竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集 集歌3960から集歌3964まで

2022年12月20日 | 新訓 万葉集
相歡謌二首
標訓 相歡(よろこ)びたる謌二首
集歌3960 庭尓敷流 雪波知敝之久 思加乃未尓 於母比氏伎美乎 安我麻多奈久尓
訓読 庭に降る雪は千重(ちへ)敷く然(しか)のみに思ひて君を吾(あ)が待たなくに
私訳 庭に降る雪は千重に大地を覆い積もる、しかしその程度に思って貴方を私が待っていたのではありません。

集歌3961 白浪乃 余須流伊蘇末乎 榜船乃 可治登流間奈久 於母保要之伎美
訓読 白波の寄する礒廻(いそま)を榜(こ)ぐ船の楫取る間(ま)なく思ほえし君
私訳 白波が打ち寄せる磯の廻りを操って行く船の楫を艫の穴に差し込む後の隙間もないほどに慕っていた貴方よ。
右、以天平十八年八月、掾大伴宿祢池主、附大帳使、赴向京師、而同年十一月、還到本任。仍設詩酒之宴、弾縿飲樂。是也、白雪忽降、積地尺餘。此時也、復、漁夫之船、入海浮瀾。爰守大伴宿祢家持、寄情二眺、聊裁所心
左注 右は、天平十八年八月を以ちて、掾(じやう)大伴宿祢池主、大帳(だいちやうの)使(つかひ)に附きて、京師(みやこ)に赴向(おもむ)きて、同年十一月に、本任(もとつまけ)に還り到れり。仍(よ)りて詩酒の宴(うたげ)を設けて、弾縿(だんし)飲樂す。是に、白雪の忽(たちま)ちに降りて、地(つち)に積むこと尺餘なり。この時に、復(また)、漁夫の船、海に入りれ瀾(なみ)に浮かぶ。ここに守大伴宿祢家持、情(こころ)を二つ眺めて寄せて、聊(いささ)かに所心(おもひ)を裁(つく)れり。

忽沈狂疾、殆臨泉路。仍作謌詞、以申悲緒一首并短謌
標訓 忽(たちま)ちに狂疾(きうしつ)に沈み、、殆(ほとほと)に泉路に臨めり。仍りて謌詞(かし)を作りて、以ちて悲緒(ひしよ)を申べたる一首并せて短謌
集歌3962 大王能 麻氣能麻尓々々 大夫之 情布里於許之 安思比奇能 山坂古延弖 安麻射加流 比奈尓久太理伎 伊伎太尓毛 伊麻太夜須米受 年月毛 伊久良母阿良奴尓 宇津世美能 代人奈礼婆 宇知奈妣吉 等許尓許伊布之 伊多家苦之 日異益 多良知祢乃 婆々能美許等乃 大船乃 由久良々々々尓 思多呉非尓 伊都可聞許武等 麻多須良牟 情左夫之苦 波之吉与志 都麻能美許登母 安氣久礼婆 門尓餘里多知 己呂母泥乎 遠理加敝之都追 由布佐礼婆 登許宇知波良比 奴婆多麻能 黒髪之吉氏 伊都之加登 奈氣可須良牟曽 伊母毛勢母 和可伎兒等毛婆 乎知許知尓 佐和吉奈久良牟 多麻保己能 美知乎多騰保弥 間使毛 夜流余之母奈之 於母保之伎 許登都氏夜良受 孤布流尓思 情波母要奴 多麻伎波流 伊乃知乎之家騰 世牟須辨能 多騰伎乎之良尓 加苦思氏也 安良志乎須良尓 奈氣枳布勢良武
訓読 大王(おほきみ)の 任(ま)けのまにまに 大夫(ますらを)し 心振り起し あしひきの 山坂越えて 天離る 鄙に下り来(き) 息だにも いまだ休めず 年月も いくらもあらぬに うつせみの 世の人なれば うち靡き 床に臥(こ)い伏し 痛(いた)けくし 日し異(け)し益(ま)さる たらちねの 母の命(みこと)の 大船の ゆくらゆくらに 下恋(したこひ)に 何時(いつか)かも来むと 待たすらむ 心寂しく はしきよし 妻の命(みこと)も 明けくれば 門に寄り立ち 衣手を 折り返しつつ 夕されば 床打ち払ひ ぬばたまの 黒髪敷きて 何時(いつ)しかと 嘆かすらむぞ 妹(いも)も兄(せ)も 若き児どもは 彼此(をちこち)に 騒き泣くらむ 玉桙の 道をた遠(とほ)み 間使(まつかひ)も 遺(や)るよしもなし 思ほしき 言伝(ことつ)て遣らず 恋ふるにし 心は燃えぬ たまきはる 命惜しけど 為(せ)むすべの たどきを知らに かくしてや 荒(あら)し男(を)すらに 嘆き伏せらむ
私訳 大王の御任命に従って、立派な男である大夫の心を振り起こし、足を引きずるような険しい山坂を越えて、都から離れた鄙に下り来て、息さえも未だ休めず、年月も幾らも経っていないのに、現実のこの世の人間だから、打ち倒れて床に横倒れ伏し、身が痛むことは日一日と勝ってゆく。心を満たしてくれる母上の、大船のように思いを揺らして、心の内は、いつかは帰って来ると待たしているでしょうと、私の気持ちはさみしい。愛しい妻の貴女も、朝が明ければ家の門に寄り立ち衣の袖を折り返して、夕方になれば床を打ち刷き払い、漆黒の黒髪を床に靡きかせ敷いて、何時になれば逢えるのかと、嘆いているでしょう。妹も兄も、若い子供たちは、あちらこちらに騒ぎ泣くでしょう。立派な鉾を立てる官道が遠いので、使者をやるすべもない。思うことを言伝として遣ることもなく、貴女を慕うのに気持ちは燃える。寿命を刻む、その命は惜しいけど、命を永らえるのにどうしてよいのか方法が判らないので、このように荒々しい男ですら、嘆き伏している。

集歌3963 世間波 加受奈枳物能可 春花乃 知里能麻我比尓 思奴倍吉於母倍婆
訓読 世間(よのなか)は数(かづ)なきものか春花の散りの乱(まが)ひに死ぬべき思へば
私訳 人のこの世は数えることが出来ないものでしょうか。春の花の散り乱れる、その季節にまぎれてこのまま死ぬはずだと思うと。

集歌3964 山河乃 曽伎敝乎登保美 波之吉余思 伊母乎安比見受 可久夜奈氣加牟
訓読 山川の退方(そきへ)を遠み愛(は)しきよし妹を相見ずかくや嘆かむ
私訳 都と隔てる山川の果てが遠く、愛しい貴女に逢うことないので、このように嘆くのでしょう。
右、天平十九年春二月廿日、越中國守之舘、臥病悲傷、聊作此謌
左注 右は、天平十九年春二月廿日に、越中國の守の舘にして、病に臥し悲傷(かな)しびて、聊(いささ)かに此の謌を作れり。

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