いつしか凶暴な嵐も去り、熟成の秋が大地を覆い始める頃となった。
過ごしやすい季節である。
横浜市の県立神奈川近代文学館を訪れる。
11月24日(日)まで、特別展「中島敦展」が開かれている。
高校時代の国語の教科書に、名作「山月記」が登場したときは、今も思い出すが、不思議な衝撃と感動に胸を打たれたものである。
今回の特別展は、中島敦の短く起伏に富んだ人生を「旅」としてとらえ、わずか33年の生涯を展観する。
「山月記」のほかにも「李陵・司馬遷」といった名作を残し、その生涯に遺した作品は20数篇に過ぎない。
だが、それらの作品の端正な筆致と物語性に富んだ小説などは、今も多くの人々を魅了するものだ。
特別展では、短かったが転変の多かった中島敦の人生を、彼の直筆の原稿用紙や手紙、写真などを通してその生涯を振り返る。
中島敦は亡くなったときは無名だったが、神奈川近代文学館(TEL/045-622-6666)では5660点もの膨大な資料を所蔵しているうえに、未定稿や資料は遺族が保管していたものもあって、過去3回も展覧会を開催しているそうだ。
今回の展示について、第一部では少年時代、東京帝大学生時代、横浜高等女学校(現、横浜学園高等学校)教諭時代、第二部では、文字から文学が生まれるという「光と風と夢」など傑作が次々と登場した豊饒の時期、そして第三部では、中島敦の作品が現代文学、漫画、映画などにどのような影響を及ぼしたか、その経緯について紹介している。
中島敦は、横浜では8年間を過ごしているが、南洋庁の国語編修書記としてパラオにも赴任していた。
しかしながら、かねてからの喘息の発作に耐えかねて、転地療養をも考えたが、病状は悪化し1942年12月その短い生涯を閉じる。
彼の33年の足跡を、貴重な資料を多面的に俯瞰出来てよい。
今からだと、11月17日(日)には中央大学教授・山下真史氏の講演が予定されているほか、会期中毎週金曜日にはギャラリートークが行われている。
読書の秋である。
今月9日(土)まで読書週間だ。
中島敦の珠玉のような作品の数々に触れ、そこからかもし出される知的に構築された世界を、揺るぎのない美しい文章で堪能するのも一興ではなかろうか。
神奈川近代文学館の次回企画展は、「没後50年 獅子文六展」で12月7日(土)から催される。
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