徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ランジェ公爵夫人」ー悩める愛の深淵ー

2008-08-30 23:30:00 | 映画

19世紀フランス文学の巨頭と言えば、オノレ・ド・バルザックだ。
バルザックは、生涯を通じて、90篇以上の小説と2000人以上の登場人物を創造し、19世紀のフランス貴族や市民の生活を、いきいきと描いた偉大な作家だ。
そのバルザックの同名小説 「ランジェ公爵夫人」 を原作に得て、ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠ジャック・リヴェット監督が、 「美しい諍い女」(91)に続いて、力強い、堂々たる風格の文芸作品を世に放った・・・。
ベルリン国際映画祭正式出品作品である。

交わされる言葉が紡ぎだす官能と悦楽、息詰まるような愛と途方もない情熱、そして業火の苦しみ・・・。
これを、恋愛心理の妙を突く、愛の深淵と言おうか。

19世紀初頭、パリの虚飾と欺瞞に満ちた貴族社会を舞台に、最初は戯れのように見えた二人が、いつしか激しく恋愛に陶酔してゆく姿を通して、男と女の普遍的な関係を描き出していく・・・。
そこに、徹底したデティール(細部)へのこだわりと冷静な眼差しが注がれ、‘恋’に身を焦がす男女の心情を際立たせて、知的で甘美な幻想世界を醸し出している。
それは、男と女の、かなわぬ恋の数奇な運命の心理ドラマを構成する。

文豪バルザック の小説は、ただでさえ描写においても奥行きが深く、読了するには多大な忍耐を要することもしばしばで、作風に慣れないとついてゆけない。
この作品とて、当時のフランスの貴族社会についての考察が延々と語られたり、小説の読破には力も必要だ。
これを映像で見せられると、文学に関心が薄い観客は、たちまち眠りに陥るかもしれない。

貴族社会を、忠実に再現した美術や衣装もあって、映画の方は格調高い香気を放つ・・・。
とくに、蝋燭の灯などの自然光を生かした、美しい映像は魅力的だ。
主演バリバールドパルデューの、相手に一歩も譲ることのない、緊張感あふれる対決は見ものである。

将軍は手負いの獅子のように激しく、公爵夫人は気高い薔薇のようであった・・・。
1818年、パリの華やかな舞踏会で、ランジェ公爵夫人(ジャンヌ・バリバール)は、ナポレオン軍の英雄モンリヴォー(ギヨーム・ドパルデュー)と出逢った。
公爵夫人は、思わせぶりな振る舞いで、彼を翻弄し続ける。
追い詰められたモンリヴォーは、たしなみや信仰を理由に、彼女の身体に指一本触れさせない夫人に対して、逆に夫人を誘拐するという手段に打って出る。

それを機に、恋に目覚めた公爵夫人は、熱烈な手紙をモンリヴォーに送り始めた。
しかし、モンリヴォーは今度は徹底的に彼女を無視し続けた。
公爵夫人は、自分の想いが拒否されたと思い込み、最後の手紙を友人に託し、突然姿を消した・・・。

モンリヴォーは、失意のうちに世俗社会から去った、ランジェ夫人を探し続けた。
・・・5年後、彼は、ランジェ夫人が、スペインのマヨルカ島の厳格な修道院で、テレーズと名を変え、修道女となっているらしいとの情報を得た。
モンリヴォーは、武装した帆船と共に、マヨルカ島に向かった。
しかし、そこで彼を待ち受けていたのは・・・?

フランス心理小説は、日本人には読み解きにくい一面もある。
単純に言えば、男が女を追う。追われた女が逃げる。
男は、逃げる女を相手にしなくなる。一切を無視する。
すると、今度は女が男を追いかける。
しかし、男は見向きもしない。
そこに、恋愛の陥穽(おとしあな)が潜んでいるのだ。
そして悲劇が・・・。
愛の深淵というゆえんだ。

恋愛は、恋の駆け引きだ。
低俗であれ、上品であれ、恋はひとつのゲームなのだ。
そして、それは時と場合によっては、まことに危険極まりないゲームだということだ。
だからこそ、ランジェ公爵夫人が愛の魔力から開放されるためには、リヴェット監督の、愛と死という永遠の謎、修道院を愛の牢獄とたとえれば、その閉鎖空間からの開放というテーマを持ってきて、ここにフランス文学の伝統にのっとった恋愛心理を、鋭利に解剖しえたということになるのでは・・・。

ジャック・リヴェット監督、フランス・イタリア合作映画「ランジェ公爵夫人は、むしろ恋愛心理の不可解さ、神秘的な魔力を強調するものになっているようだ。
ともあれ、ジャンヌ・バリバールギヨーム・ドパルデューの、心理的演技はそれだけで見ごたえ十分である。

この心理劇のクライマックスで、いたずらに振り回されるモンリヴォーが、彼女に向かって言う台詞が、ランジェ公爵夫人の心を打ち砕く。
 「これで、もうお別れしましょう。・・・お別れです。私はもう何も信じない。
 私は苦しみ、あなたは公爵夫人のまま、いや・・・、何でもない、さようなら。」
フランスの恋愛術は大変興味深い反面、巧妙、深遠で難解な要素が一杯だ。
 ・・・何が難しいかと言えば、愛することではなくて、愛されることである。 (ゲーテ)
 


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1 コメント

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Unknown (Gamer)
2008-09-02 15:07:20
オンラインゲームで使う便利な装置があります。
自動でハンティングもしてアイテム関連機能もあります。
どうしても長時間ゲームすることになる特性があるので結構役に立つだろうと考えられます。
詳しいのは下記の住所に入ってみて下さい。

http://www.automouse.jp
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