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伊福部昭の芸術7 わんぱく王子の大蛇退治/本名&日本PSO

2006年03月15日 00時47分50秒 | クラシック(20世紀~)
 シリーズ第7作は映画音楽からの編曲もの2つ取り上げています。ひとつは91年の「ゴジラvsキングギドラ」で、もうひとつは63年の「わんぱく王子の大蛇退治」となる訳ですが、前者は交響ファンタジーと名付けられているとおり、パート3まで作られた交響ファンタジー・シリーズのある意味完結編ともいえる内容です。後者は東映のアニメに付けられた音楽ですが、「ゴジラ伝説II」で取り上げたのがきっかけだったのか、近年、著しく再評価の機運が高まってきたことから、先生を拝み倒して(?)交響組曲としてまとめられたもののようです。

 まず交響ファンタジー「ゴジラvsキングギドラ」ですが、同名映画からの音楽が6曲ほど選ばれ、これまで同様接続風に並べられています。おもしろいのは、映画には出てこなかった「倭太鼓とオーケストラのためのロンド・イン・ブーレスク」のショートヴァージョンが途中何故か出てくることです。いかなる意図でこれが入ったのかはわかりませんが、ともあれ、これが入っていることをアリバイに SF交響ファンタジーの第1~3番の後にこれを置いて聴くと、「倭太鼓とオーケストラのためのロンド・イン・ブーレスク」で締めるより、遙かにSF交響ファンタジーの完結編として相応しい印象を受けるんですね。第1番には「地球最大の決戦」でギドラのテーマやキング・コング輸送作戦の音楽が出てきますから、それらを流用した「ゴジラvsキングギドラ」は調度、主題再現部のような趣があるし、オーラスは第1番の冒頭と同じゴジラのテーマになりますからなおさらです。ひょっとしてこれは意図的なものだったんじゃないかと邪推したりもしているのですが、ともあれ、暇があったら「SF交響ファンタジー」是非この構成で聴いてみてください、楽しめること請け合いです。

 次に交響組曲「わんぱく王子の大蛇退治」ですが、こちらは時間にして30分近い大作です。前述の通り「ゴジラ伝説II」の冒頭にメインタイトルが収録されをきっかけで評価が高まった作品だと思うのですが、メインタイトル以外をきちんと聴くのは多分初めてでしょう。この映画はアニメであることから、一般映画に比較して、音楽による情報量に依存する部分が大だったらしく、先生が単なる劇伴以上の音楽を作らねばならなかったこと、またテーマが日本神話に属するような話だったため、日本の古代を想起させるような音楽が要求されたこと、などを併せて先生の純音楽の分野での諸作品に近い語法が多数取り入れらることになったと推察されます。ともあれ、随所に「日本狂詩曲」や「土俗的三連画」等を思わせる響きが聴かれるのは、ちょっとはっとするような楽しさがあります。また、第三章の「アメノウズメの舞」は短いながら雑多な音楽語法が特異なリズムにのって展開される極めて伊福部的な音楽になっていますし、2回ほど歌曲風に登場する「子守歌」の美しさなど、全編を通じて聴き所満載というべきでしょう。先生が存命中にこうした形でまとめられたことに、我々は感謝しなければいけません。

 そんな訳で、2本の映画音楽から組曲風にまとめた作品を聴いた訳ですけど、こういうのは先生の物故に伴い打ち止めになるんでしょうかね。個人的には無闇にスコアに手を入れないことを前提として、作品単位で再録音をし続けてもらいたい。欧米では散逸したスコアは修復したり、再構築したりして再録音することだって普通な訳ですから、特撮物はもちろん、一般映画の方もこれからはぜひ再録音してもらいたいものです。ただ、まぁ、やはり先生の遺志としては、もうこれ以上映画音楽の方はあれこれほじくり返さないで欲しいということなんだろうなぁ。
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