タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

胚盤胞はエイリアンです

2021-03-19 20:43:58 | 不妊症
写真は、30年前の私の論文から取ったものです。
妊娠したマウスの子宮の中の電子顕微鏡写真なのですよね。
天理に居た4年間、毎日、仕事が終わってから、研究施設に残って、顕微鏡で観察していたのです。
朝は夜明け前から病院に行って、マウスを妊娠させては、標本を作成していたのです。
あの頃が懐かしいのですよ。

マウスの胚盤胞(T)が子宮内膜上皮(End)を剥がしながら、基底膜(BL)の下を横方向に潜り込んで行くところです。
胚盤胞とは、受精卵が育ったもののことなのですが、
エイリアンのように、子宮の防御膜を縦方向と横方向に剥がしながら潜り込むのです。
何も子宮が受け入れているわけではないのですよね。
侵食していく相手は卵管や腸の表面だって良いわけです、子宮外妊娠のようにね。
その後、また何もなかったかのように、子宮内膜は修復されていき、そこで胎児が育っていくのですよ。

なぜこんな話を思い出したかと言うと、今月号の「ママになりたい/胚移植」という書店に並ぶ雑誌に、特集記事が有ったからです。
ですが、最近は本屋さんがどんどん潰れていってしまっているので、あまり雑誌を読まれないかな?
ここに「着床のようす」という図解が有るのですが、ちょっと間違っているので、今、訂正しているというわけなのですよ。
30年前にちゃんと英文にしておけば、教科書に載っていたかもしれないですよ。

この雑誌には、もう1つ特集として、「不妊治療は保険適用化、ドクターたちは、体外受精の保険適用化に賛成なの?反対なの?」というのが有りました。
しかもアンケートの答えの1番目が私の意見でしたよ。
「高度医療は保険にすべきではない。医療の進展を阻害することになる」というものです。
もちろん助成費用を上げることには賛成なのですが、保険適用化には反対だという意味です。
みなさんのお産だって、保険適応になってしまうと、その範囲の中で安く仕上げないといけないので贅沢はできません。
そんな未来を想像してみたらすぐに分かることです。

他の先生では、ARTの適用も増えるので質が低下する、という意見も有りました。
だれでも安く受けられるとなると、本当の適応患者さん以外も受けることになるということでしょう。
そうなると少しでも安く仕上げるために高価なインキュベーターや培養液を使わなくなるので、という意味も有るのです。
それで結局は妊娠成功率が下がってしまう、ようするに、医療の進展を阻害することになると、元に戻るのです。

後は、人工授精なら保険にしても構わない、という意見は多かったですよ。
私もこれには賛成です。
高度不妊治療にしか助成が無いので、一般不妊治療の人工授精を跳ばしてしまうことになりますからね。