2002年に雑誌「ニューシカゴ」に掲載された、キャサ・ポリットの実体験にもとずくエッセイが原作だ。
「 エレジー」(08年)のイサベル・コイシェ監督が、独自のアレンジを加えて映画化した。
陽光きらめくニューヨークを舞台に、突如結婚生活が破綻した女性の哀歓を、飾りたてることなく描き出している。
一旦は道標を見失ってしまったひとりの女性が、幾多のまわり道を経て、再び自分らしさを取り戻す姿に、くすぐられるような共感を覚える。
人はいつだって新しいことに挑戦できる。
そしてそれはまた人生の再出発でもある。
マンハッタンのアッパー・ウエストサイドで暮らす、売れっ子書評家ウェンディ(パトリシア・クラークソン)の順風満帆の人生は、あっけなく崩壊した。
長年連れ添った夫テッド(ジェイク・ウェバー)が、隙間風の吹く結婚生活に見切りをつけ、浮気相手のもとへと去ってしまったのだ。
ウェンディは、それでも夫との復縁の可能性を信じようとしたが、彼の浮気相手がこともあろうに自分のお気に入りの人気作家だと知って、ショックは隠せない。
ウェンディはそんなどん底の悲しみを味わっていたが、自分が車を運転できないという現実に直面し、インド人タクシー運転手ダルワーン(ベン・キングズレー)のレッスンを受けることにした。
ダルワーンは伝統を重んじる堅物の男性で、ウェンディとは宗教も文化も階級も対照的だったが、過去の思い出にしがみついていてばかりいられなくなった。
ウェンディは心の針路を変え、未来に踏み出す勇気を与えられて・・・。
ありのままの自分と向き合って、再びまっさらな自分に戻る。
まわり道のその先は、きっと“しあわせ”が待っているだろう。
そう信じるヒロインは、言葉や民族の違いを乗り越えて、車の運転のレッスンを受ける。
彼女は自分で車を運転できるようになる。
年を取ってから、新しい一歩を踏み出すのはためらわれる。
でも、否が応でも踏み出さざるを得なかったのだ。
主人公にとって、車の免許を取るために運転のレッスンを受けることは、自分の人生の運転の仕方を再発見していくようなものだった。
パトリシア・クラークソンとベン・キングズレーの演じる役は、ともに切実な状況を抱えている。
ウェンディは離婚、ダルワーンの方は進められて同郷の女性と結婚するが、新生活とは程遠い。
そんな男と女が徐々に知り合って、学び合うのだが、俗っぽい大人の男女の話にはならない。
そこがこの映画のよいところだ。
イサベル・コイシェ監督のアメリカ映画「しあわせのまわり道」は、決してドラマティックな作品ではない。
ハートフルで爽快な後味を残す小品だ。
人生の本質を運転教習で学ぶと言ってしまったら、ちょっと大げさかも知れないが、この作品には、オスカー俳優ベン・キングズレーの知的な存在感と、名女優パトリシア・クラークソンのコンビによる、新鮮な話の設定のもと、絶妙なセリフと掛け合いにも、役者としての品とユーモアのセンスが生きている。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回はイラク・トルコ合作映画「サイの季節」を取り上げます。