25年という、あまりにも短い生涯であった。
イギリス後期ロマン派の詩人、ジョン・キーツの生涯唯一の純愛を描いた作品だ。
美しいものは、とこしえに歓びである――。
「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオン監督の、イギリス・オーストラリア合作映画だ。
人が人を愛し始めること、愛していくこと、それは、実は解き難い命題だ。
この映画は、たった二年余りの短い恋を、二人の恋人に振り分けて、彼らの人生の林に入り、キーツが愛したひとりの女性ファニーの側から、見つめたドラマである。
1818年、詩人としての才能を世に認められ始めたとはいえ、22歳のジョン・キーツ(ベン・ウィショー)は、詩集を出版したものの、いまはまだ貧しい身の上であった。
ロンドン郊外のハムステッドで、親友であり編集者のチャールズ・ブラウン(ポール・シュナイダー)の家に身を寄せていた。
ここでキーツは、ブラウン家の隣人、ブローン家の長女ファニー(アビー・コニッシュ)と出会う。
キーツは詩集を出したばかりで、その評判はあまり芳しくなかったが、ファニーはその彼の詩に感動し、詩作のレッスンを受けることになる。
キーツは、ファニーの輝くばかりの美しさに、次第に惹かれてゆく。
色とりどりの野の花が咲き乱れ、春の木漏れ日の中で、キーツはファニーへの愛を詩にする。
ところが、そのキーツの人となりを認めてはいても、身分の違い、貧しい詩人とのいざ結婚となるとファニーの母は反対だ・・・。
キーツの弟の死や、彼の詩への酷評に傷つくキーツを、優しく包み込んでくれるファニーの純粋な恋は、キーツを詩人として成長させ、イギリス文壇からの評価も高まっていく。
詩作に励むために、ブラウンとワイト島に出かけていたキーツがハムステッドに戻ってくる。
彼は、吹雪の中で喀血した。
すでに、結核に冒されていたのだった。
日々弱っていくキーツに、ファニーは寄り添い、詩集の出版は続くのだが、二人の幸せな時間は長くは続かなかった・・・。
二人の純粋な愛から紡ぎだされた詩は、キーツの死後さらに評価が高まり、世界で最も美しい詩として、現在も語り継がれている。
彼は、詩人としては5年という短命だったが、後年その才能はシェイクスピアと比較されるほどに称えられた。
1819年、「輝く星よ」でキーツはファニーに呼びかける。
「輝く星よ その誠実なきらめきは 夜空に高く孤独を知らぬ」
描かれる風景の美しさとともに、彼によって語られる「言葉」の美しさは印象的だ。
ジェーン・カンピオン監督の映画「ブライト・スター」は、監督自ら脚本を書いたが、女性らしい繊細なタッチで、キーツの短い人生と純愛を、あたたかな眼差しで優しく見守るようなドラマに仕上げている。
ドラマのはかなさも手伝って、作品がいとも甘やかで、とろりとするような感触に少し辟易する。(少しどころではないか)
キーツの詩というのは、教科書に取り上げられるほどイギリスでは有名で、この作品もまた、フェルメールの絵画のような映像美を紡ぎだして、しっとりと情熱的だ。
夢のような甘美と繊細は、やや執拗なまでに・・・。