徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「女は二度決断する」―移民という差別意識の根源に迫る衝撃の問題提起だが―

2018-04-23 11:00:00 | 映画


 この作品は、最後まで鑑賞するときわめて衝撃的だ。
 2000年代に、ドイツ各地でネオナチによる外国人を狙った連続テロ事件が起きた。
 その事件を契機に、両親がトルコ移民のファティ・アキン監督が着想を得た新作だ。

 打ち砕かれた愛と、癒されることのない深い悲しみ・・・。
 気骨ある作風で国際的評価の高い名匠ファティ・アキン監督は、ベルリン・カンヌ・ヴェネチア世界三大映画祭すべてで主要賞受賞経験を持ち、ここに悲しくも痛ましい実在の事件をもとに、自ら脚本を書き映画化した。
 テロによって最愛の人を失ったとき、その悲しみにどう向き合えばよいのか。
 主演ダイアン・クルーガーは、家族を亡くした女性の悲しみや怒り、絶望をまざまざと伝え、心の痛む作品に熱気がこもっている。
 カンヌ国際映画祭では主演女優賞獲得した。


 ドイツ、ハンブルグ・・・。
カティヤ(ダイアン・クルーガー)は、トルコ系移民のヌーリ(ヌーマン・アチャル)と結婚し、息子ロッコ(ラファエル・サンタナ)も生まれ、幸せな家庭を築いていた。
ある日、ヌーリの事務所の前で白昼爆弾が暴発し、ヌーリとロッコが犠牲になる。
警察は外国人同士の抗争を疑うが、ドイツ人による人種差別テロであることが判明する。
しかし証拠不十分、アリバイ、目撃証言無効と・・・、身をえぐられるような裁判にカティヤの心の傷は深まっていく・・・。

警察は、移民同士の争いから、麻薬使用の過去があるカティヤの証言から連想される「ネオナチの仕業」は無視、それが「NSU事件」(国家社会主義地下組織)の解放に7年もの歳月を要した遠因のようだが、ドイツ社会に対する不信も大きいようだ。
犯人は逮捕され、裁判となれば無罪とは・・・。
犯人に罪を償わせたいと、一度はそう思った決断は見事に裏切られ、彼女は二度目の決断を下した。
被害者がここでは悪人扱いされ、犯人は仲間の偽証もあって無罪放免だ。
理不尽がまかり通るのか。
カティヤは許せない。

警察の考えや司法の非情・・・、移民とともに暮らすドイツの現状がいかに複雑かわかるような気がする。
ドイツ映画「女は二度決断する」は、ファティ・アキン監督の巧みな構成とも相まって、欧州のねじれた(?)価値観が映し出されている感じだ。
映画後半のテーマは復讐だ。
この作品の中、ジャーナリスト顔負けの緻密な取材を重ねて、遺族の本音を探っていったダイアン・クルーガーの時間をかけた役作りといい、さすがの熱演が光っている。
映画のラストは、観客の賛否が分かれるところだが、ヒロインの最後の衝撃の決断は考えさせられる。
アメリカやヨーロッパに現実に存在する、地球上の排外主義の是非とともに・・・。
       [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はフランス・ドイツ・オーストリア合作映画「ハッピーエンド」を取り上げます。


映画「レッド・スパロー」―大国を手玉に誘惑と心理戦を武器に女スパイの誕生を鮮烈に―

2018-04-15 18:00:01 | 映画


 過去のどんな映画でも、まずお目にかかったことはない。
 過去の常識を超えて、ミッションを遂行する女スパイの壮絶な運命を描いている。

 元CIA局員ジェイソン・マシューズ原作ベストセラー小説を、「レボリューション」 (2015年)をはじめ、大ヒットシリーズで監督を務めたフランシス・ローレンスが全編をサスペンスフルに映画化した。
「スパロー(すずめ)」とは、肉体関係を利用して工作対象を操り、ミッションを遂行する、そんなハニートラッ プ専門の情報員のことを指している。




バレリーナの将来が怪我のために断たれたドミニカ・エゴロワ(ジェニファー・ローレンス)に、ロシア情報庁幹部の叔父ワーニャ(マティアス・スーナールツが救いの手を差し伸べる。
エゴロワは一晩だけ国家のために働けば、病気の母の治療費を援助するという言葉に説得されて、ロシアの諜報機関の訓練施設に送られる。
だが、そこはハニートラップと心理操作を武器として、ミッションの遂行をするスパイ=〈スパロー〉の養成機関だったのだ。
そして持ち前の美貌と頭脳で、ドミニカ自身はは望まないながらも、その訓練施設では、彼女を一流の〈スパロー〉に育て上げることが真の狙いだった。

ドミニカに最初に与えられたミッションは、アメリカCIAに接近し、ロシア政府内に潜むスパイの名を聞き出すことであった。
しかし、その任務は、ドミニカを想像できない運命に導き、彼女は敵国アメリカならず、祖国ロシアからも狙われることになるのだった・・・。

養成機関での授業は陰惨そのものだ。
監督官に、皆の前で「服を脱げ」と命じられるのは序の口だし、暴力とエロチシズムの匂いが漂い、目を覆いたくなるようなシーンの連続だ。
ドミニカはしかし、ここは生きるためにと腹をくくって、氷のような表情で突き進むことになる。

シリーズ作品でェニファー・ローレンスとタッグを組んだフランシス・ローレンス監督は、瞬間瞬間を鮮烈にリアルに描き出している。
ジェニファー・ローレンスの渾身の演技も、これはもう見応え十分だ。
大国間の舞台裏で陰謀と欲望が渦巻くストーリーは、信じがたい未来へ向かって、突進していく。
ハニートラップの究極技が見ものである。
ロシア政府から最重要任務を任されたヒロインが、米露両国を手玉に取る。
胸のすくような展開である。
それも、信じがたい罠を仕掛けて・・・。
知恵と勇気、決断力と美しさを最大限に、ドミニカが持てる才能を遺憾なく発揮するわけだ。

現場の人間が知りえない、スパイ活動の実態や裏テクニックが盛り込まれたストーリーには、要所要所でサプライズと衝撃を用意されている。
以前から、この女優と監督は強力なタッグを組んでいる。
厳冬の中のブダペストのロケ、ヒロインの衣装のデザイン、早いテンポで展開するストーリーともども、全編にみなぎるサスペンスには拍手を送りたい。
作品に登場するブダペストはあまりロケに登場しないところだし、映画では元はといえばロシア・アートを基調とした大胆な色彩の使い分けも際立っている。
フランシス・ローレンス監督アメリカ映画「レッド・スパロー」は、結構見どころの多い、興味深い娯楽作品としてはまあ飽きない2時間20分だ。
物語の中で、CIA捜査官のお人よしすぎるのは気になったが・・・。
         [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はドイツ映画「女は二度決断する」を取り上げます。


映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」―真実によって自由になる未来を守るため苦悩しながら戦ったジャーナリスト―

2018-04-09 12:00:00 | 映画

 

 アメリカの歴代政権が隠してきた、ベトナム戦争の実情を記す機密文書の報道をめぐる、政府と新聞の戦いを描いている。
 スクープしたニューヨーク・タイムズが異例の差し止め命令を受ける中、入手した文書を公表に踏み切ったワシントン・ポストに焦点を当て、新聞ジャーナリズムの使命を問う迫真の展開だ。

 政府が必死になって隠そうとする秘密を、報道機関が突き止め、国民に提供する。
 現代の日本でも、今やそんな報道はある新聞など日常茶飯事だ。
 勿論、それを快く思わない政治家も大勢いるわけで・・・。(苦笑)
 この映画は、1971年のアメリカを舞台に、巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が、メリル・ストリートム・ハンクスの二人の名優を主演に、真実を伝えるべきか否か、悩む新聞人の実話を重厚なタッチで描き切っている。

 

ベトナム戦争が泥沼化していた1971年・・・。
ワシントン・ポストは、戦況を客観的に分析した国防省の最高機密文書の全容を、特報すべく準備をしていた。
時のニクソン政権側が、記事差し止めに動き、経営に圧力を加えるのは明らかであった。

夫の死に伴い、専業主婦からワシントン・ポスト紙の社主となったグラハム(メリル・ストリープ)は、経営陣から軽んじられていた。
ニクソンは、国の安全保障を脅かすとして、すでにニューヨーク・タイムズの差し止め命令を裁判所に要求、一方、記者の奮闘で文書を入手した編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクスは即座に記事化を命じる。
ライバル紙のニューヨーク・タイムズに先を越され、ワシントン・ポストとしてはこの全貌を公表しようと奔走する。

報道の自由は報道しかないとひるまないブラッドリーだったが、最後の決断はグラハムに委ねられる・・・。

政府を敵に回してまで、本当に記事にするのか、信念をかけた彼女の決断は・・・?
報道の自由は、合衆国憲法修正第1条の定める民主主義の礎だ。
報道機関の仕えるべきは国民なのだし、断じて統治者ではない。
近頃、どこか何か勘違いをしていないだろうか。
日本の統治者も、このことはよくよく心得てほしいものだ。

ドラマの中で、政権幹部と懇意で報道を躊躇するグラハムが、新聞社の矜持を自覚し、堅固な志操の経営者へと華麗な変身を遂げていく様が爽快に描かれている。
この映画の背後には、トランプ政権の誕生があったことは間違いないようだ。
主要な舞台は、新聞社やグラハムの自宅だ。
真実に迫っていく面白さにはもう一工夫が欲しいところだが、グラハムとブラッドリーこの二人のジャーナリストが、心をひとつにして戦っていくシーンが胸を熱くするのだ。
一介の専業主婦だった女性が、国家を揺るがす重大な決断を迫られ、その戸惑い、苦悩を名優ストリープが細やかに演じる。
メリル・ストリープは、急ピッチではないがたおやかに成長する強い女を演じて上手いし、トム・ハンクスは硬骨漢の役ながらちょっと格好よく役になりきっている感じがする。
二人はさすがと思わせる。

政治家はよく嘘をつき、それを糊塗しようといろいろあの手この手のよくない手段を講じて、時々ニタニタなどしながら平然としている。
国民を何と思っているのか。
出まかせの言い訳け、公文書の平然たる改竄と隠蔽、そう思うと日本もアメリカも同じではないか。
何もかも、すべては歴史が証明してくれる。
責任逃れにああだこうだと汲々としている政治家は、この映画、一本筋金の入った気骨ある力作をどう観るだろうか。
メディアが真実を追求する。
新聞社の輪転機が唸りをあげて動き出す。
民主主義は勝たねばならない。
権力側に阿るのではなく、このアメリカ映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」は、力強い脈動を感じさせる重厚な一作だ。
この作品、まず面白くないはずがない。観て損はないはずだ。
自分のことをよく書かない新聞を名指しで決めつけ、権力者の言いなりとなるテレビや新聞にニンマリしている政治家の姿をよく見かけるのだが、国民にどう映っているか。
驕れるものは久しからずである。
        [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はアメリカ映画「レッド・スパロー」を取り上げます。