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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

チック・コリア・エレクトリック・バンド/ライヴ・フロム・エラリオズ

2010年01月13日 23時00分58秒 | JAZZ-Fusion
70年代のRTF、その後の多彩なソロ活動を経て、チック・コリアはこのエレクトリック・バンドで再生する。いや、再生というよりは刷新と呼ぶべきかもしれない。RTF以降のチック・コリアのかなりの数のアルバムを何年がかりで聴いてきたけれど、やはり今からクロノジカルに聴いていくと、RTF解散後は旺盛な創作意欲でもって、確かにクリエイティブな活動はしていたと思うけれど、ハードコアなテクニカル路線スペイン、バルトーク、ファンタジー趣味といった様々な音楽要素をとっかえひっかえ使い回している感もなくはなく、相変わらずテクニックやクウォリティはさすがだったけれど、次第に活力を失い、なんとなく袋小路に入ってしまったような感もなくはなかった。82年の「Touchstone」の1曲では奇しくもRTFを再結成してしまっているが、これなどある意味では彼の行き詰まり感を象徴しているような出来事だったのかもしれない。

 まぁ、そんな状況を意識していたのか、無意識だったのかはよくわからないが、ともあれチック・コリアは1985年にこれまでの人脈とは一切断絶した若いメンバー共に新しいバンドを結成する、それがチック・コリア・エレクトリック・バンドである。このバンドは当初、チック・コリアにジョン・パティトゥッチとデイブ・ウェックルでもってスタートし、デビュー作では何人かのサポート・メンバーが加わり、やがてフランク・ギャンバレとエリック・マリエンサルが加わって固定したバンドとなるが、本作はそのエレクトリック・バンドのスタート時点を捉えた1985年のライブである。メンツは当然の如くトリオ編成で、いわばその後に展開することになるアコースティック・バンドと同様なメンツな訳だけれど、冒頭にも書いたとおり、パティトゥッチとウェックルという若手を得て、チック・コリアの音楽が見事に刷新されたことを物語る、活気と生気に富んだ実に素晴らしい演奏になっている。1曲のエレピはRTFを思わせる懐かしいフレーズだが、ドラムとベースがファンキーなリズムでもって乱入してくると、音楽の佇まいはがらりと変わるのだ。

 収録曲は8曲、トリオだからその後のエレクトリック・バンドほどカラフルでもポップなサウンドでもないが、とにかくリズム・セクションが画期的に斬新だ。明らかに過去のジャズの伝統を引きずっておらず、基本8か16ビート、シーケンサーとの共演になんの違和感も覚えない、妙に明るく屈託のない超絶技巧のふたりのリズムに乗って、チック・コリアが久々に鼓舞している様は実に楽しい。ひょっとするとチック・コリア自身のプレイはそんなに変わっていないのかもしれないのだが、ベースとドラムが変わるだけで、これだけ音楽の様相が違ってしまう良い見本かもしれない。あっ、そうそうチック・コリア自身の変化というなら、このエレクトリック・バンドで「エレクトリック」の所以かもしれない、デジタル・シンセ群をここで大幅にとりいれているという点がある。今となってはいささか時代を感じさせるいかにもなサウンドもあるが、とにかく従来のフェンダー、アナログシンセ、そしてピアノといった組み合わせから脱却しており、聴こえてくる音そのものがアップ・トゥ・デートな新鮮さがあったのは事実だ。とにかくここでチック・コリアはここで自らをリセットすることに成功したのである。
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すぎやまこういち/交響組曲「ドラゴンクエストVIII」(都響版)

2010年01月13日 00時31分00秒 | サウンドトラック
 ついでに、こんなのも出てきた「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」の交響組曲である。このゲームのサントラはPS2の内蔵音源を使い、その巧みで緻密なオーケストレーションのせいで、ほぼこれをそのままCD化したアルバムをすぎやま氏はかなり自信満々にリリースしたが、なるほどかつての内蔵音源によるCD化とは一線を画する非常に高いクウォリティに、私は「これコレがPS2の内蔵音源?」と、仰天したのをよく覚えている。ついでにいえば、ほぼ時を同じくして、違う意味で驚いたのが先日取り上げた「真・女神転生マニアクス」のサントラで、メガテンがロック系のサウンドのシミュレートだったとすると、もちろんドラクエは正統派の疑似管弦楽という違いはあるものの、どちらも打ち込みという方法でもって、「行くところまで行った」音楽だったと思う。私は20代後半から30代前半にかけて、ずいぶんと打ち込みで音楽をつくることに入れ込んでいたことがあるから、まさに10年という時の流れがいかにも凄まじい音楽テクノロジーを深化させてか、こういうところで思い知らされた感もあった。

 ともあれ、私はこのオーケストラ版を購入したはいいが、きっと「ドラクエストVIII」のサントラのサウンド・クウォリティに満足してしまったのだろう。こちらのアルバムを封も切ることなく、あれから3年も経った今夜、ようやく聴いたという訳である。さて、この交響組曲で一番、オーケストラ・サウンドとして聴いてみたかったのは、アルバムでなんといっても「おおぞらをまう」と「大空に戦う」である。「おおぞらをまう」はもともと「ドラクエIII」で登場した音楽だが、この「ドラクエVIII」の中でも、とりわけ印象的な使い方をされていた音楽である。まさに大空をゆったりと回遊するような伸びやかな旋律に、幻想味と一抹の哀感を滲ませたところは素晴らしかったし、「大空に戦う」は自分の文章を引用すると、『「おおぞらをまう」の音楽をベースにバルトーク風なオーケスレーションした仕上げた曲』ということになるが、もともとバルトーク風にモダンなオーケストレーションをロック風に仕上げたサントラが、元通りオーケストラで演奏されたらどうなるのか興味津々だったからだ。

 ちなみに前者は若干使用楽器に異同があるような気がするが、ほぼ「ドラクエIII」と同じアレンジ、これはいつもと同じように楽しめた、録音も新しいので、非常に透明感があるサウンドであるのもいい。後者は「終末に向かう」「ドルマゲス」にこれとラストのハイライト・シーンをまとめた組曲風な構成になっている。後者は実際に管弦楽として聴いてみると、ちょっとバルトーク風とは違い、金管の咆哮、生オケ+ドラムスのジャズ・オーケストラ風なサウンドなど、どちらかといえば007のサントラみたいな感じである。まぁ、スケールが大きく、構えが大きいのはサウンドはそれだけでも聴き応えがあるのだが、これはちょっと予想とは違った感じ(笑)。やはりあんまりシリアスなオーケストラ・アレンジは、商品として出すために控え気味にしたのだろうか?。一方、「馬車を曳いて」「広い世界へ」「つらい時を乗り越えて」といった、ゆったりとした曲ではオーケストラのナチュラルでゆくもりあるサウンドが、やはり打ち込みとはひと味違った良さを感じさせてくれた。「大空に戦う」はちと予想と違ったが、おおむね満足できたアルバムだ。
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