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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

カルロ・ルスティケリ/ブーベの恋人

2009年11月27日 22時16分29秒 | サウンドトラック
 「プーベの恋人」という映画は、おそらく団塊の世代には忘れられない映画ではないか。そもそも主演のクラウディア・カルディナーレというイタリアの女優自体が、この世代にはおそらく忘れられない人であり、この作品はクラウディア・カルディナーレの代表作となっているものから、この両者はたぶん不可分なのだろう。物語は第二次世界大戦末期の北イタリアを舞台にしたパルチザンの青年と娘の悲恋といったもので、牢獄に入れられたパルチザンの青年にあえてついていく、苦難の道を選ぶ主人公のけなげな純愛ぶりが当時受けたようだ。私が観たのは、初公開時からずっと20年近くたった頃で、どうもそれが災いしたのか、よくいえばごくまっとうな、悪くいえば通俗的な青春映画という感じで、その名声の割に、例えば先日のアントニオーニのような歴史に残る名作という風格も感じなかった。そのことは監督がルイジ・コメンチーニという、当時の職人監督であったことからもわかる(この人の作品にこれに限らず、割と社会派なところがあり、そこにイタリアのネオリアリズムの残滓を感じることもできる)。

 さて、そんなイマイチな印象だったこの作品であるが、そんな中にあって随所で光り輝いていたのがこの音楽である(もちろんカルディナーレも光り輝いていたけれど、こういう気性の激しそうな女は、個人的には「なんか、かなわねーな」とか思って敬遠したくなってしまうのだ-笑)。スコアはカルロ・ルスティケリ、古くは「鉄道員」を筆頭にピエトロ・ジェルミ作品で忘れられない旋律を提供し、「禁じられた恋の島」「イタリア式離婚狂想曲」といった作品でもファンには知られるイタリアの名匠である。さしずめこの作品はルスティケリ最盛期の名作ということになると思う。この作品のには一度聴いたら忘れられないような曲が2つある。ひとつは嘆き悲しむようなトランペットのイントロから、哀愁を漂わせつつサックスが物憂げな旋律を吹く「プーベのブルース」、ワルツのリズムなのに何故かひっそりとした哀しさ誘う「マーラのテーマ(ちなみにこういうタイトルのトラックはない)」である。劇中、このテーマがあれこれと姿を変え、随所に登場する訳だが、実際、この悲恋の物語はこの音楽なくして....というくらいに映画を大きく盛り上げていたと思う。ついでにいえば、アルトサックスがとろけるようにスウィートでノスタルジック旋律を奏でる「ステファーノ」も素晴らしい。基本なジャジーな音楽なのだが、実は地中海の海を望むような壮麗さがある実にイタリアらしい音楽で何度聴いても陶然として聴き惚れてしまう(ちなみにこれも劇中に何度も登場する)。

 という訳で、数あるイタリア映画の音楽でも非常に好きな一作である。このサントラを聴くと、この映画自体のことはあまり思い出さないけれど、20代はじめの頃、映画に耽溺していた時の自分のあれこれを思い出したりもしてしまう。もっとも、当時聴いていたのは、このサントラではなくキングから出ていたヨーロッパ映画音楽名作選みたいなものに収録されていた、確かルスティケリ自身のオーケストラかなにかの演奏だったように思う、プーベとマーラのテーマがあわさったアレンジだった(この時期にキングがよく出していたセブンシーズ音源のヨーロッパの映画音楽集、オリジナルサントラではないけれど、趣味のいい演奏が多かったように思う。復刻してくれないかなぁ)。サントラを入手したのはもっともっと後のことだ。
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ウィントン・マルサリス/シンク・オブ・ワン

2009年11月27日 00時45分38秒 | JAZZ
 こちらは82年の第2作。諸先輩方に招いて多少顔見せ的なところがないでもなかった前作の内容からすれば、こちらが実質的なデビュー作といえるかもしれない。出来の方も前作より数段良い仕上がりだ。メンツはブランフォード・マルサリス(サックス)、ケニー・カークランド(ピアノ)、ジェフ・ワッツ(ドラムス)、レイ・ドラモンド、フィル・ボウラー(ベース)という、第一期マルサリス・バンドの面々だが、おそらく当時はマルサリスを筆頭に「60年代の新主流派の後継者」たらんとして、音楽的な理念を共有していたのだろう。マルサリスの音楽だからあくまで理知的だが、それでも今このアルバムを聴くと、当時のこの世代の持っていた意気軒昂さがけっこう伝わってきたりして、実にフレッシュである。

 1曲目の「ノーズ・モウ・キング」は久々に聴いたが改めて圧倒的された。短いモチーフをテーマに即座にインプロに移行、ここでのマルサリスの超高速フレーズ、バンド全体のスピード感、パワーは凄さまじく、この時期のマルサリスの音楽の持つ「無敵な人」ぶりが良く伝わってくる。音楽はいったんテンポを落としブランフォードがソロを担当、その最後にピアノが入ってくると、再びテンポを上げて本格的なカークランドのソロへと雪崩れ込んでいくテクニカルな構成もいうことなしだ。2曲目「フューシャ」はトランペットとサックスが微妙なハーモニーを織りなすまさに新主流派的作品で、カークランドの印象派風なピアノがいい。3曲目「マイ・アイディアル」は比較的オーソドックスでリラックスした4ビート作品。4曲目「ホワット・イズ・ハプニング・ヒア」も「フューシャ」同様新主流派的作品、ピアノ~ベースとソロが続くと一旦テーマが回帰して、ウィントンとブランフォードなソロを同時進行しつつフェイドアウトするちょっと変わった構成だが、このままあと2分くらい続けてもよかったかな。

 5曲目のタイトル・チューンはその後マルサリスが折りにつけ開陳することになるブルース、ルーツ系(ディキシー)の音楽的要素を見せた曲。どことなくユーモラスでハードボイルドな表情はマルサリス独特なものだが、個人的にはこういう作品のおもしろ味を未だに感じることができないのは残念だ。6曲目「ザ・ベル・リンガー」は、新主流派的作品で、どことなくトロピカルな曲調のせいか、「処女航海」の頃のハンコックの影響がちらつく。ベースがやけにオールドスタイルな8ビートやボサノバに接近したりするポップな感触は60年代のジャズロックの線だろうか。7曲目「レイター」はイントロこそルーツ系な感じだが、本編はばりばりとソロが展開する正統派の作品。 ラストの「メランコリア」はもろにマイルス風のミュートをフィチャーしたバラード作品。こういう曲でのマルサリスはほぼ文句のつけようがないソロを展開する。

 という訳で、こちらは久しぶりに聴いたらこちらの作品は実によく楽しめた。ひょっとすると十数年前より楽しめたかもしれない。きっと、あの当時はこちらが求めている「マルサリスのジャズ」が、例えば「ノーズ・モウ・キング」みたいなテクニカルでスピード感ある4ビート作品ばかりだったのがいけなかったのだろう。今ではこちらジジイになって(笑)、彼がやっている音楽にもう少し寛容になったのが幸いしているのかもしれない。ともあれ、しばらくウォークマンにでも入れて、繰り返し聴いてみようと思う。
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