寂び寂びとした冬が、地上をを覆い始めた。
今年も、いよいよ終わりが近づいている。
この映画は、18歳でSF小説の祖「フランケンシュタイン」を生み出した、メアリー・ゴドウィンの知られざる人物像に迫った作品だ。
波乱の中に、生への情熱をたぎらせて・・・。
生活苦、娘の死、詩人の妻の自殺など、辛酸をなめたメアリーは、出版社などに作品を必死になって売り込んだ。
だがこの作品では、メアリーは悲惨なヒロインではなく、多感な少女が情熱的な恋をして大人になり、女性が抑圧される社会の中で、自分の声を獲得していく普遍的な物語として描かれている。
サウジアラビア初の女性映画監督で、「女は自転車に乗って」(2012年)のハイファ・アル=マンスールの幻想的な映像美が、哀切な余韻を残している。
産業革命によって新しい時代を迎えた19世紀のイギリス・・・。
高名な思想家の父を持つメアリー(エル・ファニング)は、作家になることを夢見ていた。
義理の母が差配する家は安住の場所ではなく、実母の眠る墓所で小説の構想を練るのが唯一の慰めであった。
灰色の日々は、才気あふれる詩人パーシー(ダグラス・ブース)との出会いで一変する。
彼には妻子があったが、父の反対を押し切って二人は駆け落ちをする。世間の目は冷たく、夫には別の女性たちの影がちらつき、授かった我が子も病で失ってしまう・・・。
若いメアリーの心は傷つき、絶望の渕に立たされる。
そんな彼女の魂に、ハイファ・アル=マンスール監督はぴたりと寄り添っている。
そういえば、「少女は自転車に乗って」では、因習に抵抗するサウジアラビアの少女を描いていた。
主人公メアリーが自分の手で人生を切り拓く闘いは、抑圧を受けて犠牲になるのではなく、むしろそれを打破しようとする。
これは、彼女が受けて立つ少女の受難劇である。
主演のエル・ファニングはメアリーの情熱を官能的に体現していて、白い顔をバラ色に紅潮させ、見事な(?)はまり役だ。
イギリスの風土、天候なども、映像にロマンの輝きをもたらし、余韻も残る。
英文学史上、若くセンセーショナルな、哀しく美しい人生が、19世紀イギリスの絢爛とした美術と衣装に彩られ、ここでまたそれらを映像の美しさが紡いてゆく。
そういえば、今年は「フランケンシュタイン」誕生200周年とか・・・。なるほどねえ。
サウジアラビアでは、1980年代以降に禁止されていた映画上映が今年再開されたのだそうだ。
サウジ国内で全編が撮影された「少女は自転車に乗って」は、撮影が困難だったので、マンスール監督が車内に隠れながらスタッフに指示を出したという。
イギリス・ルクセンブルグ・アメリカ合作映画、ハイファ・アル=マンスール監督「メアリーの総て」は、女性作家が社会的に認知される大きな一助となるかもしれない。
余談になるが、サウジの社会経済改革の一環として、映画解禁や女性の社会進出を主導したムハンマド皇太子は、政府批判の記者殺害事件への関与が疑われている。
このことについてはマンスール監督は言及を避けている。
とにかく、イスラム教を厳格に解釈し、女性の権利そのものが制約されかねない、サウジアラビアの女性監督作品が日本公開されたことに注目したい。
このことはサウジの人々にとって、かなり敏感な問題なのだ。
この作品はシネマジャック&ベティ(TEL 045-243-9800)ほかで来年1月11日(金)まで上映中。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
追伸
当欄も今年はこれでお別れします。
拙いページにお立ち寄りいただきまして、ありがとうございました。
今年もやがて暮れてゆきます。
そして、来年はどんな年になるのでしょうか。
どうぞ、よい年をお迎えください。
新しい年を迎えて、又お目にかかります。
なお次回はフランス映画「マダムのおかしな晩餐会」を取り上げます。