徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「花筐 HANAGATAMI」―死を運命づけられた中で輝いていた青春の美しさと切なさ―

2018-01-31 12:00:00 | 映画


 この映画は、戦争前夜の死を運命づけられた中で、青春の美しさと切なさに向き合うときを描いている。
 1936年に発表された檀一雄の原作をもとに、大林宣彦監督が40年以上前に脚本を書き、長いこと映画化を切望してきた作品である。
 時代と社会世相の描写は、細緻で、反戦のテーマもはっきりしている。
 大林監督の、ロマンと美術の到達点と思われる映画の出来栄えで、がんと闘いながら青春の儚さと戦争の愚かさを謳い上げている。
 彼の映画美学の集大成といってもよい。

 祖父から孫の代につながる、ある一家の日常を描いた群像劇だ。
 ドラマの中には、不思議な世界が散見されて、それこそが大林ワールドなのだが魅力はたっぷりだ。
 大林監督「この空の花―長岡花火物語」(2011年)、「野のなななのか」(2011年)に続く本作「花筐 HANAGATAMI」は、彼の戦争三部作の最終章だ。



1941年春・・・。

アムステルダムに住む両親のもとを離れ、唐津に住む叔母江間圭子(常盤貴子)の家に、17歳の榊山俊彦(窪塚俊介)は身を寄せていた。
雄々しい鵜飼(満島真之介)、虚無僧のような吉良(長塚圭史)、道化者の阿蘇(柄本時生)といった個性豊かな学友たちから刺激を受け、肺病を患ういとこの美那(矢作穂香)らと青春を謳歌していた。
その彼らにも、戦争の足音がひたひたと迫って来ていた・・・。

空に巨大な月が現われる。
海面は煌々と明かるい。
現実にはあり得ない前衛的な風景である。
ファンタジーを見ているのだ。

抒情性の豊かな映像の中に、前衛的な風景が次々と繰り出される。
若者たちには悲哀感と焦燥感が漂っている。
まもなく戦争が起きると、自分たちの短い生を感じている。
ともに暮らす彼らが、戦場で命を落とすかもしれないという思いを抱いていて、彼らの青春を痛切なものにしている。
映像は、さながら戦争の犠牲となった若者達への鎮魂歌だ。

青春の輝きの中にも、悲劇はある。
太平洋戦争前夜が舞台である。
当時の若者たちは、肺結核の血や戦争の応召に死の影とロマンを見出しながら生きていた。
ドラマはまるで筋書きのないのないドラマのように展開し、モンタージュ、コラージュといった動画の手法を駆使し、終盤まで責め立てる。
ドラマの中に登場する彼岸花と薔薇の花びらは、当然死の象徴であろう。
前面に悲壮感が漂い、現代は戦前だとの危機感は、大林監督も感じ取っているのではないか。
登場する唐津くんちに見る躍動感には、死のイメージが鮮烈に感じられる。
遊び心のある美術や映像にも、仕掛けどころ満載で実に力強い。

もともとは8ミリ映画を撮っていた少年が、自主映画、CM、商業映画へと転じた大林監督の多様性か。
彼の全作品群の集大成をなすものではないだろうか。
闘病中の大林宣彦監督が完成させて、渾身の新作は2時間50分を飽きさせずに見せる。
嘘は嘘とそれらしく描きながら、平和という現実の世界に絶対に実現しないものを映画の‘大嘘’から出たまこととして描きたかった、大林宣彦監督80歳にして、作品「花筐 HANAGATAMI」は若々しいリリシズムさえ感じられる大作だ。
       [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はドイツ映画「はじめてのおもてなし」を取り上げます。


映画「嘘を愛する女」―知り尽くしていたはずのその愛は嘘か本物か―

2018-01-24 19:00:00 | 映画


 実際にあった朝日新聞の記事から着想を得て、気鋭の中江和仁監督が構想20年をかけて、この作品を完成させた。
 これもまた、ある愛(?)の物語である。

 もしも、同棲相手の素性が全て嘘であったらどうするか。
 そうだ。ちょっと怖い話だ。
 この物語は、映画企画コンペで優勝し、映画化にこぎつけたいきさつがある。
 まあ、観ても損のない映画ではなかろうか。







食品メーカーでヒット商品の開発に力を注ぐ、キャリアウーマンの由加利(長澤まさみ)は、同棲5年目を迎えた心臓外科医の恋人、桔平(高橋一生)との結婚を真剣に考えるようになった。
そんなある日、刑事2人が自宅を訪ねてきて、桔平がくも膜下出血で意識を失い、病院へ搬送されたという。
ところが、身元確認の過程で、桔平の職業や名前のすべてが嘘と判明したのだ。
由加利は桔平の正体を調べようと思い、探偵の海原(吉田鋼太郎)を雇い、彼が書き溜めていた小説を手掛かりに、小説の舞台となっていた瀬戸内へと向かうのだった。

会社の由加利と研修医の桔平は同棲5年目だ。
幸せの中にあったが、意識不明となり、名前も職業も嘘だと分かった。
由加利は桔平の過去を探る旅に出る。
愛した人は本当は誰だったのか。
由加利という女性は自分本位で、周囲を顧みずに突き進む女性のようで、共感を呼びそうな役どころではない。
本当に嫌な女であろう。

設定はミステリアスで興味深いのだが、謎を解明していく過程はいささか物足りない。
登場人物の設定に重厚感はない。
うすっぺらで、嘘をついていた桔平の理由も何だかすっきりとしない。
ドラマはそんなこんなで全容がもたついているように見える。
暗いテーマを扱いながら、笑いを織り交ぜていくあたりはいいとしても、3時間近い上映時間は間延びしてどうも・・・。
でも、なかなかの実力派俳優陣をそろえているだけに、ドラマをしっかりと支えている感はする。
物語の展開もちょっと窮屈な感じがあったりして、そうかと思うとほどほどにしなやかな余韻を持たせたり、演出には中江監督の鮮やかな手腕の見せ所も大いなる救いだ。

ドラマにはファンタジックな要素や回想シーンなども多々加わって、面白おかしい場面もある。
ヒロイン由加利は難しい役どころだが、演出によく答えて長澤まさみの熱演が光っている。
しかしまあ、結論からいってしまうと、中江和仁監督映画「嘘を愛する女」は一見ミステリアスに見せて、観終わってみると人間模様を濃密に描いた、結構純粋で素直なラブストリーではないか。
        [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は日本映画「花筐 HANAGATAMI」を取り上げます。


映画「彼女がその名を知らない鳥たち」―最低な男と女のある究極の愛の物語―

2018-01-15 17:00:00 | 映画


 沼田まほかる の同名小説を、「凶悪」1913年)白石和彌監督が映画化した。
 ひとりの女性をめぐるスリリングな愛憎劇は、多少の息苦しさを見せながら、わざとらしさと滑稽さをない交ぜにした男女のコメディとして、結構笑える作品になっている。

 厭な女、下劣な男・・・、つまりは最低な人間しか登場しない。
 それなのに、このドラマの展開は常に「愛とは何か」と突きつけてくる。
 ミステリアスな趣もふんだんに・・・。
 出演する役者の底力をうかがわせるのは、目を見張る十分豪華な(?)キャストであろうか。
 勿論主要人物のキャラクターもそれぞれ極端で、人間が本質的にもつ闇や愚かさに迫りながら、どこかに光を感じさせる作品で、原作者のベストセラー、ミステリーの面白さも躍如だ。



十和子(蒼井優)は仕事も家事もせず、怠惰な生活を送っていた。
15歳年上の献身的に尽くす男、陣治(阿部サダオ)と暮らしながらも、8年前に分かれた黒崎(竹野内豊)のことが忘れられないでいる。
下品で不潔な陣治に十和子は嫌悪感を隠せないが、ある日、黒崎の面影を持つ水島(松坂桃李)という妻子ある男と出会い、彼との情事にのめりこむ。

そんなある日、黒崎が行方不明になっていると刑事から知らされる。
どんなに罵倒されても、十和子のためだったら何でもできると言い続ける陣治が、執拗に自分を追っていることを知った十和子は、黒崎の失踪に陣治が関わっていると疑い、水島にも危険が及ぶのではないかと脅え始めるのであった・・・。

この映画には、嫌な女十和子、下劣な男陣治、ゲスな男水島、クズ過ぎる男黒崎と・・・、共感度0%の登場人物しか出てこない。
何だか、肌にまでまとわりつくような不穏で不快な空気が漂うが、物語はどうやら究極の愛に向かって着地していく。
予想を超えるラストは、誰も裁くことができない。

とにかく、嫌な奴ばかりが揃いも揃ったものだ。
彼らのファッション、表情、ベッドでの振る舞い、雑然とした室内にも細やかなリアリティがあり、俳優陣の演技も説得力がある。
人間の汚さなるものを散々見せておいて、どんでん返しのように、美しいラストシーンを用意しているのだ。
しかし、このドラマは誰もが共感できるかどうかは疑わしい。

白石和彌監督「彼女がその名を知らない鳥たち」のヒロイン、十和子は一見性格破綻者に見えるが決してそうではなく、過去も現在も彼女が黒崎という男に支配されているからだ。
この映画で、甘える猫のような女、きつい大阪弁で人を罵倒する所帯じみた女、ミステリアスな愛人といった、いろいろなタイプの大人の女を選びわけ、様々な表情をものの見事に使い分けて主人公に挑戦し続けた蒼井優に拍手を送る。
この作品に観る、はかなげな危なっかしさを見せる役柄hが、彼女の女優としての力量を広げたことは間違いない。
映画は欠点もあるが、日本映画としては面白く観ることができる。
劇中で十和子が眠り着くまで陣治がマッサージを施すシーンで、胸に手を伸ばしたことに十和子が苛立ち、「あんたみたいな不潔な男にそんな触り方されたら虫唾が走る!」と彼を罵倒するセリフもなかなかだ。
おもろうて、やがて悲しきドラマかな。
         [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回は日本映画「嘘を愛する女」を取り上げます。


映画「女神の見えざる手」―天才的なひらめきと無敵の決断力は勝つためには手段を選ばず―

2018-01-07 12:35:00 | 映画


 明けましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願い申し上げます。

 世界史を紐解けば、いつの時代にも国や世論を巻きこむ逆転劇があるものだ。
 したたかで巧妙な戦略もある。
 時には巨大な勢力や政界をも敵に回して、善かろうが悪かろうが、かつてない結末を導こうとするものだ。
  
 政治や社会さえも、その未来を見通す知識と知恵で思い通りに動かす・・・、それがロビイストという職業なのだ。
 止まることを知らないスピード感で、誰もが予測不能な驚愕の結末を迎える。
 マリーゴールド・ホテル」(1910年)ジョン・マッデン監督フランス・アメリカ合作映画である。
 これは天才的な戦略を駆使して、政治を動かすロビイストの実態に迫った、社会派のサスペンスだ。
 見応えは十分だ。

 

 ワシントンD.C.で、スパークリング上院議員(ジョン・リスゴー)による聴聞会が開かれていた。
証人となっているのは、敏腕ロビイストとして名高いエリザベス・スローン(ジェスカ・チャスティン)でコール=クラヴィッツ&ウォーターマン在職中に手がけた仕事で彼女は不正を行なっていたとされ、その真偽が問われていた。

完璧を求めるエリザベスの仕事ぶりは、クライアントの要望を叶えるため、これはと思う戦略を立てたら一切妥協を許さなかった。
彼女の仕事ぶりは政治やメディアからも一目置かれており、社内でも「ミス・スローン」と呼ばれ、畏れられる存在だった。
眠る間も惜しんで、戦略の根回しや裏情報をつかむのを目的とし、私生活での交遊はゼロに等しく恋人ももちろんいない。
男性への欲望は高級エスコートサービスで満たしていた。
そして、聴聞会からさかのぼる3カ月と1週間前、本編は幕を開けるのだが・・・。

このドラマでは、アメリカの銃規制法案の賛成派と反対派が対立しており、スローンの小さなロビイ会社はこの法案に賛成の立場をとる陣営を支援していた。
ロビイストのスローンは、法案の議会可決をめぐって、彼らへの暗躍を見せ、息をもつかせぬサスペンスドラマとなった。
さすが、スローンも予期しなかった事件が起きたりする。
政敵の会話の盗聴や、スパイを潜入させることなど朝飯前だ。
次々と大胆な策を繰り出し、ついには過半数に近い議員の賛成票を取り付けるに至るのだが・・・。

自分の部下を道具のようにしか思わない、スローンの仕事と言ったら圧巻の徹底ぶりだった。
だが欠点もある。
スローンを駆り立てる動機については、よくわからない。不明確なことも多すぎる。
勝つためには手段を選ばぬ彼女の戦い方は、古巣や議員に影響力のある団体から反撃を食らうことになる。
先日だったかラスベガスで銃乱射事件があったが、タイムリーでもある。
アメリカでは何故銃規制が進まないのだろうかと思う。

これはしかし、その事の善悪を問うドラマではないので、いわばアメコミのヒロインをちょっと悪く可愛く見せるところに、スーパーウーマンの戦いを楽しもうといいう狙いもある。
フランス・アメリカ合作映画「女神の見えざる手」は、フィクションではあるけれど脚本はよく練られており、さすがは弁護士だったジョナサン・ペレラで、セリフはくどくどしく、俳優陣の喋りかたも少し早い。
観ているほうはそのあたりをクリアできれば、観て損のない映画である。
ロビイスト役のジェスカ・チャスティンはこの役なかなかハマっている。
しかしロビイストなる彼女らが、モラルや常識もなくその見えざる手で人々の心や巨大な権力すらを、自由に武器も使わずに危険な一線を越えて秘策を繰り出されたりすれば、日本はどうなってしまうだろう。
         [JULIENの評価・・・★★★★☆] (★五つが最高点
次回は日本映画「彼女がその名を知らない鳥たち」を取り上げます。