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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

CHICK COREA'S ELEKTRIC BAND / Beneath the Mask

2010年01月26日 23時55分04秒 | JAZZ-Fusion
 1991年に発表されたチック・コリア・エレクトリック・バンドの第5作にして最終作である。私はこの作品を今回初めて聴いたのだが、まさに最終作に相応しいどこをとっても完成され切った作品になっていると思った。表向き「ライトイヤーズ」的なポップ・センスが全面的に出ているものの、あまりに売れ筋なポップさを狙いすぎて、バンドの個性がスタイルに埋没気味だった「ライトイヤーズ」に比べれば、前作「インサイド・アウト」で獲得した高いテンションとテクニカルさ、一部「アイ・オブ・ザ・ビホルダー」的なスペイシーな感覚に、ポップなフュージョン・サウンドにほどよくミックスされていて、全体の感触としてはかなり聴きやすい音楽ではあるものの、頃合いのバランスになっているのがいい。まさにCCEBの総決算といってもいい出来だ。主な曲をメモってみたい。

 冒頭の3曲ははCCEBが再びポップなファンキー・フュージョンに戻ってきたことを感じさせるキャッチーな作品。ただ「ライトイヤーズ」と違うのは、前述の通りバンドのもの凄く高く演奏自体が非常に充実しているということだ。この後何度も書くことなるが、ことにウェックルとパティトゥッチのリズム隊はこのバンド史上最高のテンションを発揮していて、当たり前なものになりかねないこうした曲でもやけにハイな仕立りにしまっている。「Wave Goodbye」は「アイ・オブ・ザ・ビホルダー」で展開されたような幻想味の強いサウンドだが、パティトゥッチが強力なグルーブ感でもってバンドをひっぱっているところが「アイ・オブ・ザ・ビホルダー」の諸曲とは少々違うテンションを感じさせることになっているのがいい。「Lifescape」は「インサイド・アウト」のシリアスさをぐっと滑らかにしたような作品で、複雑なキメや変拍子が実にさりげなく溶け込んでいるアレンジが絶妙。また、ギャンバレのギターが聴き所満載である。「Jammin E. Cricket」もウェックルとパティトゥッチが強力なグルーブ感を醸し出す、まるでアート・オブ・ノイズみたいなメカニカル・ファンキー・ナンバーでカッコ良く、こういうサウンドであれば、中間部で聴かれる「アイ・オブ・ザ・ビホルダー」ばりの中間部の浮遊感も生きてくるというものである。

 「Charged Particles」は「インサイド・アウト」的なゴリゴリ感、大仰さをコンパクトにまとめたような作品で、個人的にはアルバム中のお気に入りの作品となった。「Free Step」はポップなラテン・フュージョンの衣をまとった作品で、全体としては滑らかでリラックスして進むが、実にはかなり仕掛け満載のテクニカルな作品で、ウェックルとパティトゥッチが表向きニコニコ、実は怒髪天みたいテンションになっているのが凄い。「99 Flavors」は当時、ヤマハが出していたデジタル・シンセの最新機SY99にあやかった曲で、かのデジタル・シンセらしいクリアだがアナログ的太さも感じさせるサウンドを随所に散りばめている。「Illusions」は10分近い大作で、幻想的サウンドとハイテンションなインタープレイの合体を目論んだ作品という感じだろうか。こういう作品だと必ず顔だすバルトーク的シリアスさや複雑なアレンジを、無理なくポップなサウンドに収束させているあたり、CCEBの進化プロセスの最終形を感じさせる。
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チック・コリア・エレクトリック・バンド/インサイド・アウト

2010年01月26日 00時03分30秒 | JAZZ-Fusion
 1990年発表の第4作。前作はそれまでの2作にあったテクノロジーの追求、ポップ指向といったものへの反動といった趣の強かったが、幻想味やスパニッシュ風味という点ではみるべきものがあったものの、これだけのメンツを集めた割にはいささか地味過ぎたきらいがなくもなかった。きっとチック・コリアは本作の制作にあたり、この辺を大いに意識したのだろう。1曲目のタイトル・チューンこそ、当時流行のメロウなポップ・フュージョンではあるものの(マリエンサルのサックスがまるでデビッド・サンボーン-笑)、それ以外はまるで前作で欲求不満を解消するかの如く、全編に渡ってCCEBというテクニック集団の特性を生かした、-かつての作品でいえば-「スリー・カルテッツ」的なゴリゴリ感にバルトーク的なシリアスさが満載されたけっこうハードコアな作品となっている。

 二つのパートのメドレーからなる「メイク・ア・ウィッシュ」は、バルトーク風なイントロから、実に込み入ったキメと4ビートが縦横に交錯するかなりテクニカルな本編となる。ソロはギャンバレ、マリエンサル、コリアの順でスピーディーに展開、ハイライトはギャンバレのアラン・ホールズワースを思わせるギター・ソロか、ウェックルとパティトゥッチのリズム隊もここぞとばかりの活躍振りで実に爽快なプレイを展開している。やはり2部からなる「ストレッチ・イット」もバルトーク風なテーマから、第二部ではメローなフュージョン的な要素も目配せしつつ、やはり各メンツのソロをふんだんに配置して、高テンションな演奏を展開している。アルバム中最長の大作「テイル・オブ・デアリング」は4パートからなる組曲で、シリアスな導入から、第二部では「メイク・ア・ウィッシュ」と同樣なソロ・パートが展開され、第3部ではまさにバルトークとしかいいようがない、複雑極まりないリズム的なテーマ(ピアノとドラムのユニゾン)が展開され、ギャンバレのギター・ソロも追い打ちをかけて、この大作のハイライトとなっている。

 という訳で、個人的にはCCEBといえば、これまで本作をもっとも愛聴してきたせいもあるが、これが一番バンド面の資質がよく出た作品なのではないかと思う。シリアスやハード路線といっても、当時所属していたレーベルがGRPということもあって、ある程度はポップさにも目配せしており、このあたりのバランスが、実のところ一番このメンツには合っていたのではないかと思ったりもするのだが、どうだろうか。まぁ、少なくとも前二作よりデビュー作や「ライヴ・フロム・エラリオズ」、そしてCCABを愛好する私のようなムキには、このアルバムの随所に展開されるスリリングなインタープレイは掛け値なしに価値があるものだと思う。
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