■「生還物」などというジャンルがあるのかどうかは知らないが、奇跡の生還を果たした人の手記、ドキュメント本は案外多い。
『ミニヤコンカ奇跡の生還』独占手記 松田宏也/山と渓谷社 には凍傷におかされて指が真っ黒になった手と足の写真が載っている。
『凍』沢木耕太郎/新潮文庫の妙子さんも凍傷になって炭化して真っ黒になった手の指を十本とも付け根から切ってしまったが、おそらくこんなだったんだろうなと思って写真を見た。
昨日『凍』を一気に読了した。午前中200ページくらい、午後久しぶりのカフェシュトラッセで残りの150ページ。
この本で特に感動的なのは第十章「喪失と獲得」(全十一章)だ。この章を読みながら、涙をこらえることが出来なかった。
**指はまったくなくても、手のひらで包丁の柄を包み込むようにして持って切ることができるようになったのだ。やがて二本の箸を使えるようになった。親指と人指し指の間にわずかに残った股にはさみ、手のひらに包み込んで、コントロールする方法を体得したのだ。**
指が無くなっても悲観することなく、前向きに生きる。その姿勢に感動した。泣けた。
他にも感動的なところは何箇所もあるが次の箇所を引用しておく。**死ぬ人は諦めて死ぬのだ。僕たちは決して諦めない。だから、絶対に死なない。**
池澤夏樹の解説文の最後に**山野井泰史と妙子はギャチュンカンから五年後の二〇〇七年、グリーンランドで標高差千三百メートルという岸壁に挑戦し、十七日かけて登頂に成功した。凍傷で得たハンディキャップを前提として次の山に挑む。そこが次の出発点になる。**とある。
どこまでもすごい夫婦だ。