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長屋紳士録 (小津安二郎 監督作品)

2010年07月11日 23時15分12秒 | MOVIE
 小津の戦後第一作で、黒澤の「素晴らしい日曜日」と同じ昭和22年の作品。主演は「一人息子」の飯田蝶子、共演陣は笠智衆、坂本武、吉川満子などのお馴染み面々。戦後間もない東京を舞台にして、預かって来た戦災孤児を巡る人情劇である。
 笠が街で拾ってきた戦災孤児を飯田蝶子に押しつけるところから物語が始まりるが、作品のムードとしてはほぼ戦前の雰囲気とまったく変わらない感じ。先日観た「できごころ」の喜八シリーズそのままの設定を使って、坂本武は脇に回り、飯田がメインとなった感じといったらいいだろうか(「一人息子」の時は寡黙な母役だったが、こちらはガミガミとまくし立てるあの後年のキャラクターそのままで登場する)。

 戦災孤児の世話をまるで捨て猫かなにかなのように、大人達が押しつけ合うのは、今の感覚からすると、どっかの人権団体が騒ぎ出しかねない非情さだが、表向きこのあっけらかんとしたドライさの裏にちゃんとした人情があり、昨今の人権尊重などというきれい事を、日本中で金科玉条の如く言い始める前、ヒューマニズムを感じさせてくれるのがなんとも快い。
 映画からはあまり戦争直後の貧困や殺伐感はそれほどないが、高級そうなドラ焼きを食べて「これは昔の味がする」なんてところや、ラストで飯田が今のせちがない風潮を歎く場面など、当時、戦前と比べて様変わりしてしまったであろう社会の一端が垣間見れるところは興味深い。

 途中「今の子供は鼻水垂らす子も少なくなった」ってな台詞が出てくるが、この時代でそうだったら、私が子供の時だった60年代後半などクリーンそのものだろう。まして今の時代にタイムスリップでもして来た日には、社会全体が驚愕の完全無菌状態みたいに感じるかもしれない。
 ちにみに、同じ終戦直後の東京を舞台にしながら、「素晴らしい日曜日」と本作は時代も土地も全く異質な別世界のように見える。当たり前といえば当たり前だが、小津と黒澤は荒廃して疲弊しきった東京にまったく違うドラマを見ていたのだろう。その落差はあまりに巨大だ。

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