この映画のミシェル・アザナヴィシウス監督は、パロディ喜劇などを得意とするフランス映画の才人ととして知られる。
今回、「勝手にしやがれ」(1960年)の評判で、ヌーヴェル・ヴァーグを代表する監督のひとりとして、世界的に有名になったジャン=リュック・ゴダールと、彼の二度目の妻アンヌ・ヴィアゼムスキーの関係を題材にして、結構洒落た映画が出来上がった。
作品は、アンヌ・ヴィアゼアムスキーの自伝的小説をもとに、コメディタッチのドラマとして、そこそこ見応え十分で楽しい。
革命に傾倒し、商業映画に背を向けた時期のゴダールを、偏屈で嫉妬深い、ちょっぴり哀れな男として描いているところが面白い。
偉大なゴダールを描いているだけに、映画では彼が大分こけにされている。
ドラマには、多彩な趣向が詰め込まれている。
何より、堅苦しい映画でないのがよい。
1968年、パリ・・・。
大学哲学科の19歳の学生アンヌ(ステイシー・マーティン)は、ゴダール(ルイ・ガレル)の新作「中国女」(1967年)の主演女優に抜擢されて、二人はすぐに恋に落ち、彼女は20歳で結婚し、刺激的な毎日を送っていた。
アンヌはゴダールの二人目の妻となるが、1968年の五月革命が二人の運命を変えていく。
ゴダールは、映画よりも学生や労働者とデモや討論会に明け暮れ、カンヌ国際映画祭をも批判して、結局は映画祭中止にまで追い込んでしまった。
いつもゴダールと行動を共にしていたアンヌは、少しずつ大人になっていく過程で、自立した女に変わっていくのだった。
しかし、ゴダールの行動が次第に先鋭化し、二人の間にはいつしか亀裂が生じて・・・。
天才監督ともいわれたジャン=リュック・ゴダールとアンヌ・ヴィアゼムスキーの恋は、情感豊かに綴られる切ないラブストーリーである。
アンヌの可愛らしさの虜になるのは、ゴダールだ。
映画完成の2017年にアンヌは亡くなったが、この作品を気に入っていたそうだ。
五月革命に向けてパリ中が熱を帯びている中で、傲慢で偏屈な(?)ゴダールは、嫉妬深く、この映画の方はパロディやらオマージュじみた映像も満載で、時代風俗も生き生きと取り入れられている。
20歳のアンヌと、夫としてのゴダールと過ごした日々が描かれ、ともに映画を作ったり、文化や芸術を語り合い、五月革命に参加する。
この青春ドラマ、なかなかいいではないか。
映画も音楽も、ファッションもインテリアも、60年とはいえこのフレンチカルチャーはいまもって色褪せた感じはしない。
1968年前後といえば、世界中で学生たちが反乱を起こした時期で、フランスの五月革命ではあらゆる社会的な制度や常識が覆されようとしていた。
ゴダールは政治活動に熱中し、商業的な映画製作を否定した時期だった。
カンヌ映画祭に行きたがるアンヌとゴダールは対立し、彼は盟友のフランソワ・トリュフォーらとカンヌ映画祭まで粉砕してしまう。
そんな中で、アンヌとの仲も徐々に暗雲をはらんでいくことになるのだ。
ヌーヴェル・ヴァーグの旗手も映画界では神格化されていたが、日常生活においては、エゴイズムと嫉妬に満ちたただの人間だったというお話だ。
主演のルイ・ガレルがゴダールによく似てるし、ステイシー・マーティンのシリアスな演技もよく、懐かしき良き時代をしのばせてくれる。
ミシェル・アザナヴィシウス監督のフランス映画「グッバイ・ゴダール!」は、熱き日を生きたユーモラスな社会風刺劇として興味の尽きない作品だ。
なお、ジャン=リュック・ゴダールは1930年生まれ、2018年には87歳で最新作「イメージの本」をカンヌに出品し、スぺシャル・パルムドールを受賞するなど、ますますその意気は衰えを知らぬようである。
余談だが、ゴダールには本編のミューズともいえるアンヌ・ヴィアゼムスキーのほかにも、映画のミューズとしてはアンナ・カリーナ、ジーン・セバーグ、ブリジッド・バルドー、シャンタル・ゴヤ、ジュリエット・ベルトといった、名だたる女優たちがいたことを付記させていただく。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
横浜シネマジャック&ベティ(TEL045-243-9800)ほかにて8月10日(金)まで上映中。
次回はアメリカ映画「ファントム・スレッド」を取り上げます。