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伊福部昭 ゴジラ伝説/井上誠

2006年02月12日 12時42分06秒 | サウンドトラック
 1984年に生オケによる「SF特撮映画音楽の夕べ」が開催されたのは、伊福部ファンにとっては80年代のひとつのハイライトだった訳ですが、結果的にこれの露払いのように現れた作品がこれだったといえるでしょう。当時、ニュー・ウェイブ系のバンドとして知る人ぞ知るという存在だったヒカシューのキーボード奏者が、シンセサイザーのオーバー・ダビングによるオーケストレーションでもって再現したゴジラ関連の音楽ばかり集めた作品だった訳ですが、井上自身が伊福部先生のほとんど殉教者のような愛情をもったファンだったことが幸いし、伊福部ファンにって、選曲、アレンジ、サウンドなどなど、「かゆいところに手がとどくようなアルバム」になっていたことが画期的でした。

 選曲はほぼ満点、「ゴジラ」の始まり「キング・コング対ゴジラ」3曲、「モスラ対ゴジラ」「地球最大の決戦」2曲、「怪獣大戦争」、「怪獣総進撃」等、おおそよ伊福部先生の作ったゴジラ関連のメインタイトルやマーチ系の名曲が網羅されていることに加え、「コング輸送作戦」、「黒部谷のテーマ」、「キングギドラ出現」といった通好みの作品も収録されいたことはファンにとっては感涙モノ....というか、はっきりしませんが、おそらくこれらの作品は「ゴジラ伝説」によって、改めてファンに伊福部作品の名曲として認知されたという気すらします。いずれにしても昭和40年代を前後数年くらいのスパンに制作され、それを観ながら少年時代を過ごした人達が記憶しているであろう曲を選び抜いた見事な選曲であり、これによりこのアルバムは成功はもう半分約束されていたようなものでした。
 加えて、これは井上の先生に対する愛情のなせる技だったと思いますが、とにもかくにも徹底的な原典重視の姿勢を貫いたことも、ファンに絶大に受けた原因となっていたと思います。先生の譜面にない音は極力を付け加えず、シンセのよるオケのシミュレートに徹するその潔い姿勢が、ほとんど誰が聴いても納得できる「伊福部音楽のシンセ化」という、簡単そうでいておそらく難しい壁をクリアに導いたのでしょう。
 もちろん、まったく先生の譜面に対して、何も付け加えていない訳ではありませんが、各種SEの付加にせよ、ベースとドラムをプラスしてロック風なリズムに解釈している場面にしているところでも、本末転倒にならない程度に抑制してあって、「主役はあくまでオリジナル・スコア」を堅持しているあたり、しつこいようですが、井上の先生に対する愛情としかいいようがないもので、そのあたりがまた共感を呼んだ訳です。

 ついでに書けば、ここで用いられてシンセはどちらかといえば、アナログ・シンセ主体で当時爆発的勢いで普及しかけていたデジタル・シンセにはあえて背を向けて(全く使っていない訳ではないですが)、ジュピター8等の重厚な音のするシンセをメインに使い、場合によっては当時陳腐化していたメロトロンも併せて使うなど、ここでも重厚な伊福部サウンドに忠誠を誓っているあたり井上のこだわりを感ぜずにはいらません。
 最後に前段の物言いとは矛盾するかもしれませんが、これを一聴し「ゴジラのテーマ」が「怪獣大戦争のテーマ」がロック・ビート風なドラムをともない、緻密なシンセ・オーケストレーションで聴こえてきた時、「いやぁ、ゴジラの音楽って今でも生きているんだな」は感動したものです。モノラルの貧弱な音質だったせいもありますが、既に「過去のモノ」となっていたこれらの音楽を、控えめながら現代に蘇生させてくれたこのアルバムに、今もって愛着を感じている人もけっこう多いのではないでしょうか。もちろん私もそのひとりでありますが。

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