透明タペストリー

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「張込み」

2018-03-27 | A 読書日記



 『張込み』松本清張短編全集3/光文社を読み始めた。

表題作「張込み」は映画化され、また何回もテレビドラマ化もされている。映画ではヒロインの横川さだ子を高峰秀子が演じ、ドラマでは山岡久乃、中村玉緒、八千草薫、吉永小百合、大竹しのぶ、鶴田真由ら、有名女優が演じている(ウィキペディアによる)。いつ頃のことか分からないが、この映画をテレビで観たことを覚えている。だがドラマを観たという記憶はない。

なぜ「張込み」が繰り返しドラマ化されたのか・・・。それはこの作品が悲恋物語として読めるからではないかと思う。あとがきによると松本清張もはじめは推理小説とは考えていなかったという。

東京目黒で起きた強盗殺人事件は、はじめ単独犯行だと思われた。だが逮捕された男の供述により共犯者がいることが分かる。共犯の男、石井久一の昔の恋人が結婚して九州にいることが明らかになり、肺を病む石井は昔の恋人に会いに行くのではないか、という意見が捜査会議で出る。

で、刑事の柚木(ゆき)が九州に出向き、さだ子の家の向かいに偶々あった旅館の2階の部屋で張込みを始める。さだ子は28歳、亭主は20も年上。さだ子は恋愛の経験の想像も感じさせない平凡な主婦の印象。亭主が決まった時刻に家を出ると掃除、編物、洗濯、買物・・・、単調な日々の繰り返し。

**石井は死ぬ決心でいる。彼は他に女もいない。逃げまわっている彼がこの女に会いにくるかもしれないという見方を捨てることはできない**(19頁)と柚木は思う。

張込みを始めて五日目、いつもとは違う服装のさだ子が出かけていく。見込み通り、石井はさだ子に会いにきていた。**柚木が五日間張りこんで見ていたさだ子ではなかった。あの疲労したような姿とは他人であった。別の生命を吹き込まれたように、躍りだすように生き生きとしていた。**(31頁)ふたりの様子を見た柚木はこう感じる。

鄙びた温泉の宿で石井は逮捕される。柚木がさだ子に告げる。**「石井君は、いま警察まできてもらうことになりました。奥さんはすぐバスでお宅にお帰りなさい。今からだとご主人の帰宅に間に合いますよ」** 

今再びドラマ化されるとしたら、さだ子を演じる女優は誰が好いだろう・・・。


 


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2 コメント

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張込み (雨あがりのペイブメント)
2018-04-14 11:57:56
「張込み」好きな作品の一つです。
小説もいいが、映画もいいですね。
「張込み」。犯人を捕らえようとする刑事の目が光る。最も基本的な視点ですね。
この作品が好きなのは、潜んでいた女の情念が、犯人と再会することによって燃え上がっていく女心を描き、当然その行く末には現在の夫との生活に破たんを及ぼすことが予想されます。一転して若い刑事の柚木が女に向かって言う台詞にしびれてしまいます。「奥さんはすぐバスでお宅にお帰りなさい。……」
 最後のこのセリフを味わいために何度此の短編を読んだことでしょう。
映画も良かったですね。
 若い柚木刑事に大木実、老刑事に宮口精二(絶妙のコンビでした)。高峰秀子もいいですね。
 余談になりますが、「顔」も好きな作品の一つです。
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雨あがりのペイブメントさんへ (U1)
2018-04-15 14:03:59
コメントありがとうございます。
松本清張の作品はかなり読みましたが、
初期の短編は好きです。
今日、NHKのラジオ番組で砂の器の「宿命」を聴きました。
この映画も印象に残っています。
DVDを借りて観たいです。
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