荒々しい海に投げ出された少年に残されたものは、小さな救命ボートとわずかな非常食、そして何と一頭のベンガル・トラであった。
果てしない大海原を漂流する16歳の少年は、どうやって生き延びたのか。
それは、驚きと美しさにあふれた壮大な旅であった。
アン・リー監督は、ヤン・マーテルの原作「パイの物語」を、想像を絶する奇跡の物語として、見事に映像化した。
神秘的な映像美はもちろん、心揺さぶる、深い情感に満ちたドラマである。
オリジナリティあふれるサバイバル・ストーリーの展開に観客は呑み込まれる・・・。
インドでで動物園を営む家族と一緒に、カナダに移住するため、16歳の少年パイ(スラージ・シャルマ)は貨物船に乗り込んだ。
ところが、太平洋を航行中に嵐に襲われ、船は難破し、パイは救命ボートに避難したが、そこに一頭のベンガル・トラがパイの命を狙っていたのだった。
家族を失くした悲しみと、耐えきれぬほどの孤独、そして飢餓という絶望的な状況の中で、パイとトラは敵対し、次第にトラはパイにとってサバイバルへの闘志を与える存在となる。
リチャード・バーガーと名付けられた、体重200キロの獰猛なベンガル・トラだ。
絶体絶命のサバイバルは、次に何が起こるか、全く予想できない。
トラはパイの命を奪うのか、それとも希望を与えるのか。
かくして、少年と一頭のトラとの227日間にも及ぶ、太平洋上の漂流生活が始まったのだ・・・!
この小さなボートのわずかな空間で、獰猛なトラとシェアし、共存の道を探さなくてはならなくなった少年パイ・・・。
映画化にあたって、ルチャード・バーガーのヴィジュアル化を可能にしたのは、進化を遂げたデジタル・テクノロジーだ。
豊かな表情を見せるトラのCG技術は、もう全く本物とは見分けがつかない精巧さだ。
さらに、海上を群れ飛ぶトビウオ、クジラ、無人島に人間の足場もないほど群れを成すミア・キャットといい、不思議な生き物たちが意外な展開の中で登場するこの作品は、3Dによる圧倒的な映像美で見せる。
雄大なサバイバル・アドヴェンチャーが、大自然と生命の神秘に彩られた、ミステリアスで奥深いドラマの世界へと誘っていく。
何もかもが、驚きである。
とにかく凄い!
アジア(台湾)生まれのアン・リー監督によるアメリカ映画「ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日」では、3000人から選ばれたパイ役のインド人学生、スラージ・シャルマが実に素晴しい。
ドラマの中で、肉体的にも精神的にも、見事な成長と力強さを全身で表現している。
ドラマのラストシーン、漂流してたどり着いた無人島で、後ろを振り向くでもなく、密林の中へ去っていくベンガル・トラ、リチャード・バーガーの姿は、何か神の啓示のような、哲学的で深遠なテーマを残しているように見えた。
そして、ドラマから伝わってくるのは、人間の強さである。
米アカデミー賞で11部門でノミネートされているそうだが、映画のもたらす余韻が何とも言えず爽快で、心を揺さぶらずにはおかない。
きっと、映画の魅力たっぷりの、文句なしで期待に応えてくれる一作に違いない。
いや、ほんとに・・・。
[JULIENの評価・・・★★★★★](★五つが最高点)