徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「メアリーの総て」―波乱万丈の青春をたどる早熟な少女の闘いの記録―

2018-12-24 17:00:00 | 映画


 寂び寂びとした冬が、地上をを覆い始めた。
今年も、いよいよ終わりが近づいている。

 この映画は、18歳でSF小説の祖「フランケンシュタイン」を生み出した、メアリー・ゴドウィンの知られざる人物像に迫った作品だ。
 波乱の中に、生への情熱をたぎらせて・・・。

 生活苦、娘の死、詩人の妻の自殺など、辛酸をなめたメアリーは、出版社などに作品を必死になって売り込んだ。
 だがこの作品では、メアリーは悲惨なヒロインではなく、多感な少女が情熱的な恋をして大人になり、女性が抑圧される社会の中で、自分の声を獲得していく普遍的な物語として描かれている。
 サウジアラビア初の女性映画監督で、「女は自転車に乗って」2012年)ハイファ・アル=マンスールの幻想的な映像美が、哀切な余韻を残している。



産業革命によって新しい時代を迎えた19世紀のイギリス・・・。
高名な思想家の父を持つメアリー(エル・ファニング)は、作家になることを夢見ていた。
義理の母が差配する家は安住の場所ではなく、実母の眠る墓所で小説の構想を練るのが唯一の慰めであった。

灰色の日々は、才気あふれる詩人パーシー(ダグラス・ブース)との出会いで一変する。
彼には妻子があったが、父の反対を押し切って二人は駆け落ちをする。世間の目は冷たく、夫には別の女性たちの影がちらつき、授かった我が子も病で失ってしまう・・・。

若いメアリーの心は傷つき、絶望の渕に立たされる。
そんな彼女の魂に、ハイファ・アル=マンスール監督ぴたりと寄り添っている。
そういえば、「少女は自転車に乗って」では、因習に抵抗するサウジアラビアの少女を描いていた。
主人公メアリーが自分の手で人生を切り拓く闘いは、抑圧を受けて犠牲になるのではなく、むしろそれを打破しようとする。
これは、彼女が受けて立つ少女の受難劇である。

主演のエル・ファニングはメアリーの情熱を官能的に体現していて、白い顔をバラ色に紅潮させ、見事な(?)はまり役だ。
イギリスの風土、天候なども、映像にロマンの輝きをもたらし、余韻も残る。
英文学史上、若くセンセーショナルな、哀しく美しい人生が、19世紀イギリスの絢爛とした美術と衣装に彩られ、ここでまたそれらを映像の美しさが紡いてゆく。
そういえば、今年は「フランケンシュタイン」誕生200周年とか・・・。なるほどねえ。

サウジアラビアでは、1980年代以降に禁止されていた映画上映が今年再開されたのだそうだ。
サウジ国内で全編が撮影された「少女は自転車に乗って」は、撮影が困難だったので、マンスール監督が車内に隠れながらスタッフに指示を出したという。
イギリス・ルクセンブルグ・アメリカ合作映画、ハイファ・アル=マンスール監督「メアリーの総て」は、女性作家が社会的に認知される大きな一助となるかもしれない。

余談になるが、サウジの社会経済改革の一環として、映画解禁や女性の社会進出を主導したムハンマド皇太子は、政府批判の記者殺害事件への関与が疑われている。
このことについてはマンスール監督は言及を避けている。
とにかく、イスラム教を厳格に解釈し、女性の権利そのものが制約されかねない、サウジアラビア女性監督作品が日本公開されたことに注目したい。
このことはサウジの人々にとって、かなり敏感な問題なのだ。
この作品はシネマジャック&ベティ(TEL 045-243-9800)ほかで来年1月11日(金)まで上映中。
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
追伸
当欄も今年はこれでお別れします。
拙いページにお立ち寄りいただきまして、ありがとうございました。
今年もやがて暮れてゆきます。
そして、来年はどんな年になるのでしょうか。
どうぞ、よい年をお迎えください。
新しい年を迎えて、又お目にかかります。

なお次回はフランス映画「マダムのおかしな晩餐会」を取り上げます。


映画「おかえり、ブルゴーニュへ」―めぐりゆく人生の四季を経て甘酸っぱい記憶と渋い思い出が蘇って―

2018-12-10 09:35:00 | 映画


 冬将軍がやってきた。
 冷たい、木枯しの吹き荒ぶ日々が多くなり、今年も残り少なくなってきた。
 今日も、枯葉が風に舞っている。

 フランス、ブルゴーニュ地方のワイナリーが舞台である。
 これまで、ごくありふれた人々とその日常を活き活きと軽妙に映しだしてきた、人気監督セドリック・クラピッシュが、ここではキャリア12作目にして、初めてフランスの田舎を舞台に自然撮影に挑み、美しい ぶどう畑を映しだし、人生の熟度を味あわせる魅力あるドラマを描き上げた。

 この作品は、「スパニッシュ・アパートメント」(1901年)、「ロシアン・ドートルズ」(1905年)「ニューヨークの巴里夫(パリジャン)」(1913年)からなる青春三部作の完結以来、セドリック・クラピッシュ監督にとって4年ぶりの長編最新作となるわけだ。
 極上のワインの香り豊かな・・・。
 まあ、芳醇な余韻に浸れる物語である。




フランス・ブルゴーニュにあるドメーヌの長男ジャン
(ピオ・マルティ)は、10年前世界を旅するため故郷を飛び出し、家族のもとを去った。
その間、家族とは音信不通だったが、父親が末期の状態であることを知り、10年ぶりに故郷ブルゴーニュに帰ってくる。
ドメーヌとは、この地方でワイン生産者を表す用語で、自らぶどう畑を所有し(畑の賃借も)栽培、製造、瓶詰を一貫して行う生産者のことだ。

家業を受け継ぐ妹のジュリエット(アナ・ジラルド)と、別のドメーヌの婿養子となった弟のジェレミー(フランソワ・シビル)との久々の再会もそこそこに、父親が亡くなってしまう。
残されたぶどう畑や自宅の相続などをめぐって、様々な課題が出てくる中、父親が亡くなってから初めてのぶどうの収穫期を迎えることになった。
三人は、自分たちのワインを作り出そうと協力し合うが、一方でそれぞれが互いに打ち明けられない悩みや問題を抱えているのだった・・・。

三兄妹が十年ぶりに再会し、季節とともに愛しい日々が時の移ろいを綴ってゆく。
ブルゴーニュのワイナリーを継ぐために再会した、三兄妹の物語だ。
長男は離婚問題を抱え、長女は醸造家としての働き方に悩み、末っ子は義父の問題に揺れている。
いろいろなことはあるが、季節とともに移ろいながら、ワインのように熟成を重ねる、そんな彼らの姿が描かれる。
ほのぼのとした、くすぐったそうな幼い頃の思い出とか、喧騒を離れた家族の絆の温かさが作品を包んでいる。

彼らそれぞれが、対峙すべき問題を抱えつつ、自らの選択で人生を歩み出そうとするとき、人は本当の大人になれるというものだ。
ワイン製造の繊細な選択の方法とか、殺菌剤の差、深刻な社会問題への目配りも込めて、味わい深い作品に迫ろうとしている。
全編豊かな情感の中に浸って、ドラマを眺めることになる。

セドリック・クラピッシュ監督は、四季折々で表情を変えるぶどう畑にカメラを据えて、三兄妹の一年を見届けるのだ。
三人兄妹の話だから、やっぱり相続争いの問題が起きるのかと思ったらそうでもない。
三人の兄妹それぞれが抱える複雑な事情を背景に、ドラマはそれなりに深みのある展開を見せ、物語には取り立てて大それた問題は存在しない。
今も昔も変わらない平凡な人間臭い物語を、大きな事件が起きるわけでもなく、あくまでも普遍的なドラマを説得力豊かにクラピッシュ監督は描いて見せている。
まあ過大な期待をかけすぎると、作品がつまらなくなってしまうことだろう。
このフランス映画「おかえり、ブルゴーニュへ」は、ぶどう酒の味に例えれば、酸味をピリッと効かせながらもまろやかで飲みやすく、優しく酔った後味の良さといったところだろうか。
         [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
この映画は来年1月11日(金)までシネマジャック&ベティ(TEL 045-243-9800)他で上映中。
上映館によっては来週もあり。
次回はイギリス他合作映画「メアリーの総て」を取り上げます。