九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

2日前の随筆の書き直し  文科系

2009年11月22日 17時07分27秒 | 文芸作品
二日前の随筆「『新しい友の話』後日談」を所属文芸誌用に書き直した物を転載してみました。ご笑覧を。


「音楽」の友達    

 今朝、ギター仲間Nさんからこんなメールがあった。冒頭の文言からして、その嬉しさのほども分かろうというもの。『おはよう? こんな時間に目を覚ましてしまった。でも善は急げ、朗報です』 午前二時四四分発送とある。
 【昨日レッスンが終わってからAさん宅に行ってきました。彼から「一度私の『月光』を聴いて欲しい」ということで。結論は、大変驚いた。半年くらい前に聴いたのとは違い格段に上達されていたので。ゆっくりたんたんと、そしてしっかりとしたテンポとタッチ。私も要望されて『月光』を弾いたが、確実に私の負け。でも嬉しくって涙が出てきた。絶対に人前で曲を弾かなかった彼が「自分の演奏を聴いて欲しい」という気持ちになったということが嬉しかったなぁー。忘年会のことも快諾と書かれていたようにあなたとの再会も楽しみにされていましたよ。そこで未だ予約をしていませんが、忘年会を下記のように決めようと思っています。(以下略)】
 僕が三人の忘年会を受けたのは言うまでもない。ある意味僕を敬遠している感のあるAさんに会うのも、一年ぶりのことなのだ。

 この二人、あるギター教室の七十に近い同門生で、Nさんとは同じ歳、Aさんは一つ上。去年の早春、発表会の打ち上げ会で知り合ってからお付きあいしてきた方々である。そして、打ち上げ会の十二日あとに我が家に三人が集まった「ギター遊び・飲み会」以降しばらくして、ある事件が起こった。Aさんが教室を辞めてしまったのだ。この事件の微妙さを部外の方々に分かってもらうのはとても難しいのだが、こんなことだ。
 まず、Aさんが教室の先生に大きな不満を持ち始めた。どうも、僕たち二人の批評がうすうす自覚し始めていた欠点と一致して『先生が、この年寄りとしてはこんなもんとだけ扱ってきた』と思い至ったようなのだ。ぼくらの関係もナーバスなものになってきた。特に、僕の古いアルペジオ楽譜二枚にショックを受けたとしきりに語られる。定年後先生につく以前、一人習いの昔から、ちっとも上手くならないのでいつも基礎に帰って弾き込んできてぼろぼろになった二枚であって、僕の常用練習ファイルの冒頭に張られたものだ。これのことも含めて、おおむねこんな思いを彼は語っていたかと思う。
〈習って二十年。『アルハンブラ』完成目指して、これだけでも三年。ちっとも前進しなかったのはタッチがいい加減だったからだ。練習時間と熱意とでは誰にも負けぬと自負してきたが、それもどうもあやしい。俺のこのギター、これから一体どうしたら良い!〉

 以降の彼は僕とは話したくないようだった。今分かるのだが、僕が何気なく口に出した言葉が彼をずいぶん傷つけてもいたようだ。
 そして、彼との接触を委ねたNさんからこう聞いたのが、去年の夏。「別の先生について、音だしの基礎練習だけをやっているらしい」。秋には、Nさんの努力で三人の下呂温泉一泊旅行が実現した。Aさんは、僕ら二人が思いもしなかったことだが、Nさん持参のギターでその音だし成果を披露してくれた。訥々とはしているが、見違えるようにしっかりしたタッチだった。Nさんが事実通りに褒めていたし、僕も言葉に注意しつつ何かを言ったと思う。この時の彼の心境! これもなぜか僕にはよく伝わってきた。帰宅翌日のメールにこうあったのである。
 「正直言ってお二人の前でギターを弾いた時は、清水の舞台から……の心境。緊張感を凌駕した恐怖感。結果、弾き終わって『汗びっしょり』でした。お二人に対する敬意のつもりで弾きました」
 ギター、「音楽」へのなにかとてつもない愛着を僕に感じさせた。
 その後しばらくして「曲の練習に、『月光』に取りかかられた」と聞いていた。

 この三人で出発した「ギター遊び・飲み会」の方は、彼が不在の二回目以降もずっと続き、来新春で春夏秋冬ともう二回り、八回目になる。常連出席も男女八名と賑やかなパーティーに育っている。二重奏、合奏なども混じり、僕も含めてこの日を目標、励みにしている人も多い。献立も買い物も料理もワイン、酒選びも連れ合いの手を一切借りないが、これは気楽にできる自由を確保しておくため。これがなぜか、楽しいばかりなのだ。当日の差し入れがバラエティーに富んでいて、また楽しみなこと。
ここに必ず、このAさんに戻って来て欲しいと考えている。Nさんと僕の暗黙の誓いのようなものだ。その理由は自分でもよく分からない。が、こんな気はしている。こういう「音楽」の場所に彼がいないのは、おかしい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする