読書日記

いろいろな本のレビュー

ゆめいらんかね やしきたかじん伝 角岡信彦 小学館

2014-12-09 15:40:50 | Weblog
 やしきたかじんは『そこまで言って委員会』の司会者として関西では有名だった。この番組はやしきの意向で東京では放送されていなかったようだが、しなくて正解であった。こんな楽屋落ちの与太話を全国ネットでやったら関西の名誉に傷がつく。私はテレビでいやな感じだなあと思う人間が3人いた。島田紳助とやしきたかじんと橋下徹である。島田とやしきは橋下を担いで大阪府知事に当選させた。その後、大阪の教育・文化はコストカットの名目の元、荒野と化した。なんで芸能人が電波を私物化して政治屋をこしらえる権利があるのかという怒りが未だに収まらない。それに同調する市民も市民だが、この四年間未曾有の政治が大阪で行なわれたのである。しかし、島田は黒い交際がばれて芸能界から追放され、やしきは病死、残る橋下は維新の凋落で風前の灯である。『「橋下維新」は3年で終わる』(宝島新書)と喝破した川上和久氏の慧眼には敬服する。「おごる平家は久しからず」とはまさに至言である。
 『そこまで言って委員会』でのやしきの司会ぶりは傲岸不遜そのもので、私はなじめなかった。番組自体が今話題のヘイトスピーチのようなもので、番組倫理に抵触するのではという危惧を何度も覚えた。そのやしきの出自を本書はえぐっているが、これが最大の眼目であろう。著者によると、やしきの父は韓国人で母が日本人、父は差別を恐れて母の姓を名乗らせていた。本人もそれを公にすることはなく、従って先の番組でも、ヘイトスピーチ化する流れに身一つで抗うことなく、それを助長したとある。彼自身どんな気持ちで司会をしていたのかと想像すると、気の毒になってくるが、あの傲岸不遜な態度はその弱い気持ちの裏返しであったことは間違いない。著者はもと新聞記者で、『被差別の青春』(講談社文庫)などの作品があるプロパーの作家である。被差別者に対する視線は彼独特のものがある。その著者にとって、出自を最後まで頑なに公にしなかったやしきの態度は不可解で落胆させたことはまことに残念であっただろう。
 維新の後押しをあの番組はかなり強烈にやっていたが、今度の衆議院選挙の結果を見てそろそろ方向転換して、右翼的な言動を改めた方が良いのではないかと考える。

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