徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

文学散歩「特別展 巨星・松本清張」―春たけなわの神奈川近代文学館にて―

2019-04-06 13:00:00 | 日々彷徨


 満開の桜が、早くも強い風にあおられて散り始めている。
 春はいよいよ本番だ。

 戦後日本を代表する作家・松本清張特別展神奈川近代文学館で5月12日(日)まで開催されている。
 この作家の小説家人生は、40歳を過ぎてから芥川賞受賞を契機に始まったのだ。
 人より遅い作家活動だが、その著作の多さは驚くばかりである。
 日本の国民的作家として、人気も高い。

 (神奈川近代文学館 / 電話 045-622-6666)

 

 

 








松本清張の人生は、多岐にわたって精力的に執筆活動を続けたことだった。
清張は幼少期から、恵まれない環境の中で、刻苦し、家も貧しかったから、尋常高等小学校卒業後から働きづめであった。
仕事に忙殺されて、人生の前途への希望を失うこともしばしばであった。
しかし、凡人とは違い、知的好奇心の旺盛さもあって、文学書を耽読し、考古学・民俗学への関心を深めていき、そのことで後に膨大な作品が次々と生まれていったのだ。
これは凄いことだ。本当に凄い作家だ。

昭和28年(1952年)「或る『小倉日記』伝」芥川賞受賞すると、その旺盛な創作活動は留まるところを知らなかった。
自宅で執筆する清張の背後の押入れには、所狭しと蔵書が溢れている。
苦難の時代をしのばせる写真である。
生涯の後半生にあたる約40年間で、清張は1000編もの作品を遺している。

今回は松本清張生誕110年にあたる特別展で、見応え十分な企画展である。
もともと版下画工でもあった清張は、作家になる前は、広告デザイン界で活躍しており、絵や書にも優れていた。
小説ももちろん、映画化された作品も36作前後あり、とてもそのすべてを読み切ってはいないが、現代を生きる人間へのメッセージははかり知れないものがある。
本展では、約400点の展示資料で清張の人生を展観する。

作品の中でも、傑作の誉れ高く、映画化もされた「砂の器」(1974年野村芳太郎監督作品)は、とりわけ個人的には強い印象を持っている。
「砂の器」は素晴しかったし、もう一度映画館でこそ観たいものだ。
個人的なことだが、この映画が公開された時、今は無くなったが大船オデオン座で観て大きな感動を覚えたものだ。
テレビドラマ化などもされたが、映画化作品にはとても及ばない。
脚色(橋本忍、山田洋次)、音楽(芥川也寸志)、主演(加藤剛)も優れており、人間の宿命を追って、熱く胸に迫る作品であった。
この映画作品は、出来映えも素晴らしく清張自身も大変気に入っていたそうだ。
何とこの映画「砂の器」が、9月20日(金)から横浜TOHOシネマズ上大岡(TEL/050-6868-5053)「午前十時の映画祭」(来年3月で終了)で上映される。
観ていない人には、是非映画館で観ることをお勧めしたい傑作だ。自身をもって言いたい。
なお、松本清張の代表作の中で、新潮文庫のベスト1はこの「砂の器」で、2018年12月現在459万部を記録しているそうだ。

余談が長くなったが、神奈川文学館の関連イベントとしては、4月13日(土)講演会(評論家・保坂正康)、4月28日(日)講演会(作家・阿刀田高)、文芸映画を観る会では「影なき声」(1958年日活)なども予定されている。
また、会期中の毎週金曜日にはギャラリートークも催されている。
本展では、松本清張の多彩な作品世界を紹介するとともに、清張が照らし出した時代を振り返り、現代を生きる我々へのメッセージを探ることになる。
来月、5月から令和といよいよ年号が改まり、また昭和の時代も遠のいてゆくが・・・。
満開の桜も大いに気になるところだが、近年期待の膨らむこの特別展を覗いてみるのも一興かもしれない。

次回はイギリス・スペイン・ドイツ合作映画「マイ・ブックショップ」を取り上げます。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
松本清張展 (霜葉)
2019-05-10 17:20:37
昨日{9日}神奈文に行ってきました。清張作品は光文社のカッパ文庫本からスタートし、今でも二百数十冊保存しております。特に推理小説は動機の深さ、推理の過程での季節感、地方の思いがけない場所に展開するなど、まるで映像を見るようなワクワク感が改めて思い出され懐かしくなりました。
多くのフアンに愛された巨星が文化勲章を受章していないのが不思議です。
展示会のご案内有難うございました。
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霜葉様・・・ (Julien)
2019-05-14 16:53:03
神奈川文学館の感想有難うございます。
しばらくです。ご無沙汰しております。お元気ですか。
清張作品200冊以上も個人蔵書があるなんて、凄いですね。
いやいやこれは・・・。
しかし、清張さんは大変な努力の人ですね。
18日(土)から江藤淳没後20年企画展が始まりますね。
楽しみです。
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