徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「愛を綴る女」―運命の男性を追い求める鮮烈な愛の旋律―

2017-10-29 17:00:00 | 映画

 故あって、しばらく映画からもパソコンからも遠ざかっていました。
 久しぶりです。
 秋も深まりました。
 これからも、いつもマイペースですのでどうぞよろしくお願いいたします。
 今回はフランス映画です。

 イタリア人作家ミレーネ・アグスのベストセラー小説「祖母の手帖」の設定を1950年代に置き換えて、フランス南部を舞台に、17年に及ぶひとりの女性の自由への希求と理想の愛の行方を、ストイックかつ官能的に見つめた問題作である。
 本編は「愛と悲しみボレロ」1981年)、「ヴァンドーム広場」(1998年)などの作品で知られ、女優としても活躍中のニコール・ガルシア監督映画化した。

 愛の真実を求めるとき、女の愛は狂気の果てに結ばれるのか。
 ヒロイン役のマリオン・コティヤールがドラマ全般を牽引する。
 「エディット・ピアフ  愛の讃歌」(2017年)で、アカデミー賞主演女優賞など数多くの賞に輝いた知る人ぞ知る名女優だ。
 この作品は、ときに幻想性もはらんだ多様な愛の本質に迫ろうとする力作だ。



フランス、プロヴァンス地方の小さな村で暮らすガブリエル(マリオン・コティヤール)は、教師として働く青年への恋に破れ、両親に言われるがままに、寡黙で真面目なスペイン人労働者のジョゼ(アレックス・ブレンデミュール)と結婚する。
彼女は流産し、それをきっかけに腎臓結石と診断され、治療のためアルプスのふもとの療養地に向かった。
そこで、温泉療法を始めるうち、戦争帰還兵のソヴァージュ(ルイ・ガレル)と出会い、運命を感じるのだった。
二人は恋に落ち、そして・・・。

運命の愛などとよく言うが、愛を激しく求める求めるヒロインを、マリオンがときに危うさともろさを感じさせる絶妙の演技を見せる。
実に説得力がある。
いつもながらの、1975年生まれのこの女優の演技は特筆ものだ。
こうした究極の愛の形に、でも現代人は観ていても共感できるものだろうか。少なからず疑問も感じる。
個人個人の恋愛観や人生観が試される一作だ。

相手役を務める二人の男優も悪くない。
死の影をまとったかのような美青年役のルイ・ガレル辛抱強い夫役のアレックス・ブレンデミュールともどもにいい味を出している。
このフランス映画
「愛を綴る女」は、ストイックで官能的な愛を見つめた物語だ。
総じて実に寡黙で静かなラブストーリーだ。静かすぎて退屈なほどでもある。
しかしこの退屈が、人間の心を狂わせるのだ。
本来愛というのは、愛し愛されたいというシンプルな欲望に過ぎない。
ニコール・ガルシア監督の大胆な設定が、功を奏している気がする。
愛の表現、その揺らぎまでもたおやかな演出に徹し、緻密で美しいラブストーリーとして仕上げている。
小品ながら、男女三人の行く末から目が離せない作品だ。

マリオン・コティヤールが上手いことを言っている。
「人は、自分自身でいることを周りから否定され続けると、気が狂ってしまいかねない。」
けだし名言である。
       [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点


映画「オン・ザ・ミルキー・ロード」―ファンタスティックで奇想天外な愛の逃避行―

2017-10-09 17:00:00 | 映画


 世界三大映画祭を制覇した 「アンダーグラウンド」(1995年)、「黒猫、白猫(1998年)などの旧ユーゴスラヴィア出身の現ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエヴォ出身、名匠エミール・クストリッツア監督による9年ぶりの新作だ。
今回は、主演も務め、戦争の終らない架空の国を舞台に、恋人たちの壮大な逃避行を描いた。

戦争の愚かさ、情熱的な恋、狂祭のダンス、温かなユーモアをいっぱいに詰め込んだ秀作と言っていいかもしれない。
これらはすべて、エミール・クストリッツア監督のエッセンスだ。
全編セルビア語が使われており、予測不可能なストリーテリングに、映画終盤まで圧倒される。




戦火の中にある架空の国・・・。
右肩にハヤブサを乗せたコスタ(エミ-ル・クストリッツア)は、村からの戦線の兵士たちにミルクを届けるために、毎日銃弾を交わしながらロバに乗って前線を渡っている。
国境を隔てただけの、すぐ近場同士で続く殺し合い・・・、この戦争はいつ終わるとも見当がつかない。
そんな死と隣り合わせの状況下でも、村々にはのんきな暮らしがあった。

母親と一緒に住んでいるミルク売りの娘ミレナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)は美しく活発な魅力があり、村の男たちはメロメロだ。
そのミルクの配達係に雇われているのがコスタだ。
ミレナはコスタに思いを寄せているが、コスタの方は彼女の求愛に素っ気ない。
そんな折り、ミレナの兄ジャガ(マノイロヴィッチ)のところへ、イタリアから流民の美女(モニカ・ベルッチ)がやって来る。
流民の彼女は、しかし、戦争の悲惨を経験しているコスタと惹かれあい、二人は村から愛の逃走へと勝負に出る・・・。

リアリズムと幻想性が融合した、愛の寓話である。
通常の人知を超えた、ハヤブサ、蛇、蝶、蜂、ガチョウ、鶏、クマといった動物が神話のようにあふれて活躍する。
それはまるで動物映画のようでもあって、賑やかな生命力にあふれている。
これらも、本物の実写にこだわり続け、撮影は三年もの長期にわたって行われた。
動物たちや自然とのコミュニケーションも健在だから、圧倒的な愛とエネルギーで、特異なワイルドを構成する鬼才エミール・クストリッツア監督に、熱狂するファンが多いのも理解できる。

当然、ドラマの奇想にも溢れていて、なおかつ、繊細と悲しみを帯びている。
全編を彩る特製なバルカン・ミュージックも、クストリッツア監督息子ストリポールとあって、様々な挿入歌ともどもこれまた映画を一段と盛り上げている。
作品はエネルギッシュで深みもある。
セルビア・イギリス・アメリカ合作映画「オン・ザ・ミルキー・ロード」は、緊迫した戦闘と牧歌的な村の生活と愛がこんなにもユーモラスで可笑しく、不条理溢れる描写が異色で魅力的だ。
人間の多くの戦いを俯瞰する動物や島、聖書や民話のような世界が展開し、まさに暴力の中に描かれる平和と愛がこんなにもユーモラスで、可笑しく、しかも何ともも哀しい作品に観客は翻弄されるばかりだ。
悲劇と喜劇が混然一体となって描かれる、異端児監督の不思議な詩情さえ感じさせる作品だ。
この寓話的世界の底流に流れるものは、戦争と迫害に対する自由と愛の尊さだろう。
面白い映画だ。こんな映画もあっていい。
         [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はフランス映画「愛を綴る女」を取り上げます。