徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

文学散歩 「人魚がくれたさくら貝」―長崎源之助展―

2010-08-12 04:00:00 | 日々彷徨

立秋を過ぎて、なお厳しい残暑が続いている。
夾竹桃の紅が、炎天に燃えている。
秘めやかな、女の情念のように・・・。
そんな暑い日の、文学散歩だ。

横浜の下町に生まれ育った児童文学者・長崎源之助(1924~)は、時代に翻弄されながら賢明に生きる庶民や、生き生きと元気に遊びまわる子供たちの姿を描き続けた。
彼は、そのなかで平和の大切さ、命の尊さを伝えている
この長崎源之助展は、8月7日(土)から9月26日(日)まで、神奈川近代文学館で開かれている

この人の作品は、「つりばしわたれ」など、多くの小学校教科書でも収録され、それらとともに育った子供たちも多いはずだ。
横浜では、「やまびこ子供会」や「よこはま文庫の会」、自宅にまでも「豆の木文庫」などを開設し、児童文学の世界で多彩な活躍をした。
これらの活動などを紹介する展観だ。

最近作「汽笛」が注目を集めているが、その原稿からも彼の几帳面さがうかがわれ、石倉欣二の原画とともに、どこかほのぼのとした温かさを感じさせる。
彼は自分の文庫を称して、「本のある遊び場」といったが、そこでは読書会から読み聞かせ、「子供市」などの行事を活発に行った。
平成13年には、30周年記念行事も催されたが、「文庫」はすでに公開を終えた。

・・・サチコは、夏休みにひとりで、九州のおばあさんのところへいきました。
そこで、気の弱いテツジと友だちになります。
テツジはサチコに、さくら貝をあげようと思いますが・・・。(「人魚のくれたさくら貝」)

戦争の悲惨をありのままに描いていた彼は、この作品では、それまでの作品とは異なる、子供の恋愛的な感情を、ロマンティックなメルヘンのかたちで描いている。
心に沁みるような作品である。
青い季節というのだろうか、感受性の豊かな少年と少女を、実にヴィヴィッドにとらえながら構成されたストーリーを、素直にあるがままに、温かい眼差しで綴っている。
近頃の、幼児虐待を忘れさせてくれるような、これは大人たちから見れば郷愁であり、子供時代への讃歌だ。
しかも、子供たち同志が、人の心を大切に想う、いたわりのこもった切れない絆で、確かにつながっているのだ。
長崎源之助展を観て、「人魚のくれたさくら貝」を読み直してみて、そう思った。

 8月15日(日) 「つりばしわたれ」など作品を読む・語る会
 8月22日(日) 「紙芝居がはじまるよ!」
 8月28日(土) 「絵本であそぼ」(絵本の読み聞かせ会)
 9月 5日(日) 記念講座「長崎源之助文学の魅力」(西本鶏介氏)
 などの、関連イベントが催される。


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2 コメント

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・・・ (茶柱)
2010-08-13 00:33:38
「秘めやかな女の情念のような暑さ」・・・。
うむむ・・・。変なところに反応してしまいました・・・。
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それも・・・ (Julien)
2010-08-16 01:17:46
この暑さのせいでしょうか。
きっと、そうですね。(笑)
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