パリのセーヌ川にかかる橋を舞台に描かれる、ラブストーリーのニュープリント版である。
初公開から20年になる、レオス・カラックス監督のフランス映画だ。
当時、フランス映画史上最高の38億円という巨費を投じて、3年の歳月をかけて製作された。
途中、二度の撮影中断に、相次ぐ破産が重なり、早くから全仏マスコミの話題をさらっていた。
いろいろと、映画完成前から伝説化された、作品だ。
少なくとも、‘カラックスの作品’としてみれば、これは彼の傑作といえるのかも知れない。
パリで一番古くて美しい橋“ポンヌフ”で暮らす、天涯孤独の大道芸人アレックス(ドニ・ラヴァン)は、いつものように酒をを飲みながら、夜のパリを放浪していて、車に片足をを轢かれてしまった。
そこに通りかかったのが、空軍大佐の娘でありながら、恋の痛手と、生涯治る見込みのない目の病とで絶望的な毎日を送っていた女画学生ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)だった。
彼女もまた、放浪の身であった。
青年アレックスは、そのミシェルの美しさに初めて恋を知り、ポンヌフ橋を仕切っている初老のホームレス・ハンスに、この家出娘を置いてくれるように頼みこむ。
二人のホームレス生活は、そうして始まった。
ジュリアンというチェリストへの恋の未練と、画家としての失明の恐怖を両手に抱えたミシェルと、他人とのつながりをあまり持たずに生きてきたアレックスと、二人は互いの絆を深め、革命200年祭の夜に、華々しく打ち上げられる花火の下で恋におちる。
そんなある日、アレックスは、眼の治療法が見つかったことを呼びかける、ミシェルのポスターを街で見つける。
彼女が去っていくことをおそれたアレックスは、そのポスターを次々と焼いていく。
彼女を失うことで、不安がいっぱいの彼の心を引き裂くかのように、やがて二人の恋に破局が訪れ、それぞれの世界へ戻っていく。
季節は移ろい、視力を回復したミシェルは、自らの手で終止符を打ったはずの恋の未練を断ち切れず、放火の罪で服役中のアレックスの前に現れる。
・・・新たな愛を誓い合った二人は、やがて訪れるクリスマスの晩に、思い出のポンヌフ橋での再会を約束する。
雪の降りしきるその夜、シャンペンの栓がとびかう橋の上で、二人は固く抱きしめあった。
だが、その再会の喜びもつかの間、ミシェルのふと発した一言に傷ついたアレックスは、彼女を道連れに氷のように冷たいセーヌ川へ飛び込んだ・・・。
レオス・カラックス監督の本名はアレックスで、作品の主人公は彼の分身であるといわれる。
また、ヒロインを演じた、「トスカーナの贋作」のジュリエット・ビノシュとは、実生活でも恋人同士だった。
ところが、困難が多発し、映画の製作に多額の資金と時間をついやした、本作「ポンヌフの恋人」の撮影中に、彼女との関係は破局を迎えたといわれる。
カラックス監督という人は、自身が完璧主義者でもあり、そのせいもあってか、いくつかの短編を除いては20年間に4本の長編しか撮っていない。
彼の作品は、いつも若者の孤独や利己主義、そして憧れや怒りを、詩的な台詞と感覚的な映像にのせ、多くの若者たちにとっては自分たち自身のことを語る青春映画として、熱狂を博した時代があった。
リバイバルとはいえ、よき時代の、フランス映画を思わせる作品だ。
はらはらさせる展開も、二転三転するので、最後まで目が離せない。
南仏モンプリエにパリの街並みを再現するなど、史上最大といわれるオープンセットも、なかなかよくできている。
主役二人、わがままで無鉄砲であっても、自分の想いをストレートに、しかし誠実な愛を必死に訴えようとするアレックスと、むしろ儚い悲しみをたたえながらも、強く健気なひたむきさで激しくぶつかるミシェルという、両者の波乱に富んだダイナミック(?)な演出がうまい。
し情豊かで、感覚的な純愛映画が、今ここにかなり上質な画像となってよみがえったことは喜ばしい。
この映画、公開当時は、パリで封切り2週間で14万人という驚異的な大ヒットとなり、日本でも、92年初公開当時は、6ヶ月という驚異のロングランを記録した。