徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「火垂る(ほたる)の墓」―精いっぱいに生きた―

2008-11-24 08:00:00 | 映画

遅まきながら・・・、この映画は、少し前の作品である。
戦禍の中で孤児となった、幼い兄妹が精いっぱいに生きた物語だ。
野坂昭如直木賞受賞作だ。

88年のアニメ映画でも知られるこの作品を、日向寺太郎監督は、原作の舞台である兵庫県でオールロケを敢行した。
そこで主人公が生きた、敗戦のあの暑い夏を再現した。
・・・1945年8月15日の敗戦は、兄妹にとって、戦争の終わりではなかった。

昭和20年6月、神戸全域は大空襲に見舞われた。
父は出征したまま連絡が途絶え、清太(吉武怜朗)は病身の母を亡くし、妹の節子(畠山彩菜)とともに、西宮の遠い親戚宅で世話になることになった。
だが、おばさんの冷たい仕打ちに耐えられず、清太は節子を連れ、その家を出て、防空壕の中で二人だけの生活を始めるのだった。

日に日に悪化する戦況とともに、やせ細っていく節子・・・。
清太は、時折母の優しさ、父の厳しさ、つい数ヶ月前の平和な生活を思い出しながら、妹を励まし、懸命に生きていこうとしていた。

そして、日本は敗戦の時を迎えた。
幼い妹の節子は、その7日後に短い生涯を閉じた。
節子を荼毘に付したのち、清太は防空壕を後にして去ってゆくが、彼もまた栄養失調に冒されていた。
清太は身寄りもなく、駅に寝起きする戦災孤児の一人となって、もはや死を待つばかりであった・・・。
・・・ホタルのように、短く、儚い兄妹のドラマである。

出演は、ほかに松坂慶子、松田聖子、原田芳雄、長門裕之、池脇千鶴らがわきを固めている。
この話は、作家野坂昭如の実体験が色濃く反映されている。
神戸大空襲で、自分の自宅や家族を失ったことや、美しい蛍の想い出なども作家の体験に基づいている。
また野坂昭如は、戦中戦後にかけて二人の妹(野坂自身も妹も養子であったので、血のつながりはない)を相次いで亡くしており、死んだ妹を荼毘に付したことがあるのも事実だ。
食料事情の厳しい時代であった。
ろくに食べるものもなく、やせ衰え、骨と皮だけになった妹は、誰にも看取られることもなく餓死した。
そうした事情から、自分がそうであった妹思いのよき兄を主人公に設定して、贖罪と鎮魂の思いを込めて、この作品を書き綴ったと言われる。

野坂昭如自身の悔恨が投影されたかたちで、映画「火垂る(ほたる)の墓は作品化され、完成したのだった。
こんな時代が、本当にあったのだ。
夢も希望もなく、貧しかった時代を生きた、これは、幼い戦災孤児の兄妹の涙の物語だ・・・。