徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ダリダ~ あまい囁き~」―輝かしい栄光と深刻な孤独を隣り合わせに生きて―

2018-05-27 16:00:00 | 映画


 1973年、アラン・ドロンとのデュエット曲「あまい囁き」が全世界で大ヒットとなった。
 タイトルの副題はそこから来ているようだ。
 ダリダの美貌とエキゾティックな歌声は、フランス全土に社会現象を起こしたほどであった。

 三十年間も輝き続けた国民的スター歌手ダリダは、数々の情熱的な恋愛に翻弄され続け、1987年に54歳で自らその命を絶った。
 愛と孤独の生涯を生きた輝く歌姫の人生を、フランスのヒットメーカー、リサ・アズエロス監督がドラマティックな軌跡をたどりながら活写した。
 ダリダはエジプト出身のイタリア人で、のちにフランス国籍を取得し、デビュー曲から一世を風靡し、世界股にかけて活躍した。
 脚本も担当したリサ・アズエロス監督は、何と「太陽がいっぱい」(1960年)アラン・ドロンの恋人役を演じたマリー・ラフォレの娘だそうだ。




ドラマは、ダリダ(スヴェヴァ・アルヴィティ)が34歳で自殺未遂し、そのことが世界に報じられるところから始まる。
その1ヵ月前、恋人のルイジ(アレッサンドロ・ボルギ)が拳銃自殺を遂げていた。
ダリダの方は一命をとりとめるが、パリ近郊の施設に移される。
23歳でデビューしたダリダは、ミス・エジプトに選ばれ、その美貌とエキゾティックな語りかけるような歌い方で大スターになる。
だがその実彼女は、夫を愛し子供を育てる、平凡な幸せに憧れていたのだった。

しかし、恋に落ちては別れを繰り返し、傷ついたダリダの歌の表現力は磨かれ、年下のルチオ(ブレンノ・プラシド)との恋を「十八歳の彼」に込めて、元夫のルシアン(ジャン=ポールルーヴ)が自殺した時は「灰色の途」妖しい魅力の男性リシャール(ニコラ・デュヴォシェル)と出会って「あまい囁き」と、私生活のすべては歌に結びついていく。
彼女にとって、幸福と不幸は隣り合わせであった・・・。

登場する人物は皆役作りに凝っていて、性格がよく表れているようだ。
オーディションで200人から選ばれたという、ヒロインを演じるスヴェヴァ・アルヴィティはイタリアのローマの生まれで、17歳でニューヨークに渡り、モデルとして活躍していた。
2010年、「ソフィア・ローレン 母の愛」で女優デビューした。
この女優はなかなか存在感のあるオーラを放っており、文字通りイタリア大女優ソフィア・ローレンを思わせ、彫りの深い美貌とすらりと伸びた美しい手足は、ダリダという人気歌手の役に見事に嵌まっている感じだ。

ダリダにもオーラがあり、いつも心を込めて歌を歌う。成功は必ずあとからきっと追って来る。
そこには数奇な人生の運命も伴われて・・・。
彼女の放つオーラも、周りの男たちの心をかき乱し、男たちは嫉妬や絶望で身を崩し、ダリダは自分の罪悪感(?!)で心を病む。
それでも、彼女の心が侵され傷つけられるほど、歌声は深みを持ち人々を惹きつけていく。
スターの伝記にはいろいろ難しいこともあるが、この作品に限ってはそれでも一応の成功を収めているように思える。
どらまの最終盤、リシャールが自殺し、愛する人の自殺が3人目となって4年後、1987年、「人生に耐えられない。許して」と、ダリダは遺書を残して自殺する。享年54歳だった。

名曲の数々と華麗なファッションが耳や目を楽しませてくれるが、傷つくほどに歌が深みと輝きを増すというのは、どうにもやるせないものだ。
女優マリー・ラフォレを母に持つリサ・アズエロス監督フランス映画「ダリダ~ あまい囁き~」は、自分の心に正直に生きたひとりの歌姫を描いて飽きることはない。
ちょっと悲しい音楽映画のようではあるが・・・。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
現在横浜シネマジャック&ベティ(TEL:045-243-9800)で6月15日(金)まで上映中。
次回は台湾映画「軍中楽園」を取り上げます。


映画「しあわせの絵の具 / 愛を描く人 モード・ルイス」―絵画のように優しく紡がれる夫婦の絆―

2018-05-18 12:15:00 | 映画


 日本ではあまり知られていない、カナダ画家モード・ルイス(1903年-1970年)の実話だ。
 彼女の創作活動と結婚生活に光を当てた、すてきな人間ドラマが伝わってくる。

 猫などの動物をユーモラスに誇張して描き、鮮やかな配色の草木や田舎の風景など、どれをとっても明るく愛くるしい。
 絵画は温かな描き方で、こんな絵の描き手が、このドラマのような壮絶な人生を送っていたとは・・・!
 四季折々の、厳しいけれども美しい自然を背景に、三角屋根のちっぽけな家がアトリエとなり、それもこれもがまるで芸術作品のように、時の流れを描き出している。

 アイルランド・ダブリン出身アシュリング・ウォルシュ監督の作品で、登場する夫婦の静謐な迫力が、二つの魂と交わりながら、「しあわせ」とは何かを優しく語りかけてくる一作だ。



カナダ東部ノバスコシア州・・・。
絵を描くことと自由を愛するモード(サリー・ホーキンス)は、小さな町で厳格な叔母アイダ(ガブリエリ・ローズ)と暮らしていた。
モードは兄や叔母の冷たさに耐えていたが、自立を求め、一人の男が店の壁に張った家政婦募集の広告を見て彼の家に押しかけ、住み込みで働かせてもらうことにした。
その男エベレット(イーサン・ホーク)は、魚の行商人で、町外れの粗末な一軒家に住んでいた。

モードは子供の頃から重いリュウマチを患い、一族から厄介者扱いされてきた。
一方エベレットは孤児院で育ち、学もなく、電気もない小さな家で、生きるのに精一杯だった。
やがて二人は結婚し、そんなはみ出し者同士の同居生活はトラブル続きだったが、無欲で多くを望まないモードの描く絵を5ドルで買ってくれるサンドラ(カリ・マチェット)のいるおかげで、夫婦の世界はささやかな変化を見せ始める。
そうしてモードの絵は次第に評判となり、アメリカのニクソン大統領から依頼が来るが・・・。

粗暴な魚の行商人と、家事をせっせとこなし絵も描くヒロインは行くあてもない。孤独な男女は結婚するといつも寄り添っている。
そして、貧しいが豊かな居場所を自分たちで見つけていく。
ひとつベッドに雑魚寝で、厭なら出て行けといわれるモードだが、喧嘩もするが簡単にはひるまず、絵の具を買うお金が欲しいなどとねだったり、要求は抜け目なく、まあまあ二人は結婚したわけだ。
妻は有名人となり、夫にはそれも不満でまた喧嘩したりもする。
でも、何となく仲良くなったりする。
わずか4メートル四方の家で、絵を描きながら暮らすモードを演じるのは、「ブルー・ジャスミン」(2013年)の実力派サリー・ホーキンスで、妻への愛と尊敬の念も無骨なエベレットに扮するのはアカデミー賞ノミネート組のイーサン・ホークで、このはみ出し者同士がいつしかお互いを認め合い、結婚にこぎつける過程もわかるような気がする。

粗末な家の室内の壁から外壁まで、モードは絵を描き続ける。
67年の生涯を終えるまで・・・。
主人公の病状が悪化する中で、わが手に抱かないまま別れ、養子に出された娘のことも気にかかっている。
それでもわが子との対面は望まず、その心情が胸を打つ。
そんな生き方が二人の夫婦のありかたなのだ。
これを時間が育てる夫婦の愛というのだろうか。
社会からつまはじきにされた二人が愛を育み、ささやかに生きている。
その不器用な(?)女が、何とも言えない輝きをこの作品にもたらしている。
カナダ・アイルランド合作映画「しあわせの絵の具/愛を描く人 モード・ルイス」は、小品ながら心温まる芯の通った作品で、見応えのある感動作といえる。
いい映画だ。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はフランス映画「ダリダ~あまい囁き~」をとりあげます。


映画「ハッピーエンド」―壊れかけたガラス細工のような家族の愛と死をめぐる物語―

2018-05-07 16:00:00 | 映画


 季節は早いもので、晩春を越していつの間にか立夏も過ぎて、もう初夏の勢いである。
 この連休中は、映画館もシネコンも大いににぎわったようだ。
 さてと・・・。

 老いと死を描いたあの「愛、アムール」(2012年)から早くも6年になる。
 ドイツ出身オーストリア巨匠ミヒャエル・ハネケ監督の、衝撃的な喜劇ともいわれる最新作である。

 タイトルはハッピーだが、映画は真逆だ。
 この作品には不幸と絶望が渦巻いていて、何とも寒々とした映画なのだ。
 登場人物たちの深層心理を読み解いていくと、身も凍るような恐怖を感じると同時に、乾き切った溜息の漏れる悍ましさに痛々しささえ感じられる。



ドーバー海峡を望むフランス北部の大都市カレー・・・。
薬物中毒に陥った母親の入院で、ひとりぼっちになった13才の少女エヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)は、母と離婚した父トマ(マチュー・カソヴィッツ)のもとに身を寄せる。
ブルジョワのロラン家は、三世帯が一緒に暮らしている。
家長のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)はすでに建築業を引退し、娘アンヌ(イザベル・ユベール)と息子ピエール(フランツ・ロゴフスキ)も専務として母のもとで働いている。
アンヌの弟トマにはエヴの母親と別れた後に再婚した妻アナイス(ローラ・ファーリンデン)と幼い息子ポールがいる。

この裕福な一家を、事件が次々と襲ってくる。
アンヌの会社の建設現場での地すべりで作業員が負傷したかと思うと、祖父ジョルジュが自殺を図ったのちさらに死の機会を探していく。
混乱の中で、家族に伏在した亀裂が顕在化する。
トマもエヴも祖父ジョルジュも、それぞれが秘密を抱えており、いつも同じテーブルを囲んでいるのに誰もが自分のことにしか関心を持っていないのだ・・・。

少女エヴは、バラバラの家族の中にいて、次第に孤独を深めていく。
幼くして父に捨てられ、愛に飢え、死とSNSの闇に取りつかれたエヴの閉ざされた心を、ジョルジュの衝撃の告白がいやが上にもこじ開けるのだ。
現代社会は、容易にいつだって誰ともつながることができる。
それなのに、同居していながらばらばらに隔絶しているロラン家の対比はどうだろう。
そこには重い現実が横たわっている。
愛でなければそれは憎しみなのか。
そうではない。無関心なのだ。ひたすら無関心なのだ。
祖父とエヴの、似た者同士(?)の怖さを感じさせる喜劇(?!)なのだ。

いやいや・・・。
円熟味のこもった、個々の人間描写には頭の下がる思いがする。
上品ぶっていながら、どこか人の悪い、人間階級の痛々しさがのぞかれて、それは滑稽以外の何ものでもない。
フランス・ドイツ・オーストリア合作映画「ハッピーエンド」は、裕福な家族に亀裂が走り、衝撃のラストにはこれまた驚くばかりである。
これを、不気味なサスペンスをともなったブラックユーモアの世界というのだろうか。
この映画の鑑賞後の心理は、複雑の一言に尽きる。
孤独な魂の出会いによって、禁断の扉が開く。

冒頭のスマートフォンに映る動画の場面からスタートして、破滅的な人間心理の内奥を照射して、ミヒャエル・ハネケ監督の力量は確かで、ともにヨーロッパ屈指の並み居る実力俳優の饗宴にはさすがに酔いしれる!
名監督のもとに、素晴しい出演者たちが集まったものだ。
        [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はカナダ・アイルランド合作映画「しあわせの絵の具/愛を描く人 モード・ルイス」を取り上げます。