大人気の絵画の真の作者は、実はゴースト・ペインターだった。
1960年代、アメリカ美術界の大騒動となった実話をもとに、ティム・バートン監督が映画化した。
そういえば、最近の日本の音楽界にも似たような事件があったことは、記憶に新しい。
ティム・バートンのこの新作は、ブラックコメディ調だ。
作品を鑑賞して、いささか戸惑いを隠せないが、人間ドラマとしては正攻法で描かれた作品だ。
1960年代のアメリカ・・・。
大きな瞳(ビッグ・アイズ)の子供たちを描いた絵画シリーズで、作者ウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)は、一躍有名になった。
ウォルターは、大きな名声と富を手に入れるが、絵画はすべて妻のマーガレット(エイミー・アダムス)の描いたものだったのだ。
物語は実話で、マーガレットはいまも健在で絵を描いているといわれる。
口下手で内気なマーガレットは、子連れで離婚し似顔絵書きとなっていたが、日曜画家のウォルターと知り合って結婚した。
社交的で商売上手のウォルターは、二人の絵を売ろうと奔走し、マーガレットが描く目が大きい少女の絵が注目されると、自分が作者に成りすましてしまった。
マーガレットに密かに描かせた絵を、安価な複製にして大当たり、一躍時代の寵児となった。
どの絵においても、一枚残らず妻が描いたものだった。
・・・10年間も、1日16時間絵を描き続けた妻は、心の内を絵によって表現してきたが、このままでは自分を失ってしまうと、すべてを公けにすることを決意する。
だが、天才的なウソつき夫のウォルターは、妻は気が狂っているといって反撃し、事態は法廷へ・・・。
芸術の本質を突くような皮肉を込めて、時流をつかむことにたけた夫が世間の共感を集める。
マーガレットにしても、夫なしではなしえなかったかもしれないことだ。
口八丁で卑劣な夫を演じるクリストフ・ヴァルツの怪演、才能豊かなお人よしの妻を演じるエイミー・アダムス、この二人の映画だ。
マーガレットの絵は、評論家からは芸術性を否定され、夫の天才的な売り込みがなければ人気も得られなかったのだ。
何故といって、この当時女性画家の絵はあまり売れることがなかったといわれる。
アメリカ映画「ビッグ・アイズ」は、大衆が愛した絵画の真の作者は誰かということもあって、テンポの良い小気味よさで観る者を飽きさせない。
レトロで華やかなファッションや風景を、色彩豊かに1960年代のアメリカに再現し、なかなか見どころもあり、とりわけ終盤の裁判シーンには抱腹絶倒する。
ティム・バートン監督自身、マーガレットの大ファンだそうで、肖像画を依頼したこともあるという。
ティム・バートンも驚いた、ゴースト作家の実話を、最近の彼の作品とは違った切り口で味わうのも、また一興かも知れない。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
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バットマンとか、シザーハンズとか。
面白い感性といいますか。
それで商業ベースにも乗るんですから。