【蛤】 (はまぐり)
蛤は、「浜栗」の意。春の季語。
春は蛤の食べ頃の時期。
このほか、蛤のような二枚貝は離してしまうと、もとの同じ貝同士でないと絶対にピッタリと合わないと言うことから、女性の貞節を象徴するものとされ、蛤の潮汁や焼き蛤は雛祭りには欠かせない目出度い献立となりました。
さて、今回は「四季のことば ポケット辞典」という本の三月のページを開いた時に目に飛び込んできた「蛤」を採り上げてみました。
件の本の解説は季語としての「蛤」の部分はよかったのですが、その前段に書かれた記述に多少問題あり。それは次の説明。
「潮の干満の差が大きい春は、貝の収穫期にあたります。」
「春の大潮」という言葉は、気象関係の本でも見かけることがあり、春は潮の干満が大きいと思われがちですが、日本のような中緯度の地域にある場所では、実はそうはなりません。
潮の干満の大きさという点で考えると、夏至や冬至の時期の方が大きくなるはずで、実際にもまたそうなるのです。
「春の大潮」という場合の春が五月末辺りを指すのだというのならわからないでもないのですが、五月末を春の代表と捉えるのはかなり無理がある気がしますので、潮汐について考えるとき「春の大潮は干満の差が大きい」という表現は誤解を生むだけのようです。
潮汐が起こる原理を考えれば、日本付近では夏至や冬至の方が干満差が大きくなることはすぐに気が付くはずなのに、気象についての解説本にもまだ「春の大潮は干満差が大きい」という記述が有るのは、春が潮干狩りのシーズンであることから、「干満差が大きなはず」と誤った思いこみをしてしまっているのかもしれません。思いこみは危険ですね。