徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「パリ、恋人たちの影」―ありふれた男女の人生が小さな宝石のように輝くとき―

2017-02-26 17:00:00 | 映画


 精力的に男女の愛の物語を撮り続けてきた 、フィリップ・ガレル監督の最新作である。
 ガレルといえば、ヌーヴェルバーグの恐るべき申し子だ。

 夫の才能を信じ、自分の夢を捨てて献身する妻との、二人の愛の破局と再生を美しいモノクロームの映像で綴る。
 監督の息子ルイ・ガレルがナレーションで参加している。
 洗練された脚本で描かれる男と女の情熱と傷心が、1960年代のフランスの香りを運んでくる。





妻マノン(クロティルド・クロー)は、夫ピエール(スタニスラス・メラール)の才能を信じ、自分の夢を捨て二人三脚で映画制作の仕事を手伝っていた。
ピエールは制作に行き詰まりを感じ始めていたある日、若い研修生のエリザベット(レナ・ポーガム)と偶然出会い、恋に落ちる。
同じ目標を持つことで、二人の間の愛を信じていたマノンだったが、いつしか二人の気持ちは少しずつすれ違っていく。
エリザベットはある時、予期せずにピエールの妻マノンが浮気相手と会っているところを目撃する。
彼女は悩んだ末に、そのことを彼に告げるのだが・・・。

夫も妻も、それぞれ浮気心を持っている。
作品の語り口はやや古典的だ。
想い描いていた未来とは少し違う現在・・・。
満たされない想いと孤独を抱える、男と女がいた。
夫がありながら、浮気心をどうすることもでき出来ない妻も、妻のいることを知りつつ男と付き合う女も、みんな勝手なものだ。
三人が三人とも愛を渇望し、彷徨っている。
そこに、傷つきながらも小さな宝石のように輝く恋人たちの影があった。

パリで暮らす男女が些細な行き違いから、浮気心を起こして嫉妬し、再び愛し合う。
俗っぽく言えば犬も食わない夫婦の腐れ縁の話に過ぎないのだ。
ただそれだけの物語である。
どこにでもあるようなそんな話が、上質の瑞々しい恋愛映画になっている。
無駄のないセリフは鋭く核心を突き、どこか愛の教科書みたいな感じがする。
この映像の感触は、ジャン=リュック・ゴダールの映画を思い起こさせる。
ちょっぴり艶やかで、軽いタッチのラブストーリーだ。

フィリップ・ガレル監督フランス映画「パリ、恋人たちの影」は、あらゆる男女に起こりうるふとした出来心と、ささやかな嫉妬となじり愛を見つめて、どこまでも醒めている。
モノクロの画面が無垢の哀しみを漂わせている。
舞台を現代のパリに置き換えて、しかし時代も土地もはるかに超えて、時間が止まっているような情感がある。
そうなのだ。
なるほど、追えば逃げ、逃げれば追う。
この作品のキャッチコピーというわけではないけれど、愛は影のようにまことに身勝手なのである。
       [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は日本・フランス・タイ・ラオス合作映画「バンコクナイツ」を取り上げます。


映画「ホワイトリリー」―心を縛られた女と女の情念のぶつかり合い―

2017-02-23 16:15:00 | 映画


 ホラー映画の名匠といわれる中田秀夫監督が、レズビアンの世界に挑戦した。
歪んだ愛の果てに、女同士の究極の純愛はありうるのか。

 新作ロマンポルノシリーズ最後の公開となったこの作品で、中田監督は官能と耽美の世界を確かな心理ドラマとして描こうと試みた。
 女同士の恋愛で、難しいのは演技だ。
 日活撮影所出身の中田監督が、ホームグラウンドに戻ってきて、いかにして女性のキャラクターに感情移入して、女性の生き様とパッションを描いたか。
 若い女性を含む大勢の観客が映画館に詰めかけているのは、ある意味大変喜ばしいことでもあるのだが・・・。





教室を開いている女性陶芸家の登紀子(山口香緒里)に、弟子のはるか(飛鳥凛)は憧れを抱いていた。

秘密を抱えながら寄り添って生きている二人の間に、ある日男性の新弟子が踏み込んで来て・・・。
そして、そのことによってそれぞれの愛が暴走を始める・・・。

映画「ホワイトリリー」は、男性新弟子を絡めた三角関係となり、官能美たっぷりに物語は綴られる。
この男女の三角関係は、激しい感情のぶつかり合いが最大の見せ場となっている。
百聞は一見にしかず、禁断の世界である。
先生と生徒という関係が、恋愛に通じる感情は理解できる。
中田監督はこの作品のために、国内はもとより、海外の女性同士の恋愛映画を片っ端から観たそうだ。
それで、現場のスタッフ、キャストを含め、信頼感に満ちた撮影ができたと言っている。
この種の映画作品での主役は、まぎれもなく女性であり、彼女たちはいつもスクリーンで輝いており、登場する男性がいても彼らはあくでも添え物でしかない。
この映画では、女性が自らの官能性に率先して耽溺していくわけで、そのことによってさらに昇華されたエロチシズムは、危うい狂気の寸前まで陥って表出されることになる。

小説や漫画を原作とした作品ばかりが並ぶ昨今の邦画界では、この全5作品ともなるシリーズものの企画は、極めて画期的なことだろうと思われる。
しかも、すべてがオリジナル脚本だ。
またそこが監督の腕の見せどころでもある。
男と女であれ、女と女であれ、恋愛物語にラブシーンはつきものだし、それひとつとっても大きな映画文化だ。
中田秀夫監督は1961年生まれ、東大卒、日活撮影所では小沼勝監督澤井信一郎監督の下で助監督としての経験を積み、92年TVドラマ「本当にあった怖い話」シリーズで演出を担当した。
映画監督デビュー「女優霊」(96年)で、その後「リング」(98年)、「リング2」(99年)で日本映画界にホラーブームを巻き起こしたのだった。
近年の作品としては「クロユリ団地」(13年)、「MONSTERS モンスターズ」(14年)がある。
        [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回はフランス映画「パリ、恋人たちの影」を取り上げます。


映画「マリアンヌ」―過酷な現実に翻弄される運命のただ中で試される愛の真実―

2017-02-16 12:00:00 | 映画


 ハリウッドを代表するブラッド・ピットと、世界的な実力派女優マリオン・コティヤールの競演による、ラブストーリーだ。
 名匠ロバート・ゼメキス監督は、時代に翻弄されながらも、愛する人を信じて運命に立ち向かう主人公たちが繰り広げる大人のドラマを誕生させた。

 スティーヴン・ナイトのオリジナル脚本も、冒頭から観客をひきつけ、情熱的なラブストーリーはドラマティックな見どころ十分で、全編を彩るスパイ・サスペンスに心を掴まれる。
 主演二人の心に秘めた熱い想いと、大切なものをすべて失いかねない極秘ミッションの間で揺れ動く感情の機微を、繊細な表現で巧みに演じ分けているところなど、ストーリーにも説得力を与えている。




第二次世界大戦下の1942年・・・。
イギリスの諜報員マックス(ブラッド・ピット)と、フランス軍レジスタンスのマリアンヌ(マリオン・コティヤール)は、あるミッションの遂行を通して、カサブランカで出会った。
二人は見事に夫婦を演じ、ナチス要人の暗殺という計画は見事に成功し、このことがきっかけで、マックスにマリアンヌへの抑えきれない感情が芽生え、やがて二人はロンドンで正式に結婚する。

最愛の娘にも恵まれ、幸せな生活を送る二人だった。
だがマックスは、マリアンヌの信じられない秘密を上司から伝えられる。
それは、マリアンヌに二重スパイの疑いがあるというのだった。
そして、72時間以内に無実を証明できなければ、妻の命をマックス自身の手で奪うか、マックス自身が処刑されるという指令が下されるのだった。
マックスは、疑惑が偽りであることを証明しようと奔走するのだったが・・・。

マックスの目に映る日常は一変し、マリアンヌの些細な行動すべてが疑わしく見えてくる。
唯一変わらないものは、マリアンヌへの愛しさだった。
不器用なマックスが、逆境の中で妻を愛し、信じきることができるか。
アメリカ映画「マリアンヌ」では、ヒロインの正体がわかった時、二人が涙で導き出した運命は、予想もつかない結末へとなだれこんでいく・・・。

幸せから一転、苦悩する夫へ、夫の変化に気づく妻・・・。
さすが名優だ。
ブラッド・ピットマリオン・コティヤール、二人の演技派が難しい心の機微を演じ分ける。
最初は、二人は初対面にもかかわらず仮の夫婦を装って危険な任務に就き、マリアンヌの巧妙なリードがあって、ナチス側の人々も無事彼ら夫婦を信じたようだ。
マックスは、女スパイと恋に落ちるなど危険だと考えてきたが、命がけの仕事を共にする大胆で美貌のマリアンヌと、結局激しい恋に落ちてしまうのだ。

カサブランカでの危険な任務の最中で愛し合った二人の運命は、ロンドンに移ってからもサスペンス色を強め、ブラッド・ピットの抑え気味の演技と、ティヤールの奔放な存在感が、ドラマを終盤までぐいぐいと引っ張っていく。
この作品を鑑賞したある若い女性は、結末を見て、切なくて胸が張り裂けそうだと語っていましたけど・・・。
戦争という価値観が混乱する時代の中で、極秘任務を背負って結ばれた男女は、愛に安らぎを見出せるものか。
あまりにも強く激しい愛の形が、このドラマの最後に待ち受けている。
よく出来た、楽しめる映画だ。
      [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回は日本映画「ホワイトリリー」を取り上げます。


映画「エリザのために」―社会の矛盾と善悪の揺らぎの中に人間を見つめるヒューマンドラマ―

2017-02-11 18:00:00 | 映画


 父親は考える。
 子供のための人生なのだから、子供のためには何でもする。
 だからといって法を破ってよいのか。
 父親のありかた、そして子供の求めているもの、父親の思い込みをめぐって、この作品は、ルーマニアの不正のはびこる社会で翻弄される大人と、それを乗り越えていく若い世代を、厳しいリアリズムのタッチで描き出している。

 「4カ月、3週と2日」(2007年)、「汚れなき祈り」(2012年)に続き、社会派のクリスティアン・ムンジウ監督が、ルーマニアの政治的腐敗を背景に、緊張感みなぎる5日間の物語を綴った。
 この作品の謎めいた演出力は、どうやら最後の一瞬まで、観る者の心をとらえて離さないようだ。
 クリスティアン・ムンジウ監督といえば、もはや近年では最高賞パルムドールなど、三度受賞に輝くカンヌ国際映画祭常連ではないか。


ルーマニアの地方都市にある病院に勤める中年の医師ロメオ(アドリアン・ティティエニ)は、妻マグダ(リア・ブグナル)と、高校卒業試験を控える娘のエリザ(マリア・ドラグシ)の3人家族だ。
一家は、国の民主化による変化を期待して帰国したのだが、今の腐敗がはびこる祖国の現実に嫌気がさしている。
そんなロメオが強く望むのは、エリザをイギリスの大学に留学させることだった。
その一方で、ロメオは英語教師のサンドラ(マリナ・マノヴィッチ)と愛人関係にあり、マグダとの夫婦生活は冷めている。

ある朝、ロメオがエリザを高校へ送った後、彼女が暴漢に襲われるという事件が起きる。
エリザは命にかかわる負傷は免れるが、手に怪我をし、精神的に大きなショックを受ける。
エリザの動揺で試験に失敗することを恐れたロメオは、警察署長や試験担当官、さらには副市長に会うなどして奔走し、何とか口利きを頼みこむが、副市長の不正を捜査する検察官に目をつけられるハメになる・・・。

家族の朝の風景の中、家の窓ガラスが何者かの投石で突然砕け散る。
また別の日には、ロメオの自動車のフロントガラスが割られていたりと、映画は冒頭から不穏な空気を漂わせる。
犯人はいずれも解らずじまいだが、エリザを襲った暴漢も・・・。
警察は彼女に容疑者を面通しさせるが、結局犯人は解らない。
こうした社会不安を象徴するような謎めいた雰囲気を、主人公の心理に重ねるように、クリティアン・ムンジウ監督の演出は多義的に大きく膨らませていく。

驚くべきことには、ルーマニアという国は、民主化後とはいえ今でもなお汚職やコネが平然とはびこり、無法社会だそうだ。
このドラマでロメオは、何が正しく、何が正しくないか、判断を次第に失っていく。
ロメオはコネで結びついた人間たちの間を奔走し、その合間には姑、妻、恋人らと向き合わねばならない。
手持ちカメラの揺れる映像を通して、ロメオに追随し、観客は疑似体験を強いられる。
チャウシェスク政権打倒後、理想的な社会の建設を果たせなかった徒労感は、ロメオによって吐露される。
違法な口利きやコネを使って、様々な裏工作を試みる父親の、凝縮された5日間の物語である。
ルールや法律よりも便宜と恩義でつながる、るルーマニア社会特有の人間模様だ。

ここに登場する父親は、根っからの悪人ではない。
体調の思わしくない妻の代わりに娘の世話をし、学校へ送る。
病院の老母に対する気遣いも忘れないし、病院では謝礼を受け取らない誠実な医師としての信頼も厚い。
そんな一面もある。

妻を裏切っている夫が父親として娘に見せる愛情は、自分だけが子供のことを大事に考えているという、父親だけの誇大な思い込みではないのか。
この男だけを見れば、ずいぶん自分勝手な男だと映る。
娘は娘で自立心が芽生えて、傷ついた自分の気持ちに寄り添ってくれる父親とは思っていないようで、ロメオにはどうもそれが見えていない。
彼は、自身も社会の汚れた側面に手を染め、家族も自分も破綻していく。
端的に言えば、このルーマニア・フランス・ベルギー合作映画「エリザのために」は、ルーマニアの現実を如実に映し出している。

この作品は会話劇の要素が強い。
ヒロインのエリザの姿は、諦めや苦しみだけではない、かすかな救いも見える。
そこにこの映画の価値を見出すのだ。
親の気持ちからすれば、娘に希望を託し、のびのびとした外の世界に送り出したい。
だが実際には、子供たちは親の心配などよそに、自力でいつの間にか成長しているのだった・・・。
      [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はアメリカ映画「マリアンヌ」を取り上げます。


文学散歩「全身小説家・井上光晴展」―神奈川近代文学館にて―

2017-02-07 16:30:00 | 日々彷徨


 早春の昼下がり、横浜の港の見える丘公園は、まだ風が少し冷たかったが明るい日差しがあふれていた。
 作家・井上光晴(1926年~1992年)神奈川近代文学館3月20日(月・祝)まで開催されている。
 井上光晴は、朝鮮戦争、被差別、廃炭鉱、原発など、戦後の社会問題をテーマに、人間の真実を追求し続けた。
 その文学に捧げた、生涯と作品が展示されている。

 井上は福岡県久留米の生まれで、長崎県の軍港の街・佐世保や炭鉱の島・崎土で、貧しい少年時代を過ごした。
 作り話が得意だったその頃から、小説家としてはうってつけの天分を覗かせていたといわれる。

 開催展は、井上文学の核となる重要な原風景の紹介に始まり、原発や精神病、高齢化など現代社会にはびこる多様な問題をそのテーマとして掲げており、独特の作品世界を築き上げる過程など、行動する小説家の軌跡をたどる。
 虚実を巧みに織り交ぜた作品の多くは、社会や時代の暗部に鋭く切り込んで、自身が癌で倒れた最期の瞬間まで、小説家であり続けようとした様がうかがわれる。
 その生涯は生き方すべてが小説を書くことと一体化していたことから、長年井上と親しく交わった作家の埴谷雄高は、後輩作家のこの姿を「全身小説家」と名付けて憚らなかった。




本展では、遺族から寄贈された収蔵コレクションを中心に、全身小説家・井上光晴」の実像に迫っている。
ただ、井上は原稿用紙への筆記を苦手として、市販の大学ノートに横書きで作品を執筆し、これを妻の郁子が原稿用紙に清書していた。
1992年5月、66歳で逝くまで壮絶な闘病生活を支えたのは、書くことへの凄まじいまでの執念であった。
作家の執念恐るべしであろう。

各種イベントとしては、2月19日(日)日大教授紅野謙介氏の講演をはじめ、3月4日(土)トークイベント「娘として、小説家として~父・井上光晴」と題する井上荒野(井上光晴長女)と鵜飼哲夫氏(読売新聞論説委員)の対談が予定されている。
また、1994年日本映画監督賞、日本アカデミー賞特別賞を受賞した文芸映画「全身小説家」の上映会が、3月10日(金)、11日(土)展示館2Fホールで催される。
なお、神奈川近代文学館3月25日(土)からは、企画展「生誕150年正岡子規展ー病牀六尺の宇宙」展が予定されている。

本編ブログ次回はルーマニア映画「エリザのために」を取り上げます。


映画「アラビアの女王 愛と宿命の日々」―強く気高く美しく翻弄の歴史の時代にヒロインとして選ばれし女―

2017-02-03 12:00:00 | 映画


 二十世紀初頭、 「砂漠の女王」「イラク建国の母」と呼ばれ、探検家、考古学者、詩人、登山家、諜報員など様々な顔を持つ英国人女性ガートルード・ベルの半世紀を、ニコール・キッドマンの主演で描いた大作である。

 「アラビアのロレンス」(1962年)公開から半世紀を経て登場したこの作品は、アラビアの砂漠の地を旅したひとりの女性の壮大な大河ロマンだ。
 主人公は、まさにもうひとりの「アラビアのロレンス」(女性版)と称される重要な存在となり、ドイツ鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク監督は、過酷な運命に抗いながらも誇り高く生き続けた女の、愛と歴史のタペストリーとして紡いでいった。






鉄鋼王の家庭で何不自由なく育ったガートルード・ベル(ニコール・キッドマン)は、社交界でデビューするがその空気になじめず、叔父を頼りにペルシャへ出かけることになる。

砂漠を中心に約2500キロの旅を続け、各地の部族とも交流する。
ガートルード・ベルは砂漠に魅了され、愛し合ったヘンリー(ジェームズ・フランコ)やリチャード(ダミアン・ルイス)の死を乗り越え、不安定なアラブ情勢の中、時代に翻弄されながらも旅を続け、やがて大きな時代のうねりとともに、英国にとって欠かせない存在となっていく。

主演のニコール・キッドマンが、美しさとカリスマ性を兼ね備えた意志の強い女性を好演し、存在感を確かなものにしている。
ベルが、「アラビアのロレンス」で知られる、若き日のトーマス・エドワード・ロレンス(ロバート・パティンソン)と、シリアの遺跡発掘現場での運命の出会いを果し、彼とはその後も人生の節目節目で再会することになる。
ガートルード・ベルは彼よりも20歳年上、この女性がアラブ諸国建国の立役者となるには、彼女に多様な体験があったからで、そのことが作品にも厚味を与えている。
この時代に、こんな勇気と知性を持った女性がいたのだ。
そして、誰もがなしえなかったことを成し遂げた。
強固な意志は世界をも動かすのだ。

まあ、格好いいニコール・キッドマンの映画とはなっているが、この端正な歴史ドラマ、やや冗長な感じもする。
メロドラマ的な要素も取り入れているが、大きな感動的なドラマがあるというわけではない。
そこがちょっと・・・。
それでも、このアメリカ映画アラビアの女王 愛と宿命の日々」では、ヴェルナー・ヘルツォーク監督が切り取った砂漠や渓谷など、4Kカメラを駆使した素晴しい自然描写に思わず見とれるシーンがいっぱいだ。
砂漠の中で紡がれた、鮮やかな運命のアラベスクとしても・・・。
       [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点