徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「いのちの作法」―人々に笑顔と元気を―

2008-11-26 09:00:00 | 映画

心温まる、長編記録映画である。
昭和30年代に、日本で初めて、老人医療費の無料化や、乳児死亡率ゼロを達成した町が岩手県にある。
旧沢内村、現西和賀町のことだ。
豪雪・貧困・多病多死の三重苦に苦しんでいた村は、「住民の生命を守るための地域づくり」に取り組んできて、日本一の保健(福祉)の村になったのだった。
いのちの大切さ、「生命尊重の理念」を前面に押し出した、一地方の行政が注目されている。

福祉とは何か。福祉行政はどうあるべきか。
この問いに、答えようとしている。
作品に、派手さはない。
高齢者、子供、身障者に、元気と限りない優しさをもたらす、画期的な事業に取り組んでいる過疎の町である。
その町の姿を映し出した、珍しい記録映画だ。

人間の尊厳を訴え続けながら、“生きる勇気”を与えようという町是が息づいている。
奥羽山脈に抱かれた、水と森の町の話だ。
時には厳しさを見せる自然の中で、人々はたくましく生きている。
昔から受けついできた、暮らしや文化を守るために、ふるさとを築いてきたお年寄りや、これからのふるさとを創る子供たちを守り育てるために、頑張っている町の姿が映し出される・・・。

そこには、故郷を愛し、確かな家族の絆を持ち、現代の日本が失いかけている、生きる喜びやその意味、そして豊かさを知っている人々がいる。
いま、人と人とのつながりが薄れ、心が貧しくなってはいないだろうか。
日本や世界の混迷は、目を覆うばかりだ。
ここでは、世界中の自治体の何処にも見当たらない、勇気ある挑戦を続けている。
その西和賀町の人たちの、“限りない優しさ”を記録したフィルムだ。

すこやかに生まれ、すこやかに育ち、すこやかに老いる。
当然、住民一体の努力があった。
この地域には、人々の明るい笑顔が絶えない。
誰もが元気を分かち合っている。
人と人とを結ぶ絆がある。温もりがある。
希望が満ち溢れている・・・。

戦後60年で失ってしまった、日本人の不屈の精神や、慈しみの心、親から子へ継ぎ渡していく教育や価値観といった、日本固有の精神文化はまだ残っている。
有史以来、三年に一度は押し寄せたという飢饉の波にさらされながら、自然と共に自らを律し、自らを励まし、自然に祈り、願いながら、互いに支えあってきた人々の暮らしが根付いている。

この作品は、教育映画でも啓蒙映画でもない。
みちのくの小さな町で、かつて一人の村長と住民たちが、半世紀かけて創り上げた人間ドラマといえるかも知れない。
小池征人監督は、「白神の夢―森と海に生きる」で、世界遺産・白神山地を舞台に生命の営みを描いた“人間派”として知られる、記録映画界で活躍中の人だ。

小池監督は、多くの若手スタッフたちとともに、この記録映画「いのちの作法を、約半年間にわたって、日夜現地の人々に寄り添って撮り続けた。
そして、記録された130時間にも及ぶ映像を、西和賀の美しい風土と文化を織り交ぜて、まとめ上げた作品だ。
国が出来ないことを、一地方から発信する、貴重なメッセージがここにはあるような気がする。
お年寄りを、切り捨てるのではない。大切にしようという話である。
ややもすればなおざりにされかねない、福祉のきらめきの、何と温かなことだろうか。