みちしるべの伝説

音楽と希望は刑務所でも奪えない。

音楽嗜好症(ミュージコフィリア)

2016年02月08日 | 
今更と言われそうだけど、「音楽嗜好症(ミュージコフィリア)」読了。
実に興味深い内容だった!
脳神経科医オリバー・サックス氏によって、綴られた、音楽エッセイですね。
音楽にまつわる様々な症例、摩訶不思議な現象が著されていて、どれも、とても興味深い。
(クラシック音楽、古の大作曲家たちも、脳神経医学的見地から語られていたりする。)

氏は、こよなくクラシック音楽を愛していることが、よく分かる。
文章からは、優れた医師ならではの、人間に対する優しさ、温かみが感じられる。(翻訳もいいんだろう…。)
「哀歌」の章には、思わず、目頭が熱くなったなあ・・・。

・雷に撃たれて、急に音楽の才能に目覚めた医師
・ある音程の音が引き金になっておこる癲癇の発作
・幻聴(無音の環境が引き金になる。頭の中のiPod。老齢になるとよくあるんだあ・・・。)
・絶対音感があっても、それ以外の音楽的センスに恵まれない例
・どんな音楽でも雑音にしか聞こえない人
・特定の音だけ、音程がズレて聞こえる難聴
・様々な音痴(音程の音痴、リズムの音痴、音の連なりの音痴・・・。)
・音楽と感情が結びつかない症状(長調と短調の区別がつかない障害・・・。)
・音にとても敏感なウィリアム症候群
・練習のしすぎで楽器が弾けなくなるジストニー症
(奇跡の復活をしたピアニスト、レオン・フライシャーの話も紹介されていた。
 シューベルトのさすらい人幻想曲には要注意かも???)
・共感覚(音と色、音程と色、調性と色、数字や曜日と色・・・。)
・音楽を演奏している時だけ、落ち着きを取り戻すトゥレット症候群
・記憶が数秒間しか持たない深刻な健忘症でも、音楽の記憶は失われない音楽家
・話はできなくても、歌は歌える症例

極めつけに興味深かったのは、絶対音感の起源についての考察。
・言語の特性上(声調言語)、中国人とベトナム人etc.は絶対音感が得られる割合が、高いこと。
・生まれたばかりの赤ちゃんは、絶対音感をもつこと。
(赤ちゃんは音程の異なる「ママ」「パパ」を、別の言葉として認識してしまう。
そのことからして、恐らく、大昔の人類の言語は、音程に意味を持たせていた?進化の過程で、絶対音感を捨てることて、言語能力を発展させた?)(高校の生物で習った「個体発生は進化を繰り返す」ならば)

ある意味、足の引っ張り合い(抑制)でバランスをとっている脳の仕組みも興味深い。
脳卒中などで、音楽の能力を抑制している部分が障害を受けることで、音楽の才能が急に伸びる症例が興味深かった。
脳の抑制の仕組みをすり抜けて、才能を伸ばすためには、やっぱり「夢中になる」ことが、とても大切なんだと気づかされる。

パーキンソン病の章で興味深かったのは、「始めること」と「続けること」は、脳の全く別の部位が受け持っているということ。
(ピアノ演奏中に止って、どうしても途中から引き直せないことが多いので、ものすごく納得できる!)

2つのタイプの記憶
エピソード記憶と意味記憶。
エピソード記憶は脆いが、意味記憶は強靭。音楽に関する神経細胞も、とても強靭。
アルツハイマーでエピソード記憶が破壊されても、意味記憶は残る。
音楽の記憶も残る。
アルツハイマー病でも、演奏会で完璧な演奏ができるピアニストの例も興味深い。
人間にとって、音楽が、特別なものであることが分かるし、最後の最後の救いになるだろうと言うこと。

本当に音楽の才能に恵まれた人が、どのように音楽を感じているのかも、いろいろ記されていて、興味深かった。
(分かる人には分かる、自分のような凡人には及びもつかない、音楽の喜びの世界があるんだなあ・・・。)

音楽を聴くとき、脳は、音程、メロディー、リズム、音質、ハーモニー様々な要素を瞬時に、絶妙に、それこそ神業的に処理している。
人に備わった、音楽を感じ取る能力は、実は、大変な恩寵(ギフト)なんだなあ、と改めて思う。

音楽好き(クラシック音楽好き)な方には、とてもお勧めできる本です。
特に、音楽療法を志す人には、ほとんどバイブルとも言える、必読の書だと思う。

先日の新聞の書評に、オリバー・サックス氏の記事があり、少し前に、亡くなられていたことを知りました。ご冥福をお祈りします。)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/08/31/oliver-sacks-dies-at-82_n_8063310.html


朝日新聞のオリバーサックス氏の記事?
http://nandemokou.exblog.jp/23748986
この心境で、日々を過ごしたい。

音楽嗜好症: 脳神経科医と音楽に憑かれた人々 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
クリエーター情報なし
早川書房

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