透明タペストリー

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「火の路」松本清張

2023-11-11 | A 読書日記


 松本清張の長編小説『火の路』(文春文庫2021年上下巻とも新装版第3刷)読了。初読は1978年7月。

松本清張が飛鳥時代の謎の遺跡に関する自説をこの主人公に語らせる「論文小説」。酒船石や益田岩船、猿石など飛鳥の石造物の謎を大学の史学科助手(助教)の若い女性が解き明かす。ペルシャ(古代イラン)に始まったゾロアスター教と大いに関係があるとする論考。尚、主人公の女性の出身地は長野県南安曇郡三郷村(現在の安曇野市三郷)という設定。

上下巻合わせて1,000頁近くにもなるボリュームに実に緻密な論考を展開している。推理小説という体裁を取っているが、松本清張にとってそれは便宜的なものだっただろう。それにしても松本清張の知的好奇心、探求心は凄いとしか言いようがない。


**益田岩船の上部平面で東西にならぶ二つの方形穴は、拝火壇の火を燃やす用途であったと推測したいのである。つまり岩船ぜんたいがゾロアスター教の拝火壇と基壇とを兼ねた石造物と考えるのである。**(下巻375頁)

益田岩船は確か花崗岩ではなかったか、花崗岩は火に弱いのでは・・・。松本清張は読者(考古学や古代史の研究者)のこのような指摘を想定して次のような回答を用意している。

**たしかに花崗片麻岩は火に弱く、長い期間火に当てると表面の雲母質が剥離する。岩船の方形穴には焼けて黒く変色したあともなく、剥離の状況も見られない。しかし、これは千三百年間も野天にさらされた風化によってその痕跡が消失したからであろう。事実、岩船の風化は相当にすすんでいる。また、穴には雨水が溜まり、雪が詰まるので、変色を消す役目もする。それに焚火の行事も短い期間であった。方形穴の部分が黒い焦げあとを残すのも、剥離するにもいたらなかったであろう**(下巻377頁)


 


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