見ようと思っていて、忘れていました。
公開最終週に、どうやら間に合いました。
この映画、シエイクスピアの「ハムレット」を下敷きにした、絢爛豪華な舞台劇のようです。
この作品では、ヒロインのチャン・ツイイー演じる王妃(皇后)ワンは、夫を殺して皇位に着いた義弟リーと結
婚するのですが、実はリーではなく、ハムレットに相当する皇太子ウルファンだという、大胆な設定です。
言い換えれば、「ハムレット」の皇后(王妃)ガートルードをヒロインにすえ、ハムレットを義理の息子として
いるわけなのです。
・・・遠い昔(?)、英語の授業で、シエイクスピアのこの物語を読んだことを思い出しました。
<To be or not to be, that is the question. 生きるべきか、死すべきか、それが問題だ。>
映画「女帝」は、唐王朝が滅亡した直後と思われる、中国古代の戦乱の時代の物語です。
そして、この物語は、先代の皇帝の怨恨から発した愛憎渦巻く復讐劇へ発展していくのです・・・。
全編、絢爛たる映像美と目をみはるアクションの連続です。
どうしてどうして期待にたがわず、なかなかの見ごたえです。
特筆すべきは、ヒロインのチャン・ツイイーの素晴らしさです。これはもうこの人のほかにいないでしょう。
彼女は今年28歳、いまやアジアの宝石とまで言われる、中国を代表する女優ですが、評判はうなぎ
のぼりです。ハリウッドからも多くのオファーがあるといいます。
<HERO><LOVERS><SAYURI>、そしてこの<女帝>と一段と成長してみがきがかかって,
世界的な評価の高まっていることもうなずけます。
かつての可憐で清楚な役柄から、初の汚れ役、悪女を演じていますが、さすがに、確かな演技力と舞
踏(立ち回り)のできる得がたい女優で、いまがまさに旬といったところでしょうか。
シャオガン監督は、あくまでも人間の欲望にこだわって、この作品をつくったそうです。
演出もかなり凝っていました。
たとえば、何ともあの妖しげな白塗りの仮面の舞踏といい、敷物の上を這い回る一匹の大きな蠍(さそ
り)のシーン等等・・・。
登場人物は、その誰もが欲望の中で自己を失い、滅びてゆくのです。
いわば、その滅びの美学とでも・・・。
おのれの権力を完璧なものにするため、臣下たちの前で粛清を続ける皇帝リーに忠誠を迫られた王妃
ワンは、今度はわが身を守るために、世界で一番憎い男の前にひざまずくのです。
・・・そこで、彼女は、自分の持つもっとも気高い魂を、復讐の神に捧げるのですが・・・。
権力と野望、愛と復讐・・・それらは、どうも映画のシーンのいたるところで見られる、「赤」と「黒」の色調に象徴
されているようにも見えました。
極めつけは、いよいよその時がおとずれて、広大な宮廷の夜宴の席で、「毒」が「華」となって、最後の
のクライマックスにいたるあの場面です・・・。
男女の群臣たちの舞いが踊られ、雅な音楽が流れ、その中で酌み交わされる美酒(?)・・・。
人それぞれの、欲望に満ち満ちた毒の入った盃は、最後に一体誰の手に渡るのか。
王妃ワン(チャン・ツイイー)が、固唾を呑んで見守る中、蠍(さそり)の猛毒を溶かした盃に、皇帝が口を
つけようとしたその瞬間から、二転三転、いや四転もあったかと思われる、息づまるような衝撃のカタス
トローフへ・・・。
ただ この夢のために
山河は砕け散る
ただ この思いのために
別れては まためぐり合う
すべての愛をかけて 報いたのに
あなたは戻ってはこない
歳月がすべてを押し流し
やがて何もかもが消えていく
何もかもが・・・
何もかもが・・・
上映時間2時間20分、短く感じられました。
中国映画の、文句なしの秀作とみました。
最近、中国映画の海外進出、目覚しいものがありますね。
このところ低迷している、日本映画に頑張ってもらいたいものです。