YMO関連にもけっこう夏物が多い、けっこう異論はあると思うが、細野の「フィルハーモニー」、高橋の「音楽殺人」、坂本の「未来派野郎」などは私にとっては紛れもない季節物で、夏になると何故か聴きたくなる作品になっている。とはいえ、本家の方ではやはりこのアルバムにとどめをさすだろう。先行したシングル「君に胸キュン~浮気なヴァカンス~」は83年のカネボウ夏のキャンペーンソングで、ヒット・チャートをかけ上がり、ファミリーの曲は表から裏まで花盛り、メンバー自身は各種メディアにも露出しまくり、さながら83年はYMOに席巻された夏という感じであった。
このアルバムが、バンドの解散を前提に歌謡曲というコンセプトでもってつくられたというエピソードは有名だ。しかし、出来上がった作品は、確かにはポップではあるものの、例によって作り込み過剰で、極めて音楽主義的な産物であった。YMOというと、とかく「テクノデリック」のような音楽こそが本音で、「浮気なぼくら」のポップさは方便みたいな捉え方がよくなされ、マニア度の高い人ほどそうしたことを信じているキライはあるけれど、本当にそうなのだろうか?。私などむしろ「いやだいやだ」といいつも、こういう職人的なポップ・センスこそ彼らの本音で、シリアス・タイプのテクノの方がよほど「本音を装った建前」みたいな気がしてならないのだが....。
実際このアルバムは名曲揃いなのである。ほとんど完全無欠といいたいような「君に胸キュン」はいわずもがなで、ミニマム・ミュージックとフランス風味のドッキング「音楽」、高橋幸宏がポップに炸裂する「希望の路」「オープンド・マイ・アイズ」、細野流ワールド・ミュージックの「ロータス・ラブ」、「戦メリ」の残光のような坂本風叙情メロ横溢の「邂逅」などなど、どれも夏向きなキャッチーさと開放感を押さえつつ、そこに実験精神を過不足なくバランスさせているあたり、「作り込み過剰な職人集団YMO」全開である。聴いていて実に楽しいしノレるのだ。個人的にはという留保付きだが、こういうところこそ実はYMOなのだぁ~とか思ったりもしている。
ちなみに今夜聴いたのは、最近再発された従来の「浮気なぼくら」に、その後別売された「浮気なぼくら」のインストゥルメンタル・アルバムをプラスした2枚組だ。インストゥルメンタル・アルバムの方は、単なるカラオケではなく、歌メロをシンセに置き換え、若干曲の異同もあったりするし、坂本や細野の曲は、むしろこちらの方が楽しめるもするので、YMOファンとしては落とせない作品ではある。ただし、独立したYMOのアルバムとしてはいかにも弱いのも事実なので、こうして2枚組としてセットされたのはありがたい。
リマスターということで、音質的にはコンプレッサー系のエフェクトで音圧をあげ、各種イコライジングで細部の見通し、抜けをよくしているというありがちなパターン。ALFA時代のCDに比べると数段良いを音に感じるが、かといって、東芝EMIのリマスターより更に良くなっているという訳でもない。それにしても実はこのアルバム、きちんと聴くのは多分数年ぶり、このリマスター盤を聴く前に昔のCDも聴いてみたのだが、ここ数年オーディオをアップグレードしたおかげなのか、これまで聴こえなかった細部の情報が沢山聴こえてきて、「へぇ、こんな音使ってたのねぇ」と、けっこう驚いた部分多数。こういうところもさすがにYMOである。