分類・文
児童小説 まットコ さットコ やットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
(7)
朝夕は半そでシャツでは、ちょっと寒さを感じる季節になりました。もう近くまで秋がやってきたことを知らせています。
正哉が学校から帰ってきて友達のところへ遊びに行こうとした時に、となりのブロック塀の上で2匹の猫が向かい合って、うなり声を上げているのを見かけました。
正哉は立ち止まって、そっと見ていましたが両方とも正哉がいることに気が付きません。
1匹は、やットコで、もう1匹は見たことがないドラ猫です。
やットコよりも一回り大きくて灰色のうす汚れた猫は、するどい目を光らせながら、やットコをにらんでいます。
やットコの表情は正哉からは後ろ向きになっているのでさっぱり分かりません。
やットコが負けるのは悔しいので、正哉はかがみながら静かに猫のそばへ寄っていきます。
もし、やットコが負けそうになったら加勢をしてやろうと思ったからです。
2匹の猫は「ウー」「ウオー」、いろんな声を出してまだうなっています。お互いに、けんせい(牽制=相手をひきつけて自由にさせないこと)しているのです。
いっしゅん目を離した時でした。「ギャー」という大声がしたので正哉があわてて立ち上がったら、ドラ猫が塀から飛び降りて一目散に逃げていく姿が見えました。
やットコが先制攻撃をして、相手を追い払ってしまいました。
正哉はその強さにビックリしました。
いつだったかお父さんから「ヤットコは猫本来の野生的な血を継いで生まれてきた」というようなことを聞いたけど、本当にそうだったんだと改めて思いました。
今日の出来事をお父さんとお母さんに話したら「それは野良猫が、やットコの行動範囲の中に入り込んだので、やットコが必死になって追い出そうとしたんだよ。猫はそれぞれ縄張(なわば)りというものがあって、自分の勢力を示す場所が決まっているから、そこへ他の猫が入ると怒るのさ」
お父さんは猫のことについて詳しいなと正哉は感心してしまいました。
「それじゃ戦争をしているのと同じだね」
「その通り。もし、やットコが今日の戦いで負けたとすると自分の陣地を取られたことになるから、今いる場所を全部明け渡さないといけなくなるんだ」
「分かった。だから、やットコは昼間はジッとしていないで、いつも動き回って自分の陣地に敵が入ってこないように守っているんだね」
正哉はなっとくして、猫の世界もきびしいんだなと真剣に思うようになりました。
(続)
児童小説 まットコ さットコ やットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
(7)
朝夕は半そでシャツでは、ちょっと寒さを感じる季節になりました。もう近くまで秋がやってきたことを知らせています。
正哉が学校から帰ってきて友達のところへ遊びに行こうとした時に、となりのブロック塀の上で2匹の猫が向かい合って、うなり声を上げているのを見かけました。
正哉は立ち止まって、そっと見ていましたが両方とも正哉がいることに気が付きません。
1匹は、やットコで、もう1匹は見たことがないドラ猫です。
やットコよりも一回り大きくて灰色のうす汚れた猫は、するどい目を光らせながら、やットコをにらんでいます。
やットコの表情は正哉からは後ろ向きになっているのでさっぱり分かりません。
やットコが負けるのは悔しいので、正哉はかがみながら静かに猫のそばへ寄っていきます。
もし、やットコが負けそうになったら加勢をしてやろうと思ったからです。
2匹の猫は「ウー」「ウオー」、いろんな声を出してまだうなっています。お互いに、けんせい(牽制=相手をひきつけて自由にさせないこと)しているのです。
いっしゅん目を離した時でした。「ギャー」という大声がしたので正哉があわてて立ち上がったら、ドラ猫が塀から飛び降りて一目散に逃げていく姿が見えました。
やットコが先制攻撃をして、相手を追い払ってしまいました。
正哉はその強さにビックリしました。
いつだったかお父さんから「ヤットコは猫本来の野生的な血を継いで生まれてきた」というようなことを聞いたけど、本当にそうだったんだと改めて思いました。
今日の出来事をお父さんとお母さんに話したら「それは野良猫が、やットコの行動範囲の中に入り込んだので、やットコが必死になって追い出そうとしたんだよ。猫はそれぞれ縄張(なわば)りというものがあって、自分の勢力を示す場所が決まっているから、そこへ他の猫が入ると怒るのさ」
お父さんは猫のことについて詳しいなと正哉は感心してしまいました。
「それじゃ戦争をしているのと同じだね」
「その通り。もし、やットコが今日の戦いで負けたとすると自分の陣地を取られたことになるから、今いる場所を全部明け渡さないといけなくなるんだ」
「分かった。だから、やットコは昼間はジッとしていないで、いつも動き回って自分の陣地に敵が入ってこないように守っているんだね」
正哉はなっとくして、猫の世界もきびしいんだなと真剣に思うようになりました。
(続)