徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「男と女 人生最良の日々」―愛と哀しみの果てに―

2020-03-26 19:16:42 | 映画


1966年、恋愛映画の金字塔と言われたフランス映画「男と女」から半世紀余り、あれから52年後を、その時と同じ俳優が演じた。
監督も同じクロード・ルル-シュ監督である。
心に染み入るような大人の作品を、今なお健在なクロード・ルル―シュ監督が、あの時の愛をテーマに取り上げた作品だ。
主役の二人が50年たっても生きている。

二人が再会するシーンなどは、リハーサルなしで自然体で撮影された。
そして、フランシス・レイの優美な音楽も忘れがたく、本作は旧作の映像も交えて物語は進行する。
いつになっても、愛は年齢には関係ない。

施設で余生を送る元花形レーサーのジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、過去の記憶を徐々に失いつつあった。
そんな中で、かつて別れた恋人のアンヌ(アヌーク・エーメ)のことは憶えていた。
そこへ、彼の息子の頼みでアンヌが訪ねてきて、二人は再会する。
だが、目の前の高齢の女性がアンヌとは気づかないジャン=ルイは、過ぎ去りし日のアンヌの思い出を語り始める。
彼の語る話で、いかに自分が愛されていたかを知ったアンヌは、ジャン=ルイを連れて思い出の地へと車を走らせるのだった・・・。

このドラマでは、この作品の撮影時、トランティニャンアンヌもともに実年齢は80歳を超えていた。
燃え立つような愛ではない。
長い年を経て再会した二人が、ゆっくりと相手の気持ちを思い出していく。
その二人の表情、追憶を探る眼の演技が実に上手い。
老境の二人が愛を演じる。
目は嘘をつかないものだ。

2018年に死去したフランシス・レイの音楽が、再びスクリーンに蘇るとき、思わず懐かしが込み上げてくる。
アヌーク・エーメも老いてなお美しいし、どこかさりげない遊び心を漂わせて、大人の愛を描いている。
しかも、年老い、いながらにしてみずみずしさがある。
エスプリに富んだ二人の会話が、ゆっくりと時を刻んでいくのだ。

年齢を重ねながら映画つくりに携わってきた二人の名優の、その過去の映像をそのまま使った回想シーンまで、観ているこちらが引き込まれる。
時を経て甦る名場面と、スキャットのようなあの名曲に浸り、現代の二人の穏やかな会話の場面を見ていて、老いもまたかくのごとく美しいものかと感心させられる。
ジャン・ルイは、施設で再開した彼女がかつての自分の愛した人とは気づかない。
ああ、何という現実だろう。
前作同様、心憎いフランス映画の名作である。

アヌーク・エーメは、この映画とはまた違った多彩な愛とと哀しみの実人生をたどったと伝えられるが、ルルーシュ監督をはじめ、出演俳優がいまもなお健在でいることに思わず嬉しくもなった。
クロード・ルルーシュ監督のフランス映画「男と女 人生最良の日々」は、人生の黄昏をしっとりと優美に描いた、大人の気品に溢れた作品だ。
この作品、公開は遡るが、現在はシネマジャック&ベティ(TEL/045-243-9800)で4月3日(金)まで上映中だ。
         [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点

追 記
いま、悠長なことを言っていられない。
世の中は騒然としている。
その中で桜が満開である。
やがて散るその桜が、苦しそうに、大きく風に揺れている。