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平安時代のエッセイ「枕草子」で、清少納言が「にくきもの」を語る項があります。
現代語訳的には「腹が立つ」「ムカつくこと」となります。
「今参りのさし越えて、物知り顔に教へやうなること言ひうしろ見たる、いとにくし」
→新入りが先輩を差し置いて物知り顔で世話を焼くのはムカつく。
「あけていで入る所たてぬ人、いとにくし」
→開けっ放しでドアを閉めない人はムカつく。
「蚤(のみ)もいとにくし。衣の下に躍りありきて、もたぐるやうにする」
→ノミが着物の下ではね回って持ち上げようとするのはムカつく。
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物知り顔の新人とドアを閉めない人は、現代でも通ずるありがちな存在ですが、ノミがはね回るのはかなりレアなこととなりました。
つまり、人の心やしつけは1000年経っても変わらないものの、防虫技術の進歩は目覚ましいということ。
これぞ大日本除虫菊の創業者、上山英一郎氏の功績です。
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上山氏は、1885年にアメリカの貿易商からユーゴスラビア原産の除虫菊の種を譲り受け、日本で栽培を始めました。
除虫菊は昆虫を寄せ付けない働きが知られていて、氏は収穫した除虫菊を乾燥粉末にし、「ノミ取り粉」として販売したのです。
清少納言のムカつきが解決したのであります。
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その後、仏壇線香を参考に「蚊取り線香」ができ、1902年には渦巻型に進化。
1967年から始めた美空ひばりさんのCM効果で「金鳥の夏、日本の夏」が定着しました。
除虫菊の有効成分は「ピレスロイド」と呼ばれていて、昆虫には効くが人間には無害というすぐれもの。
現在では、このピレスロイドを蒸散する電子蚊取りが主流になってきましたが、やはり、あの昭和の香りにはかないません。
毎年夏になると、ある老舗旅館の広大な庭園に設けられた納涼床にござを敷き、夕涼みを堪能する会があるとか。何も言わないと電子蚊取りを設置されてしまうそうですが、風情台無しにつき、蚊取り線香の予約も可能だとか。
「日本の夏に電子的ピレスロイドで虫除けするは、いとにくし」
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