アメリカン・コミュニティ 渡辺 靖 新潮社
本書は「アフター・アメリカ」に続くアメリカの現地調査報告である。前著はボストンに長期滞在し、市内の上層階級と下層階級の比較を通してアメリカの現状を分析するという趣向だった。今回は原理主義、超高級住宅街、巨大教会など九つのコミュニティの今日的状況を探りながら、アメリカ現代社会を読み解くというものだ。短期取材のミニレポートという感じで前著ほどの重厚さはないが、大変読みやすい。どちらかというと終章のまとめの部分が著者の力量が発揮されて読み応えがある。
それにしてもアメリカの懐の深さには驚きを禁じえない。宗教原理主義を実践する集団が地域の中で受け入れられて共存しているのを見ると、日本ではこうはいかないよなあというのが素朴な感想。筆者は「いろんな選択肢が社会の中に担保されていて、それを認め受け入れる地元地域やアメリカ社会に敬意を抱く」と述べている。社会の中にさまざまなカウンター・ディスコース(対抗言説)を擁していて、それぞれがせめぎ合いながら、永遠に革命を続ける自由が保証される社会はかなり手ごわい。
中国とは「自由」という視点で対極にある社会だと言えよう。(どちらも帝国という色彩が濃いが) しかしアメリカの自由を許容する態度が他国との外交で発揮されていないのが今最大の問題ではないかと思われる。世界の各国がそれぞれの価値観によって進みながら、かつ共存できる状況を作るためにアメリカは努力すべきだ。