九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

随筆紹介  「草 餅」    文科系

2019年06月05日 14時34分49秒 | 文芸作品
 草 餅   K・Kさんの作品です

 暖かい日が続きヨモギの新芽が顔を出した。ヨモギを見ると草餅を思い出す。岐阜県の夫の実家では、春になると餅をつき草餅を作った。鮮やかな緑色につやつやの餡子。口の中いっぱいにヨモギの香りがした。
 大人の握りこぶしくらいの大きさでおよそ百個はあっただろう。こんなに沢山どうするのだろうと心配した。でも夫の父は「うまいな、今日はこのくらいにしておこう」言いながら三、四個はぺろりと平らげる。目はまだたっぷりある草餅に未練を残しながら。義兄家族も次々と手を伸ばし頬張る。二、三個は当たり前。初めて見た時は数の多さと大きさ、食べっぷりに圧倒された。

 私の実家に夫が来た時、人数分の六個のいろいろな種類の和菓子を用意した。
「どれにする?」夫に聞く。
「全部食べられるけど」呟きながら遠慮して一つをパクリ。
 私は「中は粒あん?こし餡?それとも白あん?」と聞いた。夫は「甘い。美味しい」と言うだけ。
 私の実家では半分に切って餡の種類を楽しんでいたのだ。「饅頭を切るとは思わなかったよ」夫は驚いていた。

 それにしても百個と六個ではかなわない。夫の実家は体も大きく豪快だった。私の家族は小柄で食も細い。習慣の違いに戸惑う事も多かった。ヨモギを見るといまだに草餅のあの味を求めてしまう。
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「米こそ脅威、恐怖」示す文書  文科系

2019年06月05日 11時54分41秒 | 歴史・戦争責任・戦争体験など
 健康診断の病院でニュースウイークを読む機会があったが、数冊を読み通して、驚いた記事があった。米諜報機関や軍関係者が反米国などに行ってきた所業を自らまとめた文書である。アフガン、イラク戦争まで50年以上もの対策のやり方が、どの国に対してもこの三項目にまとめられているという。自らこんな文書をまとめるって、どういう動機からなのだろう。過去の問題だからもう公表しても良いというだけでは、ないはずだ。半ば公然たる歴史的事実になっていることだし、反米国に対しては今後もこんな方針で行くから「よろしく」という、脅しの文書でもある?

①その国に対して「混乱」を造成する。
②反米の動きなどを「抑圧」する。
③そして、政権を「転覆」する。
 
 分かるように、最初から転覆をも念頭に置いて「抑圧」に出るために、混乱を起こすのだ。親米を増やすだけでなく、反米行動とか、反とか親の政府行動とかも焚き付けたりするのだろう。どんなやり方でも混乱を引き起こせばよいのだから、とにかくその国を「暴動」にまで持って行くのである。例えばアラブの春のように。そこで、米軍などが抑圧に掛かる。言ってみるならば治安行動とか米人保護とかの名目なのか。そして最後は、チリのように政権転覆に漕ぎ着けるということ。

 今の世界でも、こんな例があちこちで起こされている。米長年の仇敵イランが米や隣国に対して現在「超緊張状態」「脅威」を起こしていると日本でも日夜伝えられているし、この4月までのベネズエラが「混乱」を極め、米の「武力介入」という「抑圧」が呼号、通告されるに至っていた。
 中国のウイグル問題も、同様の画策があることは既に世界的に知られている。それどころか、ウイグルのイスラム教徒が中東のISなどと人的往来があることも世界既知の事実である。
 ちょっと古く米ソ冷戦時代には、アフガンのタリバンに軍事訓練などを施して反ソ行動に走らせ、親ソ政権を潰した後にタリバン政権を樹立させた。ところが21世紀になると、この政権に対してアフガニスタン戦争を起こして、これを潰している。これだけの歴史的混乱があるからこそ、米軍のアフガン駐留をいまだに続けざるを得ないのだ。この間中現に今も彼の地で亡くなっている米軍の若者は、一体何のために死んでいくのか?

 自国産品が売れず物作りが衰退して、国家ぐるみ経済の比重がどんどん軍事産業や軍に偏ってきて、今やどんどん斜陽の米だから、こういう他国搾取の動きはさらに進んでいくだろう。サブプライムバブルなど、世界的な金融自由化による合法的金融搾取も進み、深化してきたことだから、憎まれてもいるのである。
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今夜、五輪サッカー前哨戦放映  文科系

2019年06月04日 13時12分08秒 | スポーツ
 今夜、標記の闘いがHNK・BS1で放映される。日本代表は22歳以下の選手によるトゥーロン国際大会のグループリーグ第2戦が、23時から。今夜の相手は、南米の強豪チリ。第一戦のこの代表は、ここで3連覇中のイングランドを2対1で破った。日本のこの闘いを僕も観たのだが、本当に素晴らしかったのである。

 従来からの組織的繋ぎのサッカーに、強い当たりをものともしないボール奪取の逞しさが加わっていた。そういう育成が成されるようになってきたということだろうと、目を見張りつつ観ていたものだ。この年代で外国と当たりあい、相手ボールをつぶし合って一歩も引かぬと言えば、僕はよく中田ヒデを思い出すのだが、正にそんな選手ばかり。これは、ゲーゲンプレスに象徴される世界の最先端潮流をも見事に消化しているということだ。

 ロシアW杯ベルギー戦で世界を深閑とさせた日本が、その前進、進化をさらに加速しているというそんな証明になるゲームが、今夜も観られるだろう。世界順位20位以内も間もなくだと、自信を持って断言しておきたい。川崎、名古屋、鹿島、横浜などの最近の闘いは、過去の日本にはなかった種類のものだ。ボールを失うことを躊躇せずに大胆に攻め、ボールを取られればすぐに相手を囲い込むようにしてそのボールを潰す・・・。このように、相手ボールを潰す自信があればこそ、さらに大胆に攻められるという、ゲーム中にどんどん育って行く攻守の良循環! 僕にはそれがとても心地よい。組織的ボールゲーム、スポーツの原点を観るような気がして・・・。


 なお明日水曜日の僕は、豊田スタジアムへ日本フル代表戦を見に行く。お婿さんの努力で券が取れたからだ。お目当ては、ここで09年から追いかけ続けてきた岡崎慎司と柴崎岳。今年化けた久保君も、特にその柔らかい、身体に吸い付くようなボールタッチを生で見るのが楽しみだが、彼らのボールのない所での動きがみえるから、テレビとちがってそこが面白い! ただ、柴崎と久保君は両立しないかも知れない。岡崎は、先発はなくとも出場はするだろう。大迫というあれほどの化け物が日本人から出て来たのだから、岡崎も可哀想だ!
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トランプ貿易戦争はただのアホ   文科系

2019年06月04日 11時17分17秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)


 これも「マスコミに載らない海外記事」のサイトから取った。ただし題名はちょっと僕が変えた・・・。だって、この記事の内容からしたら、トランプの新政策はほとんどはただのアホなのだから。そもそも、ボルトンやポンペオのやっていることを大統領としてちゃんと掌握しているかさえ、怪しい。かてて加えて、思いつきの新政策連発にきちんとした背景資料、その下調べがあるかどうかさえ、イーカゲンとしか思えないのである。やっていることが支離滅裂になっている。


【 トランプのアメリカはサドマゾなのか、それともただの全くの阿呆なのか?Finian Cunningham  2019年5月27日  Strategic Culture Foundation

 何度も墓穴を掘ってきたトランプ政権が、まだ立っていられるのは驚くべきことだ。ベネズエラやロシアや中国やヨーロッパやイランや世界の他の国々に対して、ワシントンはグローバル権力としての自身の信頼性、そして究極的には、その寿命に穴を開け続けている。トランプ政権はサドマゾなのか、それとも単なる全くの阿呆なのだろうか?

 ロシア原油のアメリカ輸入が去年と比較して今年3倍になる予定だとというブルームバーグの報告を見よう。2017年の値を基本にすれば、ロシア石油のアメリカ輸入は、10倍増になる。なぜだろう? なぜならトランプ政権が、おそらく南米の国を「参ったと言わせ」、ニコラス・マドゥロ大統領に政権交代を強いるための「スマートな」戦略で、かつて最大の供給国ベネズエラに制裁を課したからだ。

 その通り、それでアメリカ経済を存続させるため、結果として生じたアメリカ製油所の不足に対して埋め合わせをするため、ワシントンはロシアのような代替供給源に頼らなければならないのだ。だが、ちょっとお待ち願いたい。ロシアは「悪人」のはずだ。アメリカは、ウクライナを不安定にし、クリミアを併合し、アメリカ選挙に干渉したとされることに対し、モスクワに制裁を課したのだ。これらアメリカ制裁の一部は、思うに「モスクワを痛い目に遭わせる」ため、ロシア石油企業に標的を定めさえした。ところが、ここぞとばかりにロシア石油を買い占めるワシントンがいるのだ。2年で、10倍になりかねない増加、全てトランプが、ロシアの同盟国ベネズエラに違法な政権交代を強制することに固執しているおかげだ。しかも、これは、ヨーロッパがエネルギーでロシアに依存するというワシントンの非難で、ロシアとのノルド・ストリーム2プロジェクトに関しヨーロッパに制裁を課すと脅している同じアメリカなのに留意願いたい。はぁ?


 それから中国がある。大きな標的に銃を向けながら、自分の足を撃って墓穴を掘るもう一つの例だ。アメリカの最大輸出対象に対するトランプの「天才的」貿易戦争は、結局、アメリカ消費者と生産者に最も激しく打撃を与えることが分かった。「公正」に対するワシントンの要求に従うよう北京に強いるため、中国商品に課された関税は、ウォルマートのようなアメリカ小売店でのより高い消費者物価となって跳ね返っている。アメリカ農民は、中国への大豆や他の生産物への注文が、トランプ関税への報復として北京によって止められていることに気が付いている。低収入のアメリカ人と農民は、2020年再選のためのトランプ支持基盤のはずだ。

 象徴的なアメリカ・スポーツウェア・ブランドのナイキは、中国とのトランプの貿易戦争に「お手上げ状態」だ。報道によれば、同社は、中国に本拠を置く生産ラインが、中国からの輸出に対するトランプ関税に打ちのめされている靴メーカー170社の一つだ。ナイキは、同社や他のアメリカ・メーカーを、彼の「スマート」関税から免除するよう、トランプに懇願している。

 建前上「自由市場」アメリカは市場原理では競争できないため、トランプ政権は、腕ずくで市場から追放する口実に過ぎない「国家安全保障上の」懸念を理由に、大手ファーウェイが関係する中国の通信機器を禁止している。多くのアメリカ人消費者が実際ファーウェイを使っており、怒っているのに気付いた後、トランプは禁止令を破棄せざるを得ない状態にある。多くのアメリカのハイテク・メーカーは電話製品用としてファーウェイの供給元でもあるのだ。中国企業に対する、トランプの極めてがむしゃらな政策は、アメリカの消費者とメーカーにとって逆効果になっている。

 サプライチェーンと消費者市場が世界的規模で統合されている世界で、トランプ政権がアメリカ貿易から、簡単に中国を締め出せると考えるのはばかげており、自滅的だ。中国との年間貿易赤字は3500億ドルで、アメリカ経済はその存在を対中国輸出に頼っているのだ。トランプがしているように、中国を遮断するのは、自分の顔に腹を立てて鼻を切り落とすも同然だ。


 ヨーロッパを見よう。トランプ政権は、ヨーロッパを多くの問題でいじめている。彼らはNATO軍事同盟に十分金を出していないと絶えず不平を言って、トランプはヨーロッパに、自身のヨーロッパ軍設立検討を強いる結果になった。指導者として、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのエマヌエル・マクロン大統領は、ヨーロッパの国々を、アメリカから自立した国防をするよう駆り立てている。もしNATOがお蔵入りになれば、それはヨーロッパ地政学に対するアメリカ影響力の大黒柱が喪失することを意味する。

 NATOに対するトランプの鼻持ちならない恫喝は多くの問題の一つにすぎない。中国と同様、ヨーロッパも、「温和で」大いに「正義のアメリカ」に「公正でない」かどで非難されているので、彼はヨーロッパからの輸出にも関税を課すことを望んでいる。えっ?


 Finian Cunninghamは、国際問題について多く書いており、記事は複数言語で刊行されている。彼は農芸化学修士で、ジャーナリズムに進むまで、イギリス、ケンブリッジの英国王立化学協会の科学編集者として勤務した。彼は音楽家で作詞作曲家でもある。20年以上、ミラーやアイリッシュ・タイムズやインデペンデント等の大手マスコミ企業で、編集者、著者として働いた。】
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「米のイラン潰し」と、アラブ国からも   文科系

2019年06月04日 11時09分29秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 アメリカ永年の執拗極まるイラン潰し工作がまた一つ暴露された。そんなニュースが今日の中日新聞7面に載っている。左最下段隅近くの小さなその記事の見出しは『イラン非難声明 カタールが賛否を保留』とある。22カ国が参加したアラブ連盟会議のこの声明自身に反対したイラク以外にも、カタールから疑問の声がこの様に上がったと伝えている。

『首脳会議は、イランと周辺国の関係を考慮するのではなく、米国のイラン政策を採択した。外交方針に反する部分があるため保留する』

 それにしても、アメリカが「解放」したはずのイラク政府から、どうして反米にも等しい「イラン潰し反対」の声が上がったのか。フセイン時代から、イラクはイランと仲が悪かったはずだが。

 また、このアメリカのイラン潰しに関連して、最近アメリカから頻繁に激しく喧伝されてきた「イランの脅威」なるものに関わる池上彰の記事を週間文春で読んだが、酷いものだった。「イランがホルムズ海峡を機雷封鎖すると述べている」ということを起こりうる事実と見た「タレ、レバ」の内容なのだ。今時こんなアメリカよりの記事を書くよりも、「イランに戦争を仕掛ける」と長年、明確に叫び続けて来たアメリカの政策、行動を記事にする方が遙かに世界にとって緊急性、切迫性があるはずだ。彼の一つの立場というものを観たような気がしたものだ。
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随筆紹介  熟年離婚?   文科系

2019年06月03日 00時15分09秒 | 文芸作品
  熟年離婚?  S・Yさんの作品です
                                  
 毎日が忙しなく過ぎていく。私はとっくに還暦を過ぎたというのに慌ただしい日々だ。
以前に抱いていた老後の青写真は、子どもたちは巣立ち、自分の時間とお金に余裕ができて自由奔放に暮らしている筈であった。
定年退職した夫との顔を突き合わせた共同生活は十年以上になる。初めは息が詰まりそうだったが、次第に慣れた。それでも朝昼晩の定刻通りの食事の世話は時に嫌になる。様々な病を抱えているくせに、一向に生活習慣を改めない夫にストレスは増すばかり。彼の性格の頑固さに、時折、熟年離婚を想像する。すると、暗雲が晴れたような気分になる。

 先日あるグループの食事会があった。女性ばかり十五人ぐらいで、高齢で夫に先立たれた人や、離婚した人など独り暮らしの人が意外に多い。気ままな独り暮らしだという同年代の女性と話していたら、彼女は自分の晩酌のつまみを用意するだけでもう何十年も料理を作ったことはないという。私が夫や息子の世話で毎晩寝るのが十二時近いと言うと信じられないという顔をした。「みんなの食事が終わるのを待ってるの? なんで自分の食べたものを各自で片付けさせないの?」そう言った。そして、過干渉、過保護だと言われた。

 そうか、そんな暮らし方もあるのか。孫たちや母の世話もあって自分の時間がとれないことに苛立つことが多い昨今。何もかも放り出せたらどんなにか楽だろう。
 私の部屋に相田みつを作品の日めくりカレンダーが掛かっている。今日は「ひとりになりたい ひとりはさびしい」とある。合点した。人とは勝手なもんだ。
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随筆紹介  終のくらし   文科系

2019年06月02日 13時15分05秒 | 文芸作品
 終の暮らし  S・Yさんの作品です


 介護施設での殺人や虐待などの報道を目にすると、胸がざわつくようになった。
母が有料老人ホームに入居しているからだが、最近、頓に不安になる。
 母の部屋は北向きで陽が入らないうえに窓は隣の建物の壁が迫っている。入居してまる二年になるが、なぜ兄夫婦は母をこんな部屋に入れたのか、当時は他に部屋が空いてなかったのかもしれないが、それにしてもだ…。母に面会に行くたびに思うことである。
 母は朝起きて窓のカーテンを開けても目に入るのは土色の壁だけ。お天気が良くてもお日さまも青空も見ることはない。母は外の景観を見ることは皆無だ。逆に廊下を挟んだ向かい側の部屋の窓からの景観はすばらしい。田園が広がり、遠くに山々が望め、成田山や犬山城まで見える。陽が入るので部屋も明るくて暖かい。
 薄暗い部屋の窓際でベッドに腰掛けて折り紙や編み物をしている母を見ると胸がふさがる。陽も入らないので今の時期は寒い。廊下のほうが暖かいぐらいだ。昔の人だから窓からの明かりだけで用が足りる、電気を点けるのは勿体ないと言うのだが、私は部屋に入ると真っ先に明かりを点けて暖房を強にする。
 そんなときに偶然にも向かいの部屋が空いたことがあった。それも三部屋空いたのだ。母は部屋を替わりたいと施設の事務長や介護士に伝えたという。が、聞き入れてもらえなかったらしい。そこで私は生まれて初めて「袖の下」というものを用意した。効果があるのかはわからない。私としては不本意だが、死ぬまであの部屋にいなければならない母を思うと、なりふり構ってはいられない心境だった。
 結果的に「袖の下」を持参した日は、施設側に何かトラブルがあったようで、事務所には多数の人が出入りしていて渡しそびれてしまった。ならばと、次はまず高価な菓子折りを持参して挨拶に行ったのだが、事務の女子しかいなくて話にならない。そのうちに母が、「もういい、もういい。もうこれ以上言うな」と言い出した。なにか母なりに思うところがあったようだ。
 この施設で暮らしているのは母だから、母が居辛くなるようではいけない。そう思った矢先、廊下で若い男性の介護士に私は呼び止められた。マスクをしていたが、私は初めて見る顔だった。彼が小声で私の耳元で言うには、母がこのところ妙なことを言うのだという。箪笥の中からゴキブリが出たとか部屋に誰か入ってくるとか、要は妄想と幻覚があるのだと。早い話、九四歳の婆さんが呆けてきたと言いたいようだ。
 この日、私は息子と連れ立って面会に行ったので、お昼に母を外食に連れ出していた。母は私と孫との久しぶりの外出にとても喜んだ。午前中から六時間ほど一緒にいたが、いつもの母と何ら変わりはなく、相変わらず頭の回転は速く、記憶力は私たちが舌を巻くほど正確で口も達者だった。介護士の言う意味が腑に落ちないが、所詮、私たちはたまに会いにくるだけで、母の日常を知っているのは介護士の人たち。私は母の変化にまったく気づかなかったということか。でも、息子もお祖母ちゃんが呆けているとは思えないという。
「部屋にゴキブリが出るの?」尋ねると「ああ、箪笥の引き出し開けたら飛び出してきてびっくりしたわ」母は笑いながら言った。
 施設から帰るなり、その近辺に住んでいる義妹や姪っ子に電話を入れてみた。彼女らはよく母に会いに行っている。やはり誰もが母が呆けていることに気づいていなかった。
 私は気が滅入って次に母に会うのが怖かった。
 
 半月後、私は独りで母に会いに行った。薄暗い部屋にいつもの元気な母がいる。
 母のお喋りに相槌を打ちながら、えぇっ! 思わず私は叫んでしまった。なんと母はゴキブリを仕留めていたのだ。ゴキブリは居たんだ。幻覚じゃなかったんだ。
「どうやって捕まえたの?」母は足腰が弱っているので敏捷には動けないはずだが…。
「そりゃああれは素早いで簡単にはいかんわ。なに、そのうちに何回もベッドの近くに来るもんで、杖の先で突いた」と言う。ゴキブリの進行方向とスピードを考えて杖を振り下ろし一撃で倒すなんて、宮本武蔵並みの婆さんだ。ゴキブリは羽が少しもげただけで形態は保っていたので、介護士にわかるように部屋の出入り口にしばらく置いておいたそうだ。母の部屋に侵入して引き出しやカバンを触るのは、近くの部屋のホントに呆けた婆さんで、母の妄想ではなくて事実だった。母は部屋にカギを掛けるようにと言われたそうだ。
 母は自分のことは大方できる。洗濯も最近では大物以外は自分でして、陽の当たらない窓辺に干している。器用なので、手芸作品や折り紙の作品をせっせと作り、部屋中に飾り、食堂やイベント会場まで母の作品が飾ってある。
 薄暗い部屋で読書をしたり、作品を作っている母を見て、施設の人たちは何にも感じないのだろうか。いやそれにもまして、そこに入居させた兄夫婦も何も感じないとしたら想像力が著しく欠如した人たちだろう。景観のいい部屋に入居している人たちは認知症で車椅子が多く、介護士の目の届く食堂に連れてこられている時間が長い。比べて一日中暗い独房のような部屋にいる母が哀れでならない。母は介護認定が受けられない要支援なので、国からの補助がない。施設側は介護認定が重い人ほど補助金が沢山入り、儲かるシステムなのだとか。母のような人は世話はかからないがお金も入らないということなのか。
 夜、ベッドに入り、窓から夜空を見上げると空気が澄んで月がくっきりと浮かんでいる。ああ、母はお月さまも星空も見ることができないんだ。自宅にいるときは気ままに散歩もできたのに、今は施設から一歩も出られない。私は今夜もまた寝付けそうにない。
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随筆   こんな赤ワインを待っていた   文科系

2019年06月02日 01時10分41秒 | 文芸作品
 こんな赤ワインを待っていたという話をしよう。大衆ワインの歴史の試練が浅い日本では、特に必要な話だろうと前置きして。
「ちょっと良い箱ワイン」が、とうとう出てきた。初めから言っておくとオーストラリアからの輸入で、ボルトリ・カベルネ・プリミウムリザーブという2リットルの商品である。値段は1580円也。

 日本の箱ワインの歴史は実に浅く、僕の経験では良いものは全くなかった。
「こんな安いワインをどうして壜ばかりで売るのだろう?」
「だからこそ、箱ワインなどはっきり言って安かろうというものばかりじゃないか」
「そんなはずはない。ちょっと良い箱ワインがいつか必ず出てくる」
 僕は待ちに待っていたのである。ちなみに、現在78歳の僕は30年を超える「毎晩の晩酌は赤ワイン」という歴史を持っている。それも毎晩のワインだから手頃な値段で良い品を探してくるというのを、最大の趣味の一つにしてきた歴史だ。

 ここで僕なりの良いワインの定義をしておこう。ワインの質はブドウの質で決まり、その良いワインのブドウというのは太陽がいっぱい当たって育ち、かつ水っぽくないブドウと言うに尽きる。甘みも渋みも強くって、プラス香りが少々高ければそれが良いワインと、僕なりに考えてきた。ただ、こういうブドウで作ったワインは味が濃過ぎるから、良い樽で長く寝かせてこそ本当に良いワインになるのだが、そういうワインは皆高価だからその中間の品ということだ。若くても飲める程度の適当に濃いブドウで、香りが高ければ良い、と。このボルトリカベルネは、壜にしたら2000円近い価値があるのではないか。ワインって本当に値段じゃないと改めて思ったことだった。

 オーストラリアから良い箱ワインが入ったというのは、それなりの必然性があると思う。日本へは輸送費が高いから、コルクも倹約してスクリューをという近年のワイン王国なのだ。箱ワインなら輸送代がなお安くて済むということだろう。ちなみに、僕がオーストラリアワインを知ったのは、2005年に3か月ほど、シドニーにホームステイしていた時だった。手頃な値段の美味しいワインの多い国だと知ったのである。ちなみに、スペインのワインも過小評価されすぎだと思う。テンプラニージョというスペインブドウを美味しいと思う人ならば1000円も出せば十分、同じ値段のチリワインを買うよりもはるかにお値打ちである。
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