透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「紅葉賀」

2022-04-27 | G 源氏物語

「紅葉賀 うりふたつの皇子誕生」

 光君が若柴と出会った時、その少女はまだ10歳だった。この7帖では57,8歳の熟女が光君の恋(?)の相手。この熟女、次のように紹介されている。**さて、年配の典侍(ないしのすけ)がいた。彼女は家柄も立派で才気があり、気品もあって人から尊敬もされているが、ひどく好色な性分で、その道ではじつに軽々しいことをする。**(240頁)「光君はいろんな女性と恋をする」紫式部はこのように考えていて、この女性も登場させたのだろう。

「紅葉賀」は藤壺が光源氏にうり二つの男の子を出産するという大切な帖なのだが、ラブコメディの観がある。ラブコメを演ずるのは、光君と頭中将と熟女の3人。

60歳近いのに色恋が現役の典侍だと聞いた光君は、好奇心からこの女性と一夜を共にする。女性のことを聞きつけた頭中将は**女のことなら隅々まで手抜かりのない自分でも、あの女のことは考えもつかなかった、とはっとする。いくつになっても衰えない典侍の好き心に、にわかに興味を覚えた頭中将はとうとう典侍と懇ろな仲になってしまった。**(242頁)

典侍は頭中将とのことを光君にひた隠しにしている。ある夜更け、典侍の部屋に光君がいるところに頭中将がそっと入りこむ。**頭中将は、自分だとわからせないように何も言わず、ただすさまじく怒っているふうを装って、太刀を引き抜いた。**(244,5頁)*

この後、修羅場にはもちろんならず、**二人とも恨みっこなしの、同じくらいしどけない姿でいっしょに帰っていった。**(246頁)

翌朝、典侍から光君に届いた手紙には、うらみてもいふかいぞなきたちかさね引きてかへりし波のなごりに とあった。典侍って恋の経験が豊富な熟女だねぇ。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「九紋龍」読了

2022-04-27 | A 読書日記



■ 
晴読雨読な日々。昨日(26日)は羽州ぼろ鳶組シリーズ第三弾、『九紋龍』今村翔吾(祥伝社文庫2022年第14刷)を読んだ。

本作のメインキャストのひとりは本のカバーに描かれている男(写真)。**辰一は不敵に笑うと、右手を寅次郎の股の間へ差し込んだ。そして野獣の如く咆哮すると、何と重さ四十五貫目(一六八キロ)もの巨漢の寅次郎を高々と持ち上げてしまった。**(110頁)という「に組」の頭、九紋龍の辰一、最強の町火消。尚、寅次郎は元幕内力士、ぼろ鳶組の壊し手の要。

それから、御家老に代わり江戸に入ってきた出羽新庄藩の御連枝、戸沢正親(三代藩主の孫)。御連枝という身分でありながら、**領内の村で遊び惚けたり、城下で酔いつぶれたり、酷い時などは鉄火場で博打を打っていることもあった。**(45頁)という男。

この御連枝、**「鳶の俸給を減じ、その他火消道具などへの費(つい)えを五箇年差し止める」**(84頁)と宣言。しかも主人公・松永源吾が率いる新庄藩の方角火消について**「方角火消のお役目は、免じられるようにお頼みするつもりだ」**(86頁)と。これには源吾も肩を落として項垂れるばかり・・・。

辰一といい、この御連枝の正親といい、登場した時の印象は全く良くないが、終盤になると読んでいて涙が出るほど好い人物になっている。ストーリーの展開がなかなか面白い。

今回、ぼろ鳶組の「相手」は盗賊、千羽一家。**まず夜更けに一軒ないし二軒に火を付ける。それが燃え上がれば、火消たちが太鼓や鐘を打ち、庶民は一斉に野次馬に出るか、避難を始める。その隙を衝いて盗みを働くのだ。**(13頁)その時一家皆殺しにするという極悪非道ぶり。

やがて明らかにされる辰一の悲しい過去、千羽一家との関係。

物語の最終第六章「勘定小町参る」を読んで、それまで緊張していた気持ちが和む。テレビドラマの事件ものでは事件が解決した後に、しばらくまえからはやっている医療ものでは難しい手術が無事終わった後に、スタッフが冗談を言い合って和むシーンがあるけれど、この最終章はその拡大版といったところ。

新庄藩の特産品・工芸品を、全国各地から集めた商人相手に披露、彼らに競わせ少しでも高く売る商人披露目の義。新庄藩の財政立て直し策の一環。その交渉役に源吾の妻、深雪が指名される。談合を防ぐために深雪が取った、なるほど!な策。途中、誰がつくったものか、という商人の質問に深雪が窮する。その時、襖が勢いよく開け放たれて、あの正親登場! 具体的な説明から、正親が領民に精通し、民に寄り添っていたことが明らかに。好い場面だ。それにしても海千山千の豪商を相手に入札を仕切った深雪はすごい。ますます惹かれる存在になった。そしてラストの落ちが好い。読者には深雪ファンが多いようだが、この章は作者、今村翔吾のファンサービスだろう。