老夫妻は、部屋の片隅で向かい合っていた。
夫は72歳、妻は68歳だ。
夫は、年金生活をしながら、警備員として働いていた。
給料は7万円で、そこから半分も税金を天引きされたと言って、怒っている。
「ふざけた話だよなあ。こんなに少ない給料から半分も持っていかれてるんだぜ」
「収入が多いわけでもないのに、税金てそんなに高いの?どうして?」
「どうしてなんだか・・・」
生活が立ちゆかなくなったので、夫はさらに別の会社でも雑役として働き始めた。
年金だけでは、暮らしてゆけない。
いまだに、住宅ローンを抱えていた。
それに、持病があって病院にも通っているし、いろいろとかかる。
最近になって、妻も2ヵ所をパートでかけもち、働き始めた。
「あたしたちみたいの、ワーキングプアっていうのね」
「そうだ」
夫婦は、顔を見合わせると悲しそうに笑った。
国民健康保険料は、月々18000円を支払っていた。
妻は吐き捨てるように言った。
「それがね、先月末に通知が来たのよ。区役所から」
「何て?」
「あなたの保険料は、この次から36000円になりますって」
「何だい、それ?」
「ほら、見て頂戴」
と言って、妻は区役所から届いた青い封筒を夫に見せた。
翌日、勝気な妻は区役所の窓口へ出かけていった。
どうしてこんなことになるのか、問い合わせた。
簡単な答えが返ってきた。
担当の職員は、まともに妻の方も見ずにぶっきらぼうに言った。
「あなたの収入が増えたからです」
「えっ!収入が増えたって、いくらでもないわ」
「ええ。たとえいくらでも、増えた分が新たに加算されるんです」
「何ですって?あたし、何も好き好んで働いてるんではないんです」
「・・・」
「この年で、まだ住宅ローンも残っているし、借金もあるんです」
「・・・はあ?」
「でも、わたしは幸い病院にはかかっていないわ。保険証をどこかに失くしてしまったくらいなのよ」
「・・・」
「それで、この前には、住民税だったかしらね、一期分、6万7500円を6月中に払えなんて、通知もきたわ」
「はい。そういうご通知を差し上げました」
と担当の職員は、涼しい顔をして平気で言うのだ。
「だって、あなた、年度全額で26万2500円もですよ!」
妻は声を荒げ、ワナワナしながら、職員にたてついた。
これには、一緒について来ていた夫もびっくりした。
「そうですね。5%から10%に税率が上がったから、そうなったんです」
「それじゃあ、あんまりにもべらぼうすぎやしませんか?」
「いいえ。ちゃんと計算して、皆さんに平等に納めて頂いてるんですよ」
「働かずに、病院通いをしろと言うんですか!」
思わず、大声になっていた。
「それは・・・、ご自由にどうぞ」
「・・・」
妻はあきれて物も言えず、夫の顔を見た。
帰り道で、妻は夫に言った。
「どうぞご自由にですって。何でしょう、あの言い草!・・・聞いてたでしょう?」
「ああ。いやな役所だな」
「まったくだわ。それにね、あなた、次から二人分の介護保険料がまた大幅に上がるのよ」
「何だって?!この間も上がったばかりじゃないか!」
「そうよ。もう滅茶苦茶よ」
「う~む」と、夫の顔が険しくなった。
「年寄りは、早く死ねと言ってるのね」
「そうだ、そうだな」
そう言って夫は空を見上げた。
冷たいものが、顔に落ちて来た。
大きな雨粒であった。
夫は、妻の方を向いて、苦虫をかみつぶしたような顔になって、ぽつりと言った。
「涙雨だ。天も泣いてるんだ・・・」
「いやな世の中ね。税金の無い国に逃げ出したいわね。無人島でもどこでも・・・」
「ああ。だけど、そんなに、どうせ俺たち生きていやしないよ」
「それもそうね。・・・となると、やっぱり我慢しかないのね、あと少し・・・」
夫は黙ってうなずき、妻はため息をついた。
夫は自分の痩せた手を、妻の痩せた肩にあてると、
「さあ、早く姥捨て山へ帰って、安い焼酎でもやろう」
夫は72歳、妻は68歳だ。
夫は、年金生活をしながら、警備員として働いていた。
給料は7万円で、そこから半分も税金を天引きされたと言って、怒っている。
「ふざけた話だよなあ。こんなに少ない給料から半分も持っていかれてるんだぜ」
「収入が多いわけでもないのに、税金てそんなに高いの?どうして?」
「どうしてなんだか・・・」
生活が立ちゆかなくなったので、夫はさらに別の会社でも雑役として働き始めた。
年金だけでは、暮らしてゆけない。
いまだに、住宅ローンを抱えていた。
それに、持病があって病院にも通っているし、いろいろとかかる。
最近になって、妻も2ヵ所をパートでかけもち、働き始めた。
「あたしたちみたいの、ワーキングプアっていうのね」
「そうだ」
夫婦は、顔を見合わせると悲しそうに笑った。
国民健康保険料は、月々18000円を支払っていた。
妻は吐き捨てるように言った。
「それがね、先月末に通知が来たのよ。区役所から」
「何て?」
「あなたの保険料は、この次から36000円になりますって」
「何だい、それ?」
「ほら、見て頂戴」
と言って、妻は区役所から届いた青い封筒を夫に見せた。
翌日、勝気な妻は区役所の窓口へ出かけていった。
どうしてこんなことになるのか、問い合わせた。
簡単な答えが返ってきた。
担当の職員は、まともに妻の方も見ずにぶっきらぼうに言った。
「あなたの収入が増えたからです」
「えっ!収入が増えたって、いくらでもないわ」
「ええ。たとえいくらでも、増えた分が新たに加算されるんです」
「何ですって?あたし、何も好き好んで働いてるんではないんです」
「・・・」
「この年で、まだ住宅ローンも残っているし、借金もあるんです」
「・・・はあ?」
「でも、わたしは幸い病院にはかかっていないわ。保険証をどこかに失くしてしまったくらいなのよ」
「・・・」
「それで、この前には、住民税だったかしらね、一期分、6万7500円を6月中に払えなんて、通知もきたわ」
「はい。そういうご通知を差し上げました」
と担当の職員は、涼しい顔をして平気で言うのだ。
「だって、あなた、年度全額で26万2500円もですよ!」
妻は声を荒げ、ワナワナしながら、職員にたてついた。
これには、一緒について来ていた夫もびっくりした。
「そうですね。5%から10%に税率が上がったから、そうなったんです」
「それじゃあ、あんまりにもべらぼうすぎやしませんか?」
「いいえ。ちゃんと計算して、皆さんに平等に納めて頂いてるんですよ」
「働かずに、病院通いをしろと言うんですか!」
思わず、大声になっていた。
「それは・・・、ご自由にどうぞ」
「・・・」
妻はあきれて物も言えず、夫の顔を見た。
帰り道で、妻は夫に言った。
「どうぞご自由にですって。何でしょう、あの言い草!・・・聞いてたでしょう?」
「ああ。いやな役所だな」
「まったくだわ。それにね、あなた、次から二人分の介護保険料がまた大幅に上がるのよ」
「何だって?!この間も上がったばかりじゃないか!」
「そうよ。もう滅茶苦茶よ」
「う~む」と、夫の顔が険しくなった。
「年寄りは、早く死ねと言ってるのね」
「そうだ、そうだな」
そう言って夫は空を見上げた。
冷たいものが、顔に落ちて来た。
大きな雨粒であった。
夫は、妻の方を向いて、苦虫をかみつぶしたような顔になって、ぽつりと言った。
「涙雨だ。天も泣いてるんだ・・・」
「いやな世の中ね。税金の無い国に逃げ出したいわね。無人島でもどこでも・・・」
「ああ。だけど、そんなに、どうせ俺たち生きていやしないよ」
「それもそうね。・・・となると、やっぱり我慢しかないのね、あと少し・・・」
夫は黙ってうなずき、妻はため息をついた。
夫は自分の痩せた手を、妻の痩せた肩にあてると、
「さあ、早く姥捨て山へ帰って、安い焼酎でもやろう」
高齢者は前期、後期など言わずに、等しくこれまでの国のための功労者なのですから、もっと大切に考えるべきですね。
とくに、戦時中の働き手が、いま高齢期を迎えて、今日があるのですから・・・。
人は誰でも年を重ねていくのですし、今の若い世代も、確実に老いてゆくのです。
人を差別してはいけないと思います。
それにしても、この格差社会、政治の無力、無気力、体たらく、やりきれなさ、どうにかなりませんか。
一律負担と言ったって、年収一千万と百万とでは同じ1万8千円の価値が違う。同じ5%(消費税)と言っても、一千万のうちの5%と百万のうちの5%とでは重みが違う!
それでいて未だに「金持ち減税が横行している」。どういうこっちゃネン。一億円もの資産なんて、いくら減税されようが使い切れる物ではないというのに・・・。
本当に驚くほどの税金と
保険料を払っています。
戦時中一生懸命生きてきた
世代に対して、ひどい扱い方です。