
明治のお嬢さま 黒岩比佐子 角川選書
深窓の令嬢というが、この明治のお嬢さまはまさにこれを指すと言っていいだろう。このお嬢さまが通ったのが、華族女学校で後に学習院女学部と名前が変わる。こちらでは卒業アルバムに写真が載らないことが自慢だった。すなわち在学中に結婚相手が決まり退学するのがセレブの証明だったわけだ。学歴をつけてキャリアウーマンとしてバリバリ仕事というのではないのだ。女の幸せは結婚と考えられていたのである。さらに身分が高いほど束縛され、結婚相手も家格の釣り合いで決められてしまう。そのお嬢さまが頼れる武器は「美貌」。誠にわかり易い話である。
現代でも、美貌のキャリアウーマンが30代半ばになって結婚願望にとりつかれ、やたらお見合いパーティーに参加する様がテレビで取り上げられている。基本的に明治のお嬢さまと変わっていない。美貌と知性を売りにしているという点で。
明治の華族は維新の功臣が多かったが、彼らは妾を持っていた。妾は花柳界出身の美貌の持ち主が多かった。その子どもは正妻の子として扱われ、他の華族へ嫁入りする。高貴の再生産というわけだ。高貴の中の美貌はこうして営々と続くのである。この流れを見ると、人間すべて成りあがりと相対化する視点が生まれ、庶民にとっては溜飲の下がる思いである。世の中所詮こんなもんだ。