徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「アウェイ・フロム・ハー」―愛の切なさ―

2008-11-08 21:00:00 | 映画

サラ・ポーリー監督のカナダ映画は、新作ではないが、心に残る一作である。
ゴールデングローブ賞、全米批評家協会賞など、数々の賞に輝いた作品だ。
・・・君を幸せに出来るなら、この孤独を受け入れよう・・・。

サラ・ポーリー監督は、1979年生まれの若き女優だ。
彼女は、複雑な人間心理を実に巧みな演出と映像で表現した。
この作品は、一言で言えば愛の映画である。

忘れてしまうことの悲しさ、忘れられないことの苦しさ、そして忘れさせてしまう辛さもある。
結婚生活44年目の、フィオーナ(ジュリー・クリスティ)とグラント(ゴードン・ピンセント夫婦は、突然予期しない出来事に見舞われる。
フィオーナは、時として自分の名前が判らなくなったり、自分でも理解できない行動を取るようになって、医師からアルツハイマーと診断される。
ついに、フィオーナは、老人介護施設(ホーム)へ自ら入所を決断する。

1ヵ月後、面会を許されたグラントが目にしたのは、オーブリー(マイケル・マーフィ)という車椅子に乗った男の傍らで、恋人のように優しく世話をやいている妻の姿であった。
そればかりではない。
妻のフィオーナが、自分のことは全く覚えていないという、恐るべき事実であった・・・。

二人の夫婦をつなぐのは、忘れたい記憶と忘れられない想いだった。
今でこそ、お互いに満ち足りた毎日を送っていたが、フィオーナには、忘れたくても忘れられない想い出があったのだ。
それは、グラントが大学教授の時代に、女子大生と幾度も浮気をしていたことだった。

毎日施設を訪れるグラントだったが、フィオーナとオーブリーの間に芽生えた愛情が、日増しに深まっていくのを目の当たりにして、彼はいてもたってもいられない気持ちになるのだった。
フィオーナのオーブリーへの愛情は、自分に対する罰なのか。
それとも、フィオーナの復讐なのか。

一方で、オーブリーの妻マリアン(オリンピア・デュカキス)は、小さな家で孤独な生活を送っていたが、お金がかかるからと、彼女はオーブリーをホームから連れ戻し、ホームのフィオーナは落胆する・・・。
・・・そして、ドラマは意外な展開を見せることになる。

女性監督ならではの、心理描写がまことに細やかだ。
ヒロインを演じるジュリー・クリスティは、「ダーリング」という映画ではアカデミー賞主演女優賞を受賞しているし、幾つもの主演女優賞を総なめしているベテランだ。
芸達者のゴードン・ピンセントも、共演のオリンピア・デュカキス(アカデミー賞助演女優賞受賞)も、ともどもなかなかの演技派が揃った。

まだ20代のサラ・ポーリーは、長い時間を共に過ごして、その時間の共有があったからこその想いも、複雑に重なる知的なカップル(夫婦)の苦悩を、成熟した視点で見つめている。
人間の持つ、思いやりやいたわりが、年齢とは関係なく、老いや介護の問題に説得力を持つ。
別れ別れの老後を送らねばならない、二人の心境は複雑だ。

カナダ映画「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」は、フィオーナとグラント、そしてオーブリーとマリアンの二組のカップルを見せながら、夫婦の愛と結婚、そこから生まれた罪悪感を浮き彫りにする。

・・・人間は、いつかは一人になるのだ。
高齢化社会、そして老々介護の時代・・・、老いも若きも、明日はわが身だ。
ある日、アルツハイマーを宣告され、次第に記憶が薄れ、最後には、妻の、あるいは夫の顔さえも判らなくなる・・・。
その怖ろしい現実が、本当に近いところにあるのだ。
  (最近、日本の映画界でおしどり夫婦といわれる、あの御夫妻にもまさにその兆候が現れたと、夫がテレビで
   その辛い胸の内を吐露していましたが・・・。)