★JANJANでさとうしゅういちさんが次のような記事を載せています。
(ネット虫)
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11月2日、反貧困ネットワーク事務局長・内閣府参与の湯浅誠さんが広島に来られ、「派遣村から見える戦争と平和」と題して、講演しました。「広島県内9条の会ネットワーク」が主催した講演会ですが、会場は満杯となり、椅子を大量に増設しなければならない有様でした。
湯浅さんは、退庁後、すぐ新幹線に飛び乗り、19時25分頃ようやく、到着されました。翌日はまた登庁のため、朝一番の飛行機で東京に帰られます。お忙しい中、「現役の政府中枢」の方が、「この集会」のためだけに広島まで来てくださるという貴重な機会でした。
もちろん、こんな事態は、集会を企画した1年近く前には想像もつかなかったわけです。これも、総選挙で起きた政権交代のおかげです。
以下は、湯浅さんのお話の概要です。
■内閣府参与に請われるも苦闘中
自分は総選挙期間中、「このままでは今年の冬も去年同様、ひどいことになる」と警告してきました。去年の冬、ご承知のとおり、ひどいことになったわけですが、そのとき、野党だった現与党は政府を批判してきました。しかし、彼らは今与党です。もう、去年の惨状を繰り返すわけにはいきません。ところが去年のような事態(=職も家も同時に失う)に対応したノウハウがないのです。そこで、自分に白羽の矢が立ち、「年末までの対策」を引き受け、年明け以降は、また菅直人副総理と協議します。
旧政権でも「第二のセーフティネット」(雇用保険と生活保護の中間的なもの)は立案されました。しかし、困っている人は、自分がどこへ行けば良いかわかりませんし、社会福祉協議会、福祉事務所、ハローワークに窓口が分かれており、往々にして「たらいまわし」がおきます。
第一に、ワンストップ化です。ハローワークに窓口を一元化し、そこに福祉事務所、保健所の職員も、弁護士も来てもらい(※)どこへ行けば良いか途方がくれている人でも、ここへ来ればなんとかなる、という状態にしたいのです。
※:わたし(筆者)が参加している反貧困ネットワーク広島でも行なっている「何でも相談会」形式。
これなら「たらいまわし」は起きません。たらいまわしは、政府機関同士で距離が離れているから起きるのです。窓口が隣同士なら、たらいまわしはできません。押し付け合いをしていたら「いい加減にしろ」と窓口に来た人に怒られるだけです。
それから第二に、住宅対策です。
第三に、年末年始でも役所を開庁することです。
この3点をしたいのですが、役所はすんなりといきません。まず、厚生労働省の官僚の動きが鈍い。そして、実際に政策を担当するのは自治体ですが、自治体も「自分のところだけ対策をすれば、そこに周辺から困った人が押し寄せてくる。回りもやるならうちもやる」という消極的な態度です。
「我が自治体でやるから、周りでもやろう」と説得する自治体は一個もありません。その結果どの自治体も手を挙げません。そして、厚生労働所の官僚も「自治体が消極的ですので・・・」と言い出す始末です。こうした構図をひっくりかえそうと、日々悪戦苦闘している、ということです。
■ため池がないまま日照りに突入
今の日本はすべり台です。教育に対して政府がお金をかけない。すると、教育水準が低いまま就職年齢を迎える。労働市場では非正規雇用が拡大している。そこで派遣切りにあっても失業保険も実は機能していない。非正規労働者の77%は未加入だからです。
そうなると、「生活保護がある」というが、この生活保護も自治体によっては北九州市のように「水際作戦」で阻止されるわけです。日本では、生活保護受給資格がある人の16%しか受けられないというデータもあります。
農業でいえば、ため池がない状態で日照りになってしまったようなものです。そのために、作物が枯れてしまっている。それをいくら精神論で「もっと根性を出せ」といっても、作物が生き返るわけがない。それと同じことが起きています。日本には社会的な「溜め」がなくなってしまっています。
■地方では家族が抱えこむ貧困
家族に頼ればいい、という人もいます。もちろん、頼れる家族がない人よりは、ある人のほうが増しに見えます。しかし、家族といっても経済力が強い家族もあれば弱い家族もあります。そして、失業した子どもと、定年退職した親が同居するような状況が長く続くと、軋轢(あつれき)も増してきます。
職もないのに、「お前しっかりしろ」などと親にしかられる。親の時代は、高度成長期で、どんどん給料が上がる時代ですが今はそうではない。しかし親はそれがわからないから、軋轢が増します。そして、しまいに凶悪事件が家族内で発生するわけです。
あるいは、家族内にいられなくなって、東京に出て派遣労働者になる。そして派遣切りに遭う。
こういう問題は、家族内で抱え込まれて見えなくなっています。ネガティブに見える話は、近所の人にもしたがらないし、近所の人もタブー視してしまうということもあるのです。
地方では、「派遣切り」などの貧困問題は東京だけの問題と勘違いしている人も多いのですが、それは誤りです。地方では家族が抱え込んでいます。そして、本人が東京など都会に出て行けばそれはそれで、「東京の問題」になってしまう。いずれにせよ、貧困が「地方の問題」として認識されにくい状況になっています。
■正社員=勝ち組のウソ
そして、問題は、派遣労働者だけではありません。派遣労働者の悲惨さが強調されて伝えられるものだから、勢い余って正社員=勝ち組と勘違いしてしまう親や先生も多い。
しかし、いまや、「なんちゃって正社員」も増えている。年収が300万円未満、残業代も出ないような正社員が多いのです。青森県では、最低賃金が賃金水準で、ボーナスなし、昇給なしなどという正社員募集もあります。
あるいは、正社員と同じ仕事をしてフルタイムで働く非正社員も多い。こういう人は、「燃料のように使い切られた」という感想を述べます。
「派遣労働者」は「モノ」のように「ポイ捨て」という感じですが、フルタイム非正社員や「なんちゃって正社員」は、「燃え尽きさせられる」という感じになります。
もちろん、大手企業の基幹的社員は、相変わらずそれなりの高給は取っています。が、一方で、建設業界の場合、過労死寸前の労働時間の人も2割もいます。
このように、正規になりさえすれば勝ち組、というのはウソです。社会の仕組みを変えないとどうしようもないところに来ています。
■所得再分配すると貧困が拡大する日本
日本はおかしな国です。子どもの貧困率は14.2%です。
相対的貧困率の公表について (厚生労働省)
ところで、所得を再分配後のほうが再分配前よりも、子どもの貧困率は上昇してしまうのです。こんな国はOECDでも日本だけです。
所得再分配とは、そもそも格差を縮小するために行なうものです。それが定義のはずです。ところが、日本では所得再分配をすると格差が拡大してしまうのです。政府が、進んで子どもを貧困に突き落としているのです。
■貧困率の測定を
今までの日本では豊かさの測定をGDPの成長率で行なってきました。しかし、貧困率を国の健全さの指標とすべきではないか?
政府は先ごろ貧困率を発表しましたが、これは44年ぶりのことです。高度成長により、もうなくなってしまったと思われた貧困を可視化する必要があります。
■25条が壊れると9条も危ない
ここは9条の会ですので、憲法9条と25条の関係についてお話します。いままでは、「戦争が起きると25条も壊れてしまう」という考え方でした。しかし、それは、「今の日本では25条はクリアされている=みんな健康で文化的な生活が出来ている」という前提の上での議論でした。
ところが、特にこの10年、それが破壊されています。世界的に言えば、貧困が戦争の背景になっている地域もたくさんある。そういう意味では今までの9条があって25条という、日本の議論は特殊な面もあった。
しかしこれからは25条あって9条、という議論も見ていかないといけないと思います。そして、25条が破壊されると9条を守る力そのものも危うくなります。
これからすべきことは、社会的な「溜め」をたくさんつくることです。「溜め」があるような社会は、健全な社会です。そういう社会をつくることが、市民の責任です。
■感想・せっかくのチャンス、生かすのは市民
湯浅誠さんが政権に請われて活躍されるという時代になったのは感慨深い。
もちろん、現政権でも後期高齢者医療制度廃止が先送りされたり、教育支援を打ち切ろうとする財務官僚の策動に、一部閣僚が乗せられたりするなど、心配材料は尽きません。
藤井財務大臣の「教育費支援廃止」は本末転倒の弱者切り捨て
しかし、とにかく、貧困撲滅という前向きな方向に政府を向かせる運動をしていかねばなりません。なにしろ「所得再分配をしたら貧困率が拡大する」ほとんど悪いギャグのような状態なのですから・・・。
現在行なわれている広島県知事選で選ばれる新知事ら、自治体にも前向きになってもらうよう、運動もしていかねばなりませんし、多様な「居場所」をつくっていく必要もあります。
旧政権は官僚や財界などの「エライ人」以外との「話し合い」にさえ応じなかったわけですが、これからはそうではない。そこに希望を見出しがんばりたいものです
(ネット虫)
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11月2日、反貧困ネットワーク事務局長・内閣府参与の湯浅誠さんが広島に来られ、「派遣村から見える戦争と平和」と題して、講演しました。「広島県内9条の会ネットワーク」が主催した講演会ですが、会場は満杯となり、椅子を大量に増設しなければならない有様でした。
湯浅さんは、退庁後、すぐ新幹線に飛び乗り、19時25分頃ようやく、到着されました。翌日はまた登庁のため、朝一番の飛行機で東京に帰られます。お忙しい中、「現役の政府中枢」の方が、「この集会」のためだけに広島まで来てくださるという貴重な機会でした。
もちろん、こんな事態は、集会を企画した1年近く前には想像もつかなかったわけです。これも、総選挙で起きた政権交代のおかげです。
以下は、湯浅さんのお話の概要です。
■内閣府参与に請われるも苦闘中
自分は総選挙期間中、「このままでは今年の冬も去年同様、ひどいことになる」と警告してきました。去年の冬、ご承知のとおり、ひどいことになったわけですが、そのとき、野党だった現与党は政府を批判してきました。しかし、彼らは今与党です。もう、去年の惨状を繰り返すわけにはいきません。ところが去年のような事態(=職も家も同時に失う)に対応したノウハウがないのです。そこで、自分に白羽の矢が立ち、「年末までの対策」を引き受け、年明け以降は、また菅直人副総理と協議します。
旧政権でも「第二のセーフティネット」(雇用保険と生活保護の中間的なもの)は立案されました。しかし、困っている人は、自分がどこへ行けば良いかわかりませんし、社会福祉協議会、福祉事務所、ハローワークに窓口が分かれており、往々にして「たらいまわし」がおきます。
第一に、ワンストップ化です。ハローワークに窓口を一元化し、そこに福祉事務所、保健所の職員も、弁護士も来てもらい(※)どこへ行けば良いか途方がくれている人でも、ここへ来ればなんとかなる、という状態にしたいのです。
※:わたし(筆者)が参加している反貧困ネットワーク広島でも行なっている「何でも相談会」形式。
これなら「たらいまわし」は起きません。たらいまわしは、政府機関同士で距離が離れているから起きるのです。窓口が隣同士なら、たらいまわしはできません。押し付け合いをしていたら「いい加減にしろ」と窓口に来た人に怒られるだけです。
それから第二に、住宅対策です。
第三に、年末年始でも役所を開庁することです。
この3点をしたいのですが、役所はすんなりといきません。まず、厚生労働省の官僚の動きが鈍い。そして、実際に政策を担当するのは自治体ですが、自治体も「自分のところだけ対策をすれば、そこに周辺から困った人が押し寄せてくる。回りもやるならうちもやる」という消極的な態度です。
「我が自治体でやるから、周りでもやろう」と説得する自治体は一個もありません。その結果どの自治体も手を挙げません。そして、厚生労働所の官僚も「自治体が消極的ですので・・・」と言い出す始末です。こうした構図をひっくりかえそうと、日々悪戦苦闘している、ということです。
■ため池がないまま日照りに突入
今の日本はすべり台です。教育に対して政府がお金をかけない。すると、教育水準が低いまま就職年齢を迎える。労働市場では非正規雇用が拡大している。そこで派遣切りにあっても失業保険も実は機能していない。非正規労働者の77%は未加入だからです。
そうなると、「生活保護がある」というが、この生活保護も自治体によっては北九州市のように「水際作戦」で阻止されるわけです。日本では、生活保護受給資格がある人の16%しか受けられないというデータもあります。
農業でいえば、ため池がない状態で日照りになってしまったようなものです。そのために、作物が枯れてしまっている。それをいくら精神論で「もっと根性を出せ」といっても、作物が生き返るわけがない。それと同じことが起きています。日本には社会的な「溜め」がなくなってしまっています。
■地方では家族が抱えこむ貧困
家族に頼ればいい、という人もいます。もちろん、頼れる家族がない人よりは、ある人のほうが増しに見えます。しかし、家族といっても経済力が強い家族もあれば弱い家族もあります。そして、失業した子どもと、定年退職した親が同居するような状況が長く続くと、軋轢(あつれき)も増してきます。
職もないのに、「お前しっかりしろ」などと親にしかられる。親の時代は、高度成長期で、どんどん給料が上がる時代ですが今はそうではない。しかし親はそれがわからないから、軋轢が増します。そして、しまいに凶悪事件が家族内で発生するわけです。
あるいは、家族内にいられなくなって、東京に出て派遣労働者になる。そして派遣切りに遭う。
こういう問題は、家族内で抱え込まれて見えなくなっています。ネガティブに見える話は、近所の人にもしたがらないし、近所の人もタブー視してしまうということもあるのです。
地方では、「派遣切り」などの貧困問題は東京だけの問題と勘違いしている人も多いのですが、それは誤りです。地方では家族が抱え込んでいます。そして、本人が東京など都会に出て行けばそれはそれで、「東京の問題」になってしまう。いずれにせよ、貧困が「地方の問題」として認識されにくい状況になっています。
■正社員=勝ち組のウソ
そして、問題は、派遣労働者だけではありません。派遣労働者の悲惨さが強調されて伝えられるものだから、勢い余って正社員=勝ち組と勘違いしてしまう親や先生も多い。
しかし、いまや、「なんちゃって正社員」も増えている。年収が300万円未満、残業代も出ないような正社員が多いのです。青森県では、最低賃金が賃金水準で、ボーナスなし、昇給なしなどという正社員募集もあります。
あるいは、正社員と同じ仕事をしてフルタイムで働く非正社員も多い。こういう人は、「燃料のように使い切られた」という感想を述べます。
「派遣労働者」は「モノ」のように「ポイ捨て」という感じですが、フルタイム非正社員や「なんちゃって正社員」は、「燃え尽きさせられる」という感じになります。
もちろん、大手企業の基幹的社員は、相変わらずそれなりの高給は取っています。が、一方で、建設業界の場合、過労死寸前の労働時間の人も2割もいます。
このように、正規になりさえすれば勝ち組、というのはウソです。社会の仕組みを変えないとどうしようもないところに来ています。
■所得再分配すると貧困が拡大する日本
日本はおかしな国です。子どもの貧困率は14.2%です。
相対的貧困率の公表について (厚生労働省)
ところで、所得を再分配後のほうが再分配前よりも、子どもの貧困率は上昇してしまうのです。こんな国はOECDでも日本だけです。
所得再分配とは、そもそも格差を縮小するために行なうものです。それが定義のはずです。ところが、日本では所得再分配をすると格差が拡大してしまうのです。政府が、進んで子どもを貧困に突き落としているのです。
■貧困率の測定を
今までの日本では豊かさの測定をGDPの成長率で行なってきました。しかし、貧困率を国の健全さの指標とすべきではないか?
政府は先ごろ貧困率を発表しましたが、これは44年ぶりのことです。高度成長により、もうなくなってしまったと思われた貧困を可視化する必要があります。
■25条が壊れると9条も危ない
ここは9条の会ですので、憲法9条と25条の関係についてお話します。いままでは、「戦争が起きると25条も壊れてしまう」という考え方でした。しかし、それは、「今の日本では25条はクリアされている=みんな健康で文化的な生活が出来ている」という前提の上での議論でした。
ところが、特にこの10年、それが破壊されています。世界的に言えば、貧困が戦争の背景になっている地域もたくさんある。そういう意味では今までの9条があって25条という、日本の議論は特殊な面もあった。
しかしこれからは25条あって9条、という議論も見ていかないといけないと思います。そして、25条が破壊されると9条を守る力そのものも危うくなります。
これからすべきことは、社会的な「溜め」をたくさんつくることです。「溜め」があるような社会は、健全な社会です。そういう社会をつくることが、市民の責任です。
■感想・せっかくのチャンス、生かすのは市民
湯浅誠さんが政権に請われて活躍されるという時代になったのは感慨深い。
もちろん、現政権でも後期高齢者医療制度廃止が先送りされたり、教育支援を打ち切ろうとする財務官僚の策動に、一部閣僚が乗せられたりするなど、心配材料は尽きません。
藤井財務大臣の「教育費支援廃止」は本末転倒の弱者切り捨て
しかし、とにかく、貧困撲滅という前向きな方向に政府を向かせる運動をしていかねばなりません。なにしろ「所得再分配をしたら貧困率が拡大する」ほとんど悪いギャグのような状態なのですから・・・。
現在行なわれている広島県知事選で選ばれる新知事ら、自治体にも前向きになってもらうよう、運動もしていかねばなりませんし、多様な「居場所」をつくっていく必要もあります。
旧政権は官僚や財界などの「エライ人」以外との「話し合い」にさえ応じなかったわけですが、これからはそうではない。そこに希望を見出しがんばりたいものです