花が咲いているんですって! きっと杉山さんが行った時に歓迎してあげようと桜の花が待ちかねているんですね……。それでは杉山さんからお別れの言葉を聞きましょうね」
いよいよ美代ちゃんとはお別れの時がきて、美代ちゃんが教壇の上に立つとクラスのみんなに挨拶をしました。
「私は、この土地で生まれてこの学校で勉強ができたのはとてもうれしかったです。そして仲良しの友達もいっぱいできたのは誇りに思っています。大人になったらまた来て住みたいです。ありがとうございました」
美代ちゃんは涙が出るのをこらえて言っていたので、クラスの仲間もすすり泣きをはじめました。
正哉も思いっきり泣きたいのですが、なるべく我慢をしていようという気持ちが、こみあげてくる涙に負けてしまい、やっぱり自然と涙が出てきてしまいました。
それでも他の生徒には気付かれないように時々、あわてて人差し指で涙をぬぐっています。
「みんなで杉山さんを拍手で送ってあげましょうね」
先生も涙が出るのをこらえているのでしょうか、笑顔を見せながら身体が小刻みにふるえているのが正哉にはよく分かりました。
校門までクラス全員で送っていくことに決まり教室から廊下に出ると、みんなが美代ちゃんを取り囲むようにして最後となる話かけをしています。
「美代ちゃん元気でね」
「夏休みに来られないの?」
いろんなことを話したり聞いたりしているのは、ほとんど女子生徒です。
「ここの学校のこと忘れるなよ」
校門の近くまで来ると、女子生徒の会話に割り込んで正哉が思い切って言いました。 その時に美代ちゃんが振り向いて、正哉と目が合いました。
美代ちゃんは、正哉が「ボクのこと忘れるなよ」と言ってくれたような感じがしました。
でも、それは当たっていました。 (続)
児童小説 まットコ さットコ やットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
《美代ちゃーん、さようならー。みんないつまでも手を振っていました》
(13)
学校の授業が終わって、先生がみんなにお話があると言った時にはクラスのおしゃべりが一瞬止まりました。
「みなさんにお伝えしなければなりません。それは今日の授業で、杉山美代子さんはこの学校とお別れになります」
「えー」「なんで!」
誰もが驚いて教室の中はまた、ざわめきが起こります。
美代ちゃんが学校からいなくなるということは知っていたのですが、まさか今日で終りとは思っていなかったからです。
先生は両手を肩あたりまで上げてブラブラ振ってみせ「静かに、静かに」と言いました。
「杉山さんは、新学期から九州の宮崎県という所へ行ってしまいます。小学1年生からずっと一緒だった皆さんには残念なことだけど、お父さんの転勤のためで仕方がありませんね。でも、いわき地方では桜がまだ固いツボミだというのに、杉山さんが行く宮崎県ではもう花が咲いているんですって! きっと杉山さんが行った時に歓迎してあげようと桜の花が待ちかねているんですね……。それでは杉山さんからお別れの言葉を聞きましょうね」
いよいよ美代ちゃんとはお別れの時がきて、美代ちゃんが教壇の上に立つとクラスのみんなに挨拶をしました。
「私は、この土地で生まれてこの学校で勉強ができたのはとてもうれしかったです。そして仲良しの友達もいっぱいできたのは誇りに思っています。大人になったらまた来て住みたいです。ありがとうございました」
美代ちゃんは涙が出るのをこらえて言っていたので、クラスの仲間もすすり泣きをはじめました。
正哉も思いっきり泣きたいのですが、なるべく我慢をしていようという気持ちが、こみあげてくる涙に負けてしまい、やっぱり自然と涙が出てきてしまいました。
それでも他の生徒には気付かれないように時々、あわてて人差し指で涙をぬぐっています。
「みんなで杉山さんを拍手で送ってあげましょうね」
先生も涙が出るのをこらえているのでしょうか、笑顔を見せながら身体が小刻みにふるえているのが正哉にはよく分かりました。
校門までクラス全員で送っていくことに決まり教室から廊下に出ると、みんなが美代ちゃんを取り囲むようにして最後となる話かけをしています。
「美代ちゃん元気でね」
「夏休みに来られないの?」
いろんなことを話したり聞いたりしているのは、ほとんど女子生徒です。
「ここの学校のこと忘れるなよ」
校門の近くまで来ると、女子生徒の会話に割り込んで正哉が思い切って言いました。 その時に美代ちゃんが振り向いて、正哉と目が合いました。
美代ちゃんは、正哉が「ボクのこと忘れるなよ」と言ってくれたような感じがしました。
でも、それは当たっていました。 (続)