11月

極限環境微生物という研究領域があります。
100℃の高温、1000気圧の高圧、20%の塩分、手が溶けるほどの
強アルカリなど、過酷な環境下でたくましく生きる微生物に光を当て、
その潜在能力を産業に活かそうという学問です。

例えば火山の火口近く、100℃の土壌中に成育する微生物には耐熱性があり、
この微生物から取り出した酵素もまた熱に強い。
通常は60℃前後で力を失ってしまう酵素が100℃で使えるメリットは大きいのです。

最も有名な極限エピソードに、「こえだめ分解酵素」の話があります。
ある研究者が、アルカリ環境下で繊維を分解する微生物を発見。
その微生物から繊維分解酵素を取りだし、なんと、「こえだめ」という極限に
利用することを考えたのです。

当時は水洗トイレがなく、こえだめ内容物の強固な繊維質が回収の妨げとなっていました。
アンモニアが充満し、アルカリ状態のこえだめでの活躍を酵素に託した研究でしたが、
技術が完成した頃には水洗トイレが普及して日の目を見ることはありませんでした。

しかし、そこは極限に耐えてきた酵素。10年間という潜伏期間を経て、
1987年に家庭用洗剤に配合され堂々デビューしたのです。
繊維をやわらかくして隙間汚れを落とす酵素パワーのコンパクト洗剤。
極限環境を生き抜き、こえだめで辛酸を舐め、10年を凌いだ果ての春なのです。

洗剤用酵素の成功以来、すわ宝の山ということで極限環境微生物探しが盛んになりました。
温泉土壌、海底火山、果ては「しんかい6500」を利用した深海探索。火星もありかな。
しかし、ただ、キワモノを探せばいいというものではないように思います。
極限環境で暮らす微生物が、極限まで追いつめられた研究者の手で、極限状態に置かれる。
その成果とは、そんなギリギリの攻防の果てに得られるものなのですから。
まずは、極限の日々に身を置くことから始めようと思った次第です。


韓国でうどんがブームだが、花かつおをトッピングするという
日本にはないスタイルで伝わってしまっています。
つゆは甘めの関西風を日本から仕入れるところが多く、
違和感はないのですが、これから本格的に韓国国内でだし取りを
行うようになると、硬度の高い大陸の水が問題になってくるのです。

元来、硬水は畜肉向き。ブイヨン、フォン、白湯など、アクを排出しながら
長時間煮詰める畜肉だしには硬水が向いているのですが、かつお節、
煮干し、昆布などの和風だしは軟水じゃないと旨味が出ないし、
渋味や濁りが発生してしまうのです。

ところで、硬度はカルシウムとマグネシウムの含量で算出され、
カルシウムの2.5倍とマグネシウムの4.1倍を足せば硬度となります。
(単位はmg/L)
一般的に硬度100以上が硬水と呼ばれ、日本国内の水はほとんど軟水。
だから、輸入ミネラルウォーターの売り上げ1位「ボルヴィック(硬度62)」、
2位「クリスタルカイザー(硬度38)」ともに日本人好みの軟水なのです
(3位以下は全て硬水)。

ちなみに、和風だしの水は硬度300前後から味に影響が出てきます。
「エビアン(硬度304)」「ヴィッテル(硬度309)」あたりが限界で、
「コントレックス(硬度1468)」「クールマイヨール(硬度1612)」なんかだと
悲惨な味になります。

日本は急峻な山が多く、すぐ流れるから低ミネラル水になりました。
日本の水はやわらかい。
そのせいか、日本人もやわらかくなってしまったのでしょうか。
「バンカラ」も「硬派」も死語になった今、ときどき硬水をあおって
身を引き締めるのがいいかもしれません。

硬水と徴兵でもまれた隣国の若者は、われわれの想像以上にたくましいぞ。
硬派度=兵役年数×2.5+高倉健さんの映画を見た本数×4.1。
こんな公式で気合いを入れる今日この頃なのです。
